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自分の仕事③
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ぷるぷるするエミリアに、安心するように言葉を紡ぐ。
「エミリア、私には鎧神という加護があって、例えドラゴンに踏まれようが平気な身体なんだよ」
モーリスが後ろで、例え例えと繰り返す。しかし、事実だぞ。エミリアのぷるぷるが治まらない。
なんて、いったらいいんだ、思い出せ、モーリスに読まされた古今東西の恋愛小説。
「エミリア、私は君の元に必ず帰って来る。心配ないから、私は君の元に必ず帰って来る」
繰り返すしかない。
「ど、どうしても、バルド様が行くのですか?」
「そうだな。私はこのフォン辺境伯だ。私が先陣を切り、民を守り、騎士達の指揮を高めなくてはならない。そして、私には、守らなくてはならないものがたくさんある。エミリア、君もだよ」
「バルド様………」
ぷるぷるとしていたエミリアが、やっと落ち着いてきた。
「エミリア、君はきっとドラゴンが及ぼす被害を心配しているんだろうが、私がここにいる以上、誰も犠牲にはしない。必ず君の元に帰って来る、約束するよエミリア」
必死に言葉を選んで紡いでいく。そのお陰か、やっとエミリアが落ち着いてくれた。その頃に、母がやって来た。
「母上」
「バルド、支度なさい。さぁ、エミリア、私とバルドのお見送りですよ」
「は、はいっ、お義母様っ」
振り返るエミリアが母に連れていかれる。ああ、抱き締めたいなあ。
「さ、ご主人様、お支度を」
「わかった」
モーリスに先導されて支度部屋に向かう。整備に出していた鎧もマントもピカピカだ。この鎧ってのが、一人で装着出来ない。数人が手際よく、各パーツを繋ぐ紐やベルトを締めていく。
邸内はドラゴン出現により、わずかなざわめきが起こっていたが、鎧姿の自分の姿に、一様に安心した顔だ。深く頭を下げて会釈している。
焦る必要もない。
前回も何度か殴って、首の骨をへし折ったから。
騎士団も準備が整っていて、数人が走り回っている。自分が討伐するので、彼らは解体と搬送、そしてドラゴンの死骸狙いの魔物の対応だ。
顔馴染みの馬丁が、愛馬、ファランを連れてきた。なかなか気性が荒いが、どんな悪路でも鹿のように跳べる飛馬と呼ばれる種で、ヘラジカのような角がある。
「ご主人様、ファランの体調は万全でございます」
「ああ、助かる」
自分の無茶な操作に対応してくれるのは、ファランだけだ。
「フォン辺境伯様っ、揃いましたぞ」
やや白髪交じりの黒髪中年男性、騎士団長ガッズが声をかけてくる。髪を切り、騎士団の皆から、あんた誰? みたいな顔されたのは、先月だった。
「わかった」
自分は一段高い壇上に上がる。
「エミリア、私には鎧神という加護があって、例えドラゴンに踏まれようが平気な身体なんだよ」
モーリスが後ろで、例え例えと繰り返す。しかし、事実だぞ。エミリアのぷるぷるが治まらない。
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「エミリア、私は君の元に必ず帰って来る。心配ないから、私は君の元に必ず帰って来る」
繰り返すしかない。
「ど、どうしても、バルド様が行くのですか?」
「そうだな。私はこのフォン辺境伯だ。私が先陣を切り、民を守り、騎士達の指揮を高めなくてはならない。そして、私には、守らなくてはならないものがたくさんある。エミリア、君もだよ」
「バルド様………」
ぷるぷるとしていたエミリアが、やっと落ち着いてきた。
「エミリア、君はきっとドラゴンが及ぼす被害を心配しているんだろうが、私がここにいる以上、誰も犠牲にはしない。必ず君の元に帰って来る、約束するよエミリア」
必死に言葉を選んで紡いでいく。そのお陰か、やっとエミリアが落ち着いてくれた。その頃に、母がやって来た。
「母上」
「バルド、支度なさい。さぁ、エミリア、私とバルドのお見送りですよ」
「は、はいっ、お義母様っ」
振り返るエミリアが母に連れていかれる。ああ、抱き締めたいなあ。
「さ、ご主人様、お支度を」
「わかった」
モーリスに先導されて支度部屋に向かう。整備に出していた鎧もマントもピカピカだ。この鎧ってのが、一人で装着出来ない。数人が手際よく、各パーツを繋ぐ紐やベルトを締めていく。
邸内はドラゴン出現により、わずかなざわめきが起こっていたが、鎧姿の自分の姿に、一様に安心した顔だ。深く頭を下げて会釈している。
焦る必要もない。
前回も何度か殴って、首の骨をへし折ったから。
騎士団も準備が整っていて、数人が走り回っている。自分が討伐するので、彼らは解体と搬送、そしてドラゴンの死骸狙いの魔物の対応だ。
顔馴染みの馬丁が、愛馬、ファランを連れてきた。なかなか気性が荒いが、どんな悪路でも鹿のように跳べる飛馬と呼ばれる種で、ヘラジカのような角がある。
「ご主人様、ファランの体調は万全でございます」
「ああ、助かる」
自分の無茶な操作に対応してくれるのは、ファランだけだ。
「フォン辺境伯様っ、揃いましたぞ」
やや白髪交じりの黒髪中年男性、騎士団長ガッズが声をかけてくる。髪を切り、騎士団の皆から、あんた誰? みたいな顔されたのは、先月だった。
「わかった」
自分は一段高い壇上に上がる。
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