銀の鬼神とかわいいお嫁さん

鐘ケ江 しのぶ

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披露宴は出したくない⑦

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 ベルド伯爵の三人。
 血縁上の父親、エルゴス・ベルド。確か、自分と同い年。金髪と茶色の目。自分と同い年の男の元に、支度金欲しさに娘の釣書を送った男。そして、妻がいながら、別の女と通じて子供をこさえた男。一昔なら、男の甲斐性とか言われるが、今では後ろ指さされる不倫だ。妻が亡くなった後に、喪が明けてから迎えるのであれば、また周囲の反応も変わったのだろうが。妻との間にいる娘と、同い年の娘がいる時点で避けられる対象だ。既に酒に酔っているのか、顔が真っ赤だ。おいおい、娘の披露宴で酔っているのか? 前回も好感はなかったが、現在はマイナスを通りすぎている。
 エミリアの花嫁衣裳を準備するといって、ぼろぼろの花嫁衣裳を準備しやがって。結局、こいつにとってエミリアはそんな存在なんだろう。
 そして、後妻の女は、どこかの子爵家の娘。名前はナンシー、家名は思い出せない。エルゴスと不倫して、フランシスを産み、今、堂々と立っている。やや赤みのあるブロンズ色の髪を巻き上げ、飾り立てている。ドレスも派手な赤で、肩と背中が大胆に出ている。化粧も派手だが、着なれているのか、顔の造りがいいのか不思議と似合う。似合うが、一応、義理の娘の披露宴ならば、親は控えた格好をするべきである。新郎新婦より目立たないように、な。どうやら、貴族の娘だが、常識を親から授からなかったようだ。自分の場合は、必死に周りが教えてくれようとしてくれたが、自分がバカなせいでからぶっていた。
 この女が、エミリアを陰湿にいじめ、始めは娘だからと、乗り気ではなかったエミリアの父親を焚き付けて、一緒に責め立てた。この女もいまここで、くびり殺してやりたいが我慢。腕の中にはエミリアがいるのだ。
 そして、フランシス。金髪をピンクのリボンでツインテールにして、ドレスはピンクを基調にしてリボンやフリルでごてごてと飾りつけている。顔は母親のように、幼いながらに派手だ。こいつは、色んなものをエミリアから奪った。ドレスやぬいぐるみ、お菓子に始まり、母親の形見のブローチ、エミリアの部屋、最後に命と尊厳を。
 今は、まだなにもしていないが、いずれ事を起こす。父親の金髪に、母親の茶色の目で、笑顔を浮かべているが、エミリアに対する軽蔑の色を隠しもしてない。ガキだな。
 こいつら、いつ、始末するか、どうやって始末するか。

「ベルド伯爵」

 小さくエミリアに大丈夫だと呟いてから、大きく答えてやる。

「こんな不出来な娘ですが、気に入っていただいて本当に良かったっ。なんせ、この子は何をやらしても愚図ですから、辺境伯夫人など勤まらないと案じておりまして」

 繰り返すが、今は、エミリア、つまり、エルゴス・ベルドの娘、エミリアの披露宴なわけだ。
 それをアルコールで真っ赤にして、ディスり出しやがった。

「ええっ、本当に何を教えてもやる気はないし、ボーッとしておりますのよ。親として、心配で心配で」

 継母が続くが、内容は嘘っぱちだ。心配? 嘲っているだけだ。

「おねえさまはぁっ、本当に、いじわるなんですよぉ」

 バカ丸出しの話し方のフランシス。耳障りだ。
 目出度い披露宴で、花嫁をディスりだす花嫁の家族は、派手に着飾り、品格も欠片もない。
 エミリアが、腕の中で震えている。

 すう、と息をつく。

「それは我が妻、エミリアに対するベルド伯爵からの侮辱と受け取ろう」

 さあ、と凍り付いたのは、エルゴスとナンシー夫婦だけだった。
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