銀の鬼神とかわいいお嫁さん

鐘ケ江 しのぶ

文字の大きさ
上 下
19 / 51

今、排するべきか?③

しおりを挟む
 モーリスが準備してくれた湯浴みを済ませて下がらせる。ここ数日、モーリスを長い時間拘束してしまった。モーリスには幼い息子が二人いる。きっと寂しい思いをさせたかもしれない。どこかで休暇を送ろう。

 さっきのベンへのワイン、マギーへの感謝、モーリスへの配慮。

 そう考えが至るようになったのは、エミリアのおかげ。もちろん、昔から、両親からも言われていた。求めた働きをしてくれるのが、当たり前と思わず、感謝の念を忘れない。エミリアがちょっとしたことでも、使用人達に感謝していたのにやっと感化されたのは、エミリアが嫁入りして何年も経ってからだ。そこからエミリアとの遅々として進まない交友が始まり、やっとちゃんとした家族になりたいと願ったのは、エミリアがミュンヘナー王国の貴族学校を卒業する歳だった。
 
 卒業したら改めて、身内だけだが、結婚式を挙げようと、準備していたのに。
 エミリアの為に仕立て上げた、花嫁衣裳が出来上がったと連絡が来た日に、手紙が届いた。

 エミリアの友人からの速達。エミリアが身に覚えのない罪で拘束されてしまったと。

 机に座り、少しずつ記憶を掘り起こす。真っ白なノートに思い出せるだけの名前や、キーワードを羅列する。

 エミリアは首都の貴族学園に通っていた。自分と結婚はしたが、実際夫婦ではない、白い結婚を続けていたので、貴族学園に通えていた。通った理由はエミリアにしては、言い経験になるし、卒業後の人脈のパイプ作りのために。
 真面目なエミリアは、真面目な友人達に囲まれて学生生活を送っていた。手紙の字がそう感じさせてくれた。

 もうすぐ、結婚式なのに。なぜ、なぜ、なぜ、なぜ、なぜ。

 目撃し、どうしようも出来なかった、ごめんなさいと、泣きじゃくるエミリアの友人の女子生徒。速達をくれた彼女は平民枠で入学して、その優秀さで、色んな貴族から嫌がらせを受けていた。そこをエミリアがいたグループが庇っていた。

 その日、卒業式とその後行われる予定のパーティーの説明だった。平民生徒は、パーティーには出ないため、退室したが、騒ぎは直ぐに始まったと。

 すべてを聞いたわけではないが、説明が行われていた講堂に入ろうにも、野次馬がすごくて入れなかった。中からは悲鳴と罵声が漏れていた。

 しばらくして、王宮の騎士達がやって来て、数人の女子生徒を連行した。その数人の一人がエミリアだ。見ていた平民生徒は、ただ事ではないと思い、教師に訴えた。連れ去られた女子生徒の中には、第三王子カシアンの婚約者、ベルギッタ侯爵令嬢が含まれていたのだ。他にも有力な地位にある家名の令嬢ばかり、学園も慌てたそうだが、既に手遅れだった。

 エミリア、ベルギッタ侯爵令嬢達が連行された理由。それはカシアン王子が寵愛を授けているフランシス・ベルド伯爵令嬢を、苛めた、という、裏も取れていない、フランシスの証言だけで拘束したのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫から「余計なことをするな」と言われたので、後は自力で頑張ってください

今川幸乃
恋愛
アスカム公爵家の跡継ぎ、ベンの元に嫁入りしたアンナは、アスカム公爵から「息子を助けてやって欲しい」と頼まれていた。幼いころから政務についての教育を受けていたアンナはベンの手が回らないことや失敗をサポートするために様々な手助けを行っていた。 しかしベンは自分が何か失敗するたびにそれをアンナのせいだと思い込み、ついに「余計なことをするな」とアンナに宣言する。 ベンは周りの人がアンナばかりを称賛することにコンプレックスを抱えており、だんだん彼女を疎ましく思ってきていた。そしてアンナと違って何もしないクラリスという令嬢を愛するようになっていく。 しかしこれまでアンナがしていたことが全部ベンに回ってくると、次第にベンは首が回らなくなってくる。 最初は「これは何かの間違えだ」と思うベンだったが、次第にアンナのありがたみに気づき始めるのだった。 一方のアンナは空いた時間を楽しんでいたが、そこである出会いをする。

病弱な幼馴染と婚約者の目の前で私は攫われました。

恋愛
フィオナ・ローレラは、ローレラ伯爵家の長女。 キリアン・ライアット侯爵令息と婚約中。 けれど、夜会ではいつもキリアンは美しく儚げな女性をエスコートし、仲睦まじくダンスを踊っている。キリアンがエスコートしている女性の名はセレニティー・トマンティノ伯爵令嬢。 セレニティーとキリアンとフィオナは幼馴染。 キリアンはセレニティーが好きだったが、セレニティーは病弱で婚約出来ず、キリアンの両親は健康なフィオナを婚約者に選んだ。 『ごめん。セレニティーの身体が心配だから……。』 キリアンはそう言って、夜会ではいつもセレニティーをエスコートしていた。   そんなある日、フィオナはキリアンとセレニティーが濃厚な口づけを交わしているのを目撃してしまう。 ※ゆるふわ設定 ※ご都合主義 ※一話の長さがバラバラになりがち。 ※お人好しヒロインと俺様ヒーローです。 ※感想欄ネタバレ配慮ないのでお気をつけくださいませ。

婚約解消は君の方から

みなせ
恋愛
私、リオンは“真実の愛”を見つけてしまった。 しかし、私には産まれた時からの婚約者・ミアがいる。 私が愛するカレンに嫌がらせをするミアに、 嫌がらせをやめるよう呼び出したのに…… どうしてこうなったんだろう? 2020.2.17より、カレンの話を始めました。 小説家になろうさんにも掲載しています。

【完結】逃がすわけがないよね?

春風由実
恋愛
寝室の窓から逃げようとして捕まったシャーロット。 それは二人の結婚式の夜のことだった。 何故新妻であるシャーロットは窓から逃げようとしたのか。 理由を聞いたルーカスは決断する。 「もうあの家、いらないよね?」 ※完結まで作成済み。短いです。 ※ちょこっとホラー?いいえ恋愛話です。 ※カクヨムにも掲載。

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした

さこの
恋愛
 幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。  誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。  数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。  お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。  片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。  お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……  っと言った感じのストーリーです。

あ、すみません。私が見ていたのはあなたではなく、別の方です。

秋月一花
恋愛
「すまないね、レディ。僕には愛しい婚約者がいるんだ。そんなに見つめられても、君とデートすることすら出来ないんだ」 「え? 私、あなたのことを見つめていませんけれど……?」 「なにを言っているんだい、さっきから熱い視線をむけていたじゃないかっ」 「あ、すみません。私が見ていたのはあなたではなく、別の方です」  あなたの護衛を見つめていました。だって好きなのだもの。見つめるくらいは許して欲しい。恋人になりたいなんて身分違いのことを考えないから、それだけはどうか。 「……やっぱり今日も格好いいわ、ライナルト様」  うっとりと呟く私に、ライナルト様はぎょっとしたような表情を浮かべて――それから、 「――俺のことが怖くないのか?」  と話し掛けられちゃった! これはライナルト様とお話しするチャンスなのでは?  よーし、せめてお友達になれるようにがんばろう!

寡黙な貴方は今も彼女を想う

MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。 ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。 シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。 言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。 ※設定はゆるいです。 ※溺愛タグ追加しました。

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

処理中です...