上 下
10 / 51

披露宴は出したくない⑤

しおりを挟む
 会場に入ると、様々な視線に晒される。
 好奇、祝福、妬み。以前は他人の視線などめんどくさいとしか思わず、歯牙にもかけなかったが。
 今は、腕にエミリアがいる。どうにかして、守らなくては。
 拍手で迎え入れられたが、どれくらい、エミリアを、フォン辺境伯夫人と認めているか。
 自分の肩に掴まっているエミリアの手が強ばる、緊張しているんだ。

「エミリア、大丈夫だ」

 小さく、エミリアにだけ聞こえるように言うと、少しだけ安心したような顔だ。
 まずは挨拶を、とモーリスに促され前に立つ。
 父と合流した母の姿が視界に入る。

「本日は私、バルド・フォン、そしてエミリアとの婚姻式にご参列頂き真に感謝したします」

 セバスが考えた挨拶を並べる。

「どうぞ最後までお楽しみください」

 よし、終わった。
 時間はまだあるが、次々にやってくる招待客に、挨拶を返していく。中にはエミリアの年齢を嫌味に引っ掛けてくるやつがいたが、軽く睨み付けて、モーリスに記憶させる。付き合い、ぶったぎってやる。
 一応、フォン辺境伯はミュンヘナー王国内でも大貴族の位置にいる。領地は隣国と接した交易の要所だし、港も管理している。母が主体で行っている海運業も最近順調だ。
 この披露宴に呼ばれたのは、基本的にうちと付き合いがあるからだ。それなのに嫁いれしたエミリアに、回りくどく侮