銀の鬼神とかわいいお嫁さん

鐘ケ江 しのぶ

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今、排するべきか?①

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 エミリアを控え室に戻し、ベルド伯爵家がいなくなり、ひそひそ話が続くが、母が巧みに話を盛り上げてくれる。父とも仲睦まじい姿を見せて、場を繋いでくれる。自分にはできない芸当だ。こういった社交の場を苦手として、録にやっていなかったツケだ。

 苦手だが、何とか話を繋ぐ。
 前回めんどくさく感じたが、招待客の中にも色々あるんだなと実感。
 高圧的なやつに、それに強く言えずにうつむいているもの。ひたすら食うやつ、飲むやつ、何やらこちらに言いたげなやつ。
 そして、元辺境伯夫妻の両親に、王太子夫妻に蟻のように群がる連中が多いが、これが、縮図なんだろう。
 
 ああ、エミリアはちゃんと休めたろうか?

「ご主人様、ヤノマ将軍です」

 モーリスの声にピクリと反応。
 振り返ると、白髪混じりの黒髪の父と同年代の男性。いかつい顔にいかつい体、ミュンヘナー王国将軍ヤノマだ。確か、叩き上げで将軍職に着いた武人だ。
 きちっとしたヤノマ将軍は、一礼する姿は、まさに実直な歴戦の猛者だ。
 
「バルド・フォン辺境伯殿に、此度の婚礼のお祝いを」 

 自分とエミリアの祝いの言葉に嘘はないように思えるが、どうしても壁を作ってしまう。

 ヤノマ将軍の嫡男が、いずれエミリアの死因にどっぷり関わっているからだ。その嫡男が、おそらくヤノマ将軍の夫人と共に緊張した顔で立っている。まだまだあどけない顔だが、数年後、父親譲りの体格を有したバカに成り下がる。

 いま、ここで、殺そうか?

「伯? 何か、後気分を害しましたか?」

 さすが叩き上げの武人、自分のこらえきれない殺気に気が付いた。

「ああ、失礼、なんでもありません。わざわざ、ご丁寧な挨拶ありがとうございます」
 
 視界の中で、怯えた顔になる嫡男、名前は、ダメだ、思い出せない。ただ、この父親そっくりのバカだった。
よく見たら、夫人は知的な雰囲気がある。この夫人と実直な将軍との子供なのに、なぜ、あんな短絡的になったのか。

 疑問が湧くが、いまここで、この嫡男を殺しても、騒ぎになるだけ、奔走してくれた両親と使用人達の苦労が水の泡だ。

 どうにかやり過ごし、ヤノマ将軍一家は離れていく。
 ヤノマ将軍一家は全員で五人で来ている。ヤノマ将軍と夫人、娘が二人、そして嫡男。自分が狂ったあの日、バカに成り下がった嫡男を、一撃で頭をかちわった。その時、ヤノマ将軍は、遠方にいたはず。その後、ヤノマ将軍一家がどのような結末となったか、わからない。
 
 エミリアの主な死因は、外傷だ。
 その外傷を加えたのが、五人。
 ビスマルク王太子殿下の弟、カシアン。ヤノマ将軍の嫡男。そして、今、両親に挨拶している宰相バルマ侯爵一家の息子、次男だったはず。
 後二人はこの場にいない。
 一人はマグル王国人、もう一人はミュンヘナー王国でも大きな商会の息子。

 全員、あの時、斬り殺したのは、間違いなく自分だ。

 なら、今でもいいじゃないか? そう思うが、やはり、この場ではまずいと思い返して、にじみ出そうになる殺気を押さえ続けた。
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