上 下
16 / 51

披露宴は出したくない 続・ある部屋

しおりを挟む
「くすんっ、お母様っ、お腹空きました」

 フランシスがシルビアに掴みかかり五時間経過。
 すっかり夜になっている。
 控え室には、閉じ込められたベルド伯爵家の三人。あれから、お茶の一杯もなく過ごしている。
 フランシスは先ほどの事が答えたのはわずかの間だけ。

「さっきのおばさんが悪いのよっ、だってそうでしょうっ、ドレスぐらいでっ、私痛かったのよっ」

 再び癇癪を起こすフランシスに、説明するが、簡単に理解するわけない。今まで、フランシスがいたのはベルド伯爵家内の小さな世界。それだから、どんなワガママも通っただけ。
 そして、癇癪より空腹が勝り出してやっと大人しくなった。
 そうなると、今度はエルゴスとナンシーが、シルビアに対する不満が沸き上がる。

 何時間も待たせて、茶の一杯も出さない。
 フランシスがシルビアを害する訳ではないのは、わかっていたはずなのに、わざとフランシスを痛め付けた。かわいい娘、フランシスを。

 すべて、フォン辺境伯に嫁いだエミリアのせいだ。
 フォン辺境伯がエミリアにドレスなんて準備したから、フランシスが欲しがったのだ。
 婚姻が決まっても、使用人が代わりに花を送って来るような無関心な男が、これ見よがしにエミリアを腕に抱えていた、だから、教えてやったのに。エミリアがどれだけ愚図で、出来損ないであるかを、親切心で言ってやったのに。

 ふつふつ、と不完全燃焼の怒りが沸き上がり出した頃に。

 激しいノック音。
 びくり、と震えるら。

『失礼、クラウド・フォンだ』

「あ、はいっ」

 反射的に返事をしたのはエルゴス。

 ドカンッ、と入って来たのは、筋骨隆々のクラウド・フォン。エルゴスの父親世代だが、あまりの迫力に、思わずすくむ。
 クラウドはどかり、とソファーに座る。
 びくり、と震えるナンシーとフランシス。さっきまでの沸き上がる怒りが恐怖に変わる。

「単刀直入に、こちらが支払った支度金は何に使用した?」

 そして、テーブルに、ばさ、と出したのはエミリアが纏っていたドレス。古ぼけたドレスだ。

「ベルド伯爵、貴公は言ったな。エミリアの花嫁衣裳、そして花嫁道具の鏡台。しばらくは大丈夫なように衣服や靴は、ベルド伯爵で持つから、持参金と相殺にしてくれと。で、いつになったら、エミリアの荷物が来るのだ?」

 次に出したのは、エミリアが持っていた古びたトランク。

「納得できる説明を求める」

「そ、それは、そ、そう、エミリアが望んだんですっ」
  
 咄嗟に叫ぶエルゴス。フォン辺境伯からの支度金は、ほぼ残っていない。辺境伯に嫁ぐエミリアの為に、花嫁道具なんで、準備できる程残っていない。

「そうですっ。エミリアが、自分から望んだんですっ、ドレスはこれでいいって」

 ナンシーも同調する。
 必死にいい募る夫妻とは対象的に、無表情のクラウド。

「鏡台はせめてと思いましたが、エミリアはいらないとへそを曲げてしまってっ」

「そうですっ、そうなんですっ」

 何れくらいしたか、クラウドかあきれたようにため息をついた。

「では、すべてエミリア嬢の希望だと?」

「そうですっ」

「そうなんですっ」

 再び大きなため息を出すクラウド。

「そちらの考えはよくわかった。エミリア嬢に必要なものはすべてフォン辺境伯が揃えよう。なに、我が家の財政なら容易い事だ。ああ、支度金の返却も結構」

 とたんに、安堵の色を浮かべるエルゴスとナンシーだが、次の瞬間、凍り付く。

「あの程度端金で、エミリア嬢がバルドの嫁になってくれたのだ、安いものだ。ああ、そうそう。エミリア嬢はすでに我がフォン辺境伯の一員。気軽に会えると思わぬように。そして、我が最愛の妻に働いた無礼、いつ謝罪するのだ?」

 しばらくして、フォン辺境伯邸から逃げるように去っていく一行が目撃された。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

敗戦して嫁ぎましたが、存在を忘れ去られてしまったので自給自足で頑張ります!

桗梛葉 (たなは)
恋愛
タイトルを変更しました。 ※※※※※※※※※※※※※ 魔族 vs 人間。 冷戦を経ながらくすぶり続けた長い戦いは、人間側の敗戦に近い状況で、ついに終止符が打たれた。 名ばかりの王族リュシェラは、和平の証として、魔王イヴァシグスに第7王妃として嫁ぐ事になる。だけど、嫁いだ夫には魔人の妻との間に、すでに皇子も皇女も何人も居るのだ。 人間のリュシェラが、ここで王妃として求められる事は何もない。和平とは名ばかりの、敗戦国の隷妃として、リュシェラはただ静かに命が潰えていくのを待つばかり……なんて、殊勝な性格でもなく、与えられた宮でのんびり自給自足の生活を楽しんでいく。 そんなリュシェラには、実は誰にも言えない秘密があった。 ※※※※※※※※※※※※※ 短編は難しいな…と痛感したので、慣れた文字数、文体で書いてみました。 お付き合い頂けたら嬉しいです!

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

たまに目覚める王女様

青空一夏
ファンタジー
苦境にたたされるとピンチヒッターなるあたしは‥‥

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈 
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

バッドエンド確定の悪役令嬢に転生してしまったので、好き勝手しようと思います

新野乃花(大舟)
恋愛
日本で普通の生活を送っていた私は、気が付いたらアリシラ・アーレントという名前の悪役令嬢になってしまっていた。過去には気に入らない他の貴族令嬢に嫌がらせをしたり、国中の女性たちから大人気の第一王子を誘惑しにかかったりと、調べれば調べるほど最後には正ヒロインからざまぁされる結末しか見えない今の私。なので私はそういう人たちとの接点を絶って、一人で自由にのびのびスローライフを楽しむことにした……はずだったのに、それでも私の事をざまぁさせるべく色々な負けフラグが勝手に立っていく…。行くも戻るもバッドエンド確定な私は、この世界で生き抜くことができるのでしょうか…?

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

処理中です...