銀の鬼神とかわいいお嫁さん

鐘ケ江 しのぶ

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会議と味方⑨

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「皆様。そろそろお夕食のお時間でございます」

 懐中時計を確認し、セバスが告げる。

「その様だ。バルド、エミリア嬢を連れてきなさい」

「はい」

 記憶を掘り起こし過ぎて、頭が痛い。いくら鎧神アーマーヘッドの加護があっても、この頭痛だけはどうしようもなく、だからと言って薬は加護のせいで効きやしない。
 軽く蟀谷をほぐして、執務室を出る。
 機嫌のよい、モーリスが続く。

「モーリス」

「はい」

「さっきの話を聞いて、お前は自分が恐くないのか?」

 基本的に誰かの前では『私』と言うが、気心しれている中では、自身を『自分』と言う。

「確かに思わない事はないですが、もう来ない未来でしょう? なら、恐くありませんよ。それにバルド様が今
、変わってくれたのが、嬉しく思っています」

「そうか」

 前向きな奴だが、モーリスがいてくれて、ずいぶん助かっている。自分もそうならなくては、エミリアの為に。
 エミリアの部屋に向かい、朝と同じようにノックする。

『はいっ』

 エミリアの弾んだ声。
 すぐに扉が開く、エミリアを任せた中堅メイドだ。自分を見て、ちょっと動揺しているが、すぐにいつもの様子に。す、と横に避けると、エミリアが。

「エミリア、夕食の時間だよ」

 ぽわわっ、としたエミリアの顔。わあー、いつまでも見ていられる。

「ん? どうしたエミリア?」

「あ、あのっ、バルド様が、とてもかっこよくて」

 小さな声で呟くのが、愛おしい。
 髪切って良かったっ。

「エミリアもかわいいよ」

 そうエミリアは部屋着ではなく、青のワンピースだ。髪も同じ青のリボン。自分の目の色だ。
 ああ、嬉しい。
 ぽわわっ、と赤くなるエミリア。なんてかわいいんだ。
 朝と同じようにエスコート。
 なんだ、メイドとモーリスがなにやら合図を送っている。メイドの服を示して、手のひらを上にして、ばんざい? あ、わかった。

「エミリア、それは仕立て屋が持ってきたのかい? とてもよく似合うよ」

「は、はい。その、色が素敵で………バルド様の、目の色ですから……………」

 ゴニョゴニョ。か、かわいいっ。

「気に入ってくれたようで、良かったよ」

 ぴよぴよ、とエミリアから小さな花が飛んでいるのは、気のせいではないはず。
 ゆっくりエミリアの歩調に合わせる。
 夕食は、ガチの食事会ではなく、エミリアの負担をかけないように配慮されていた。
 広間は使わず、常日頃使われる食堂を使用。食事も本格的コースではなかった。

「やあ、エミリア嬢、朝ぶりだね」

「ふふっ、バルドの目の色ね。よく似合うわ」

 ぽよよっ、とエミリアから小さな花が飛んでいる。

「さ、座ってくれ。今日はシェフの特製シチューだそうだ。エミリア嬢の口に合うといいが」

 父が優しい口調だ。母はひたすらニコニコしている。エミリアをエスコートして、椅子に座らせる。本来はメイドの仕事だが、できるだけエミリアの世話をしたい。

「バルド様、ありがとうございます」

「いいさ、エミリアは好き嫌いはないかい?」

「えっ、と、その苦いお野菜が少し…………」
 
 ピーマン的なやつか? ちょっと恥ずかしそうだ。
 ちらり、とセバスに目配せ。

「本日のメニューには苦味のある野菜は使用されておりません」

「いいかいエミリア?」

「はい」

 ほっ、とした顔のエミリア。

「さあ、頂こう」

 父の言葉に、メイド達が素早く動き出した。
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