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披露宴は出したくない⑨

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 控え室に戻り、慎重にエミリアを下ろす。

「エミリア、もう大丈夫だよ」

 そう言うが、エミリアは小刻みに震えている。

「ご、ごめんなさい、ごめんなさい、うまくできなくて、ごめんなさい…………」

 さっきのベルド伯爵達の言葉を思い出す。あれはエミリアを卑下している言葉だ。おそらく、バルド伯爵家で、エミリアはもっと苛烈に言われていたはず。あの三人が姿を見せただけで、反射的に身を守ろうと固くなったのだから。
 マギーやメイド達がどうしたものかと、自分を見てくる。
 
「エミリア、実はな、私はああいった場所が苦手なんだ」

 震えていたエミリアが自分の方を向く。
 嘘は着いていない。実際に、知らない人間、特に腹に何かを潜ませたようなやつらに囲まれるのが苦手だ。探られるのが嫌で、知られないように、壁を造り、他者との関わりを絶っていた。中には善意の意見や忠告もあったろうが、自分は気が付かなかった。
 その結果、エミリアを喪ったのだから。

「だけど、今日、エミリアが一緒にいてくれて良かった。心強かったよ、本当に助かった、ありがとうエミリア」

 ありがとう、の言葉に、エミリアの新緑の瞳が大きくなる。

「エミリア、今日はありがとう」

「私はっ、何にも、できなくてっ」

「側にいてくれた、それだけで、私は君から力を得たんだ。ありがとうエミリア」

 ありがとう、と繰り返すと、エミリアはぽろっ、と涙を溢す。もちろん、優しく拭う。

「エミリア、今日は疲れたろう? 本当なら、ゆっくり君と食事をしたいが、父とめんどくさい話をしなくてはならないんだ」

「でも、お客様が…………」

「なに、心配しなくていいさ。我がフォン辺境伯の使用人凄腕なんだぞ。私達が抜けても、なんの問題もなくやってくれている」

 エミリアは半分納得、半分戸惑い。やっと震えが治まっている。

「エミリア、今日は朝から疲れたろう? ゆっくりお休み、そして、明日の朝、一緒に食事を採ってくれるかい?」

「食事?」

 首を傾げるエミリア。震えが完全に止まった。

「そうだ、ダメかな?」

 今度は自分を首をかしげる。

「いいえっ、そんなっ。私も、一緒にっ、バルド様と朝食を頂きたいですっ」

「良かった、明日、君を起こしにいくよ。何か困れば、このマギーに言ってくれ。マギーは私がエミリアより小さい頃よりここにいる。だから、なんの心配はないから」

「はいっ」

「マギー、エミリアを頼む」

「はい、ご主人様」

 マギーの目が光っているのは気のせいか? 他のメイドがハンカチでしきりに顔を拭いているのは、気のせいか?

「お休みエミリア、よい夢を」

 小さなエミリアの手にキス。
 ぽわっ、とエミリアの頬が赤くなる。ああ、やっぱりエミリアはかわいいなあ。
 マギーと他のメイド達に任せ、控え室を出る。

 さあ、エミリアを害する連中をどうやって始末しようか。できるだけエミリアの心の負担なく、モーリスを両親をフォン辺境伯の皆を守るため、どうやって動こうか?

 まずは、情報をまとめよう。
 バルド伯爵家の内情、エミリアの死因となった連中を洗い出さなくては。
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