13 / 51
披露宴は出したくない⑧
しおりを挟む
「いやあ、そんなつもりはなくてですね」
「そうですわ。娘を思う親心で」
急に睨まれた蛙のようになるベルド伯爵夫妻。周りの招待客も引いている。かつて、エミリアに向けていた目で、ベルド伯爵を見ている。
「うそじゃないわぁっ、だってお母様、いつも言ってるもんっ。役立たずのっ」
続く言葉は、父親のエルゴスが塞ぐ。フランシスはごふごふ言ってる、そのまま窒息しろ。
あたふたするベルド伯爵三人を睨み付けていると、すう、と参戦するのは自分の父、クラウド・フォンだ。優秀な騎士である父は、いまでも筋骨隆々だ。
「ずいぶん賑やかですなベルド伯爵殿」
「こ、これは辺境伯様」
暴れるフランシスを押さえながら、額に汗を浮かべるエルゴス。
「それは既に息子に引き継いだなずなのですがな」
と、ちょっと意地悪な言い方をする。
「も、申し訳」
「ところで」
父・クラウドがエルゴスの発言をぶったぎる。わざとらしくあごひげを触りながら。
「ゼズ子爵はどちらですかな? 是非にご挨拶したいのだが」
ゼズ子爵とはエミリアの生母・レミリアの実家だ。披露宴で、それぞれの親戚はそれぞれが連絡する。特に、辺境伯のような上位貴族の婚姻では、かなり遠縁まで呼ばれる。エミリアの生母の実家を呼ばない事はない。だから、招待客リストに名前があった。だが、実際は来ていない。
そう、ベルド伯爵はゼズ子爵に実際には招待状を送っていないのだ。自分はこの件を後日知らされるが、結婚式のもろもろ手配していた両親が知らないわけはない。
招待客は、前日にはフォン辺境伯領に入っているのだから。その中に、ゼズ子爵はいなかった。自分は結婚式当日の朝、やっと帰って来れた。そのまま挨拶もへったくれもなく、風呂に入れられ支度だ。
今回のエミリアとの結婚で、勘のいい二人が、ベルド伯爵家におけるエミリアの立場を察したと思う。それを自分に説明せず、あまり、口出ししなかったのは、無関心な息子である自分への試験でもあったんだろう。
だが、今回、エミリアを自らの腕で抱え、大切にしようとしているとわかってくれたのか、掩護射撃してくれたのだろう。
「ゼ、ゼズ子爵は遠方故に、遅れているのでしょう」
苦し紛れの言い訳をする。
確か、ゼズ子爵は王都で文官をしている。王都在中の王太子夫妻がいるのに、遠方なんて、苦し紛れの言い訳にしかならない。
居たたまれない視線を浴びながら、ベルド伯爵夫婦は顔色が悪い。ただ、フランシスだけが、いまだに暴れている。
父は、白けた目で震えるベルド伯爵夫婦を見る。自分も睨めば、ある程度の相手は竦み上がるが、父には更に年季があるため、ベルド伯爵夫婦、たまたま後方にいた招待客まで竦み上がっている。
「旦那様、ベルド伯爵家の皆様はお疲れのようすですわ。別室をご案内しては?」
「そうだな、さすが我が妻、よく気が利く。ベルド伯爵家ご一家を別室に」
父の指示に、一人のフットマンが案内に動く。ベルド伯爵夫婦はこれ幸いと逃げるように着いていった。
「さあ、バルド、そろそろエミリア嬢を解放なさい。朝からの疲労があるでしょう」
「はい、母上」
震えるエミリアを抱えたまま、控え室に向かった。
「そうですわ。娘を思う親心で」
急に睨まれた蛙のようになるベルド伯爵夫妻。周りの招待客も引いている。かつて、エミリアに向けていた目で、ベルド伯爵を見ている。
「うそじゃないわぁっ、だってお母様、いつも言ってるもんっ。役立たずのっ」
続く言葉は、父親のエルゴスが塞ぐ。フランシスはごふごふ言ってる、そのまま窒息しろ。
あたふたするベルド伯爵三人を睨み付けていると、すう、と参戦するのは自分の父、クラウド・フォンだ。優秀な騎士である父は、いまでも筋骨隆々だ。
「ずいぶん賑やかですなベルド伯爵殿」
「こ、これは辺境伯様」
暴れるフランシスを押さえながら、額に汗を浮かべるエルゴス。
「それは既に息子に引き継いだなずなのですがな」
と、ちょっと意地悪な言い方をする。
「も、申し訳」
「ところで」
父・クラウドがエルゴスの発言をぶったぎる。わざとらしくあごひげを触りながら。
「ゼズ子爵はどちらですかな? 是非にご挨拶したいのだが」
ゼズ子爵とはエミリアの生母・レミリアの実家だ。披露宴で、それぞれの親戚はそれぞれが連絡する。特に、辺境伯のような上位貴族の婚姻では、かなり遠縁まで呼ばれる。エミリアの生母の実家を呼ばない事はない。だから、招待客リストに名前があった。だが、実際は来ていない。
そう、ベルド伯爵はゼズ子爵に実際には招待状を送っていないのだ。自分はこの件を後日知らされるが、結婚式のもろもろ手配していた両親が知らないわけはない。
招待客は、前日にはフォン辺境伯領に入っているのだから。その中に、ゼズ子爵はいなかった。自分は結婚式当日の朝、やっと帰って来れた。そのまま挨拶もへったくれもなく、風呂に入れられ支度だ。
今回のエミリアとの結婚で、勘のいい二人が、ベルド伯爵家におけるエミリアの立場を察したと思う。それを自分に説明せず、あまり、口出ししなかったのは、無関心な息子である自分への試験でもあったんだろう。
だが、今回、エミリアを自らの腕で抱え、大切にしようとしているとわかってくれたのか、掩護射撃してくれたのだろう。
「ゼ、ゼズ子爵は遠方故に、遅れているのでしょう」
苦し紛れの言い訳をする。
確か、ゼズ子爵は王都で文官をしている。王都在中の王太子夫妻がいるのに、遠方なんて、苦し紛れの言い訳にしかならない。
居たたまれない視線を浴びながら、ベルド伯爵夫婦は顔色が悪い。ただ、フランシスだけが、いまだに暴れている。
父は、白けた目で震えるベルド伯爵夫婦を見る。自分も睨めば、ある程度の相手は竦み上がるが、父には更に年季があるため、ベルド伯爵夫婦、たまたま後方にいた招待客まで竦み上がっている。
「旦那様、ベルド伯爵家の皆様はお疲れのようすですわ。別室をご案内しては?」
「そうだな、さすが我が妻、よく気が利く。ベルド伯爵家ご一家を別室に」
父の指示に、一人のフットマンが案内に動く。ベルド伯爵夫婦はこれ幸いと逃げるように着いていった。
「さあ、バルド、そろそろエミリア嬢を解放なさい。朝からの疲労があるでしょう」
「はい、母上」
震えるエミリアを抱えたまま、控え室に向かった。
225
お気に入りに追加
189
あなたにおすすめの小説

