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会議と味方③
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「あ、やっぱり」
そうじゃないかと思っていた。
自分が王家は男児をすべて切り殺してしまった。城に詰めていたかなりの数の騎士達もだ。
それに、ミュンヘナー王国でも大貴族のベルギッタ侯爵、そしてうちフォン辺境伯、マトデ将軍家まで敵に回した。
それだけではない、フランシスに熱を挙げて、それぞれの婚約者を蔑ろにして、ありもしない罪をでっち上げた。フランシスの虐められた、この言葉だけで、エミリア達を拘束し地下牢に。本来ならあり得ない。エミリアはフォン辺境夫人だし、レイナ・ベルギッタ侯爵令嬢は跡取り娘。マトデ将軍の娘だって、溺愛されていた。そんな彼女達を証言だけで地下牢なんて入れるか? 事情を聞くために、城の客間に国王達が帰って来るまで軟禁か、自宅待機だろうに。
地下牢に繋ぎ、女性の尊厳を踏みにじった。しかも、複数の人間を、わざわざけしかけて。
王家の威信うんぬんではない。
確実に暴動が起きる。
「そんなこと、貴族学校に通えば、少し考えれば分かるでしょう。しかも、カシアン王子は王族。自分とレイナ嬢との婚約は、王家が望んだこと。ベルギッタ侯爵との強いパイプ作りのための婚約よ。王族なら、理解しているはず」
貴族での結婚は、政略が多いが、それによる恩恵もある。我々貴族は、いい暮らしができるのは、それを支える人達がいるから。その人達の生活を守るための結婚なのだ。
「もしかしたらですが、フランシスは誰かにいいように手駒にされたのではないかと、思っています」
「もしかしたらでもなくそうでしょうね。ベルド伯爵にそんな知力はないでしょう。問題は、誰がフランシスやベルド伯爵を誑かしたかよ。そして、何故それが見逃されていたか、よ」
言わんとする事は分かる。
カシアン王子がフランシスに傾倒したのなら、誰かがストッパーをしたはず。まともなやつなら、地下牢になんかエミリア達を拘束させない。
「それに留守を預かっていた第二王子もだ。確かにニシアル殿下は幼い頃はよく体調は崩されたが、今は騎士団の訓練にも参加しているほどだぞ。バルド、ニシアル殿下の最後の様子は?」
父が聞いてくる。
「あー、えーっと」
頭に血が登り過ぎて、記憶が。
「えーっと、確か、あ、そうだっ」
思い出した。
外は阿鼻叫喚な様子なのに、ニシアル王子は、ベッドの上で微動だにしなかった。虚ろな目、干からびた唇、青ざめた顔、枕周囲にはずいぶん抜けた髪が散らばっていた。微かに開いた口から覗いた口の中は、血がこびりついていた。剣を突き刺しても、微動だにしなかった。そうだ、ニシアル王子から噴き出した血が、妙な臭いがした。鉄臭いより先に来た臭い。甘ったるい臭い。
「はあ、ニシアル王子は、毒を盛られていたのね」
母が自分の説明を聞いてため息ついた。
そうじゃないかと思っていた。
自分が王家は男児をすべて切り殺してしまった。城に詰めていたかなりの数の騎士達もだ。
それに、ミュンヘナー王国でも大貴族のベルギッタ侯爵、そしてうちフォン辺境伯、マトデ将軍家まで敵に回した。
それだけではない、フランシスに熱を挙げて、それぞれの婚約者を蔑ろにして、ありもしない罪をでっち上げた。フランシスの虐められた、この言葉だけで、エミリア達を拘束し地下牢に。本来ならあり得ない。エミリアはフォン辺境夫人だし、レイナ・ベルギッタ侯爵令嬢は跡取り娘。マトデ将軍の娘だって、溺愛されていた。そんな彼女達を証言だけで地下牢なんて入れるか? 事情を聞くために、城の客間に国王達が帰って来るまで軟禁か、自宅待機だろうに。
地下牢に繋ぎ、女性の尊厳を踏みにじった。しかも、複数の人間を、わざわざけしかけて。
王家の威信うんぬんではない。
確実に暴動が起きる。
「そんなこと、貴族学校に通えば、少し考えれば分かるでしょう。しかも、カシアン王子は王族。自分とレイナ嬢との婚約は、王家が望んだこと。ベルギッタ侯爵との強いパイプ作りのための婚約よ。王族なら、理解しているはず」
貴族での結婚は、政略が多いが、それによる恩恵もある。我々貴族は、いい暮らしができるのは、それを支える人達がいるから。その人達の生活を守るための結婚なのだ。
「もしかしたらですが、フランシスは誰かにいいように手駒にされたのではないかと、思っています」
「もしかしたらでもなくそうでしょうね。ベルド伯爵にそんな知力はないでしょう。問題は、誰がフランシスやベルド伯爵を誑かしたかよ。そして、何故それが見逃されていたか、よ」
言わんとする事は分かる。
カシアン王子がフランシスに傾倒したのなら、誰かがストッパーをしたはず。まともなやつなら、地下牢になんかエミリア達を拘束させない。
「それに留守を預かっていた第二王子もだ。確かにニシアル殿下は幼い頃はよく体調は崩されたが、今は騎士団の訓練にも参加しているほどだぞ。バルド、ニシアル殿下の最後の様子は?」
父が聞いてくる。
「あー、えーっと」
頭に血が登り過ぎて、記憶が。
「えーっと、確か、あ、そうだっ」
思い出した。
外は阿鼻叫喚な様子なのに、ニシアル王子は、ベッドの上で微動だにしなかった。虚ろな目、干からびた唇、青ざめた顔、枕周囲にはずいぶん抜けた髪が散らばっていた。微かに開いた口から覗いた口の中は、血がこびりついていた。剣を突き刺しても、微動だにしなかった。そうだ、ニシアル王子から噴き出した血が、妙な臭いがした。鉄臭いより先に来た臭い。甘ったるい臭い。
「はあ、ニシアル王子は、毒を盛られていたのね」
母が自分の説明を聞いてため息ついた。
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