銀の鬼神とかわいいお嫁さん

エミリアとベルド伯爵家の実情⑥

　ゼズ子爵達の近況は、デリック・ゼズ子爵が文官として働き、下にいる妹二人も無事に卒業したため、少し生活にゆとりが出来ていた。だからといって、贅沢なんて程遠い生活だ。
　前回、このゼズ子爵一家と面識はない。エミリアが文通をしていたが、わざわざ遠い首都から辺境伯まで来るだけの余裕がある生活ではなかったからだ。
　エミリアの母親、レミリア嬢と関係が良好なら、きっとエミリアを案じていたはず。親権まで求めたのだから。
『影』からの報告書には、慎ましやかな一家のようだ。
　一度、こちらにご招待した方がいいかもしれない。こちらも来る時に向けて動いているが、少しでもエミリアの味方が欲しい。
　両親と相談すると、直ぐに動いてくれた。

「バルド様っ」
　
　領主教育を詰め込みでやっていると、わずかな隙間時間を見つけては、エミリアの元に通う。
　自分の姿を見つけると、たたた、と可愛らしい足音で駆けてくる。
　膝をつき、そっと両手を差し出すと、あまり綺麗ではない自分の手に、躊躇いもなく、小さな手が重なる。
　エミリアの顔色はよく、癖のない髪は手入れが行き届き輝いている。エミリアはギリギリ標準体重なかった。それもベルド伯爵家の使用人達が守ってくれていたから、なんとかなっていただけだ。出来れば三食エミリアと取りたいが、やっと本腰をいれた領主教育に、本来やらなくてはならない業務、フォン辺境伯所有騎士団の訓練などがありうまくいかない。

「やあ、エミリア。少し休憩時間なんだ、一緒にお茶でもどうかな？」

　ちゃんと本日の教師役のセバスの許可はある。

「はいっ、バルド様っ」

　嬉しそうに笑うエミリア。ああ、愛おしい。
　エミリアのすぐ近くに、二十歳過ぎの赤毛のメイド。ベルド伯爵家でエミリアを、継母ナンシーの暴力から守り抵抗した女性だ。貧しい男爵家の四女でアマリア・ドウ男爵令嬢だ。ナンシーの暴力で、結局アマリアも流血騒ぎのケガを負った。継子を義母の暴力から守ったメイドなのだが、ベルド伯爵が醜聞を恐れてある程度の金を握らせてドウ男爵を黙らせた。
　アマリアはそれを機に、実家と疎遠となり、ボロアパートで独り暮らし。夜は食堂のキッチンスタッフ、昼間は洗濯屋で働いている。ドウ男爵とは現在、少しずつ関係改善している。
　アマリア嬢は貧しい男爵家の四女、相手は後妻とはいえバックに伯爵家が着いていた。大事にしても、金と時間がかかり、ドウ男爵家は破産の未来しかない。悩んだ挙げ句にドウ男爵は、示談金を受け取った。それがアマリア嬢には、納得できなかったのだろう。紹介状も貰えず、女主人に口答えしたメイドと、噂を流されてロクな働き先もなかった。
　アマリア嬢の姉達が、時折アパートを訪れて、当時のドウ男爵家の財政の厳しさ、それを悩んでいたドウ男爵当主の苦悩を知らされていた。
　そこに、フォン辺境伯からの使者だ。
　まさに話に飛び付いたアマリア嬢。エミリアはアマリア嬢と久しぶりの顔合わせに、涙を流して喜んだ。それはアマリア嬢もだ。自分を覚えてくれてくれたと。
　深く頭を下げるアマリア嬢は、フォン辺境伯支給のメイド服を纏っていた。