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした
さこの
恋愛
幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。
誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。
数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。
お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。
片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。
お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……
っと言った感じのストーリーです。

(完結)伯爵令嬢に婚約破棄した男性は、お目当ての彼女が着ている服の価値も分からないようです
泉花ゆき
恋愛
ある日のこと。
マリアンヌは婚約者であるビートから「派手に着飾ってばかりで財をひけらかす女はまっぴらだ」と婚約破棄をされた。
ビートは、マリアンヌに、ロコという娘を紹介する。
シンプルなワンピースをさらりと着ただけの豪商の娘だ。
ビートはロコへと結婚を申し込むのだそうだ。
しかし伯爵令嬢でありながら商品の目利きにも精通しているマリアンヌは首を傾げる。
ロコの着ているワンピース、それは仕立てこそシンプルなものの、生地と縫製は間違いなく極上で……つまりは、恐ろしく値の張っている服装だったからだ。
そうとも知らないビートは……
※ゆるゆる設定です

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

見た目の良すぎる双子の兄を持った妹は、引きこもっている理由を不細工だからと勘違いされていましたが、身内にも誤解されていたようです
珠宮さくら
恋愛
ルベロン国の第1王女として生まれたシャルレーヌは、引きこもっていた。
その理由は、見目の良い両親と双子の兄に劣るどころか。他の腹違いの弟妹たちより、不細工な顔をしているからだと噂されていたが、実際のところは全然違っていたのだが、そんな片割れを心配して、外に出そうとした兄は自分を頼ると思っていた。
それが、全く頼らないことになるどころか。自分の方が残念になってしまう結末になるとは思っていなかった。

あ、すみません。私が見ていたのはあなたではなく、別の方です。
秋月一花
恋愛
「すまないね、レディ。僕には愛しい婚約者がいるんだ。そんなに見つめられても、君とデートすることすら出来ないんだ」
「え? 私、あなたのことを見つめていませんけれど……?」
「なにを言っているんだい、さっきから熱い視線をむけていたじゃないかっ」
「あ、すみません。私が見ていたのはあなたではなく、別の方です」
あなたの護衛を見つめていました。だって好きなのだもの。見つめるくらいは許して欲しい。恋人になりたいなんて身分違いのことを考えないから、それだけはどうか。
「……やっぱり今日も格好いいわ、ライナルト様」
うっとりと呟く私に、ライナルト様はぎょっとしたような表情を浮かべて――それから、
「――俺のことが怖くないのか?」
と話し掛けられちゃった! これはライナルト様とお話しするチャンスなのでは?
よーし、せめてお友達になれるようにがんばろう!

公爵令嬢の白銀の指輪
夜桜
恋愛
公爵令嬢エリザは幸せな日々を送っていたはずだった。
婚約者の伯爵ヘイズは婚約指輪をエリザに渡した。けれど、その指輪には猛毒が塗布されていたのだ。
違和感を感じたエリザ。
彼女には貴金属の目利きスキルがあった。
直ちに猛毒のことを訴えると、伯爵は全てを失うことになった。しかし、これは始まりに過ぎなかった……。

悪意には悪意で
12時のトキノカネ
恋愛
私の不幸はあの女の所為?今まで穏やかだった日常。それを壊す自称ヒロイン女。そしてそのいかれた女に悪役令嬢に指定されたミリ。ありがちな悪役令嬢ものです。
私を悪意を持って貶めようとするならば、私もあなたに同じ悪意を向けましょう。
ぶち切れ気味の公爵令嬢の一幕です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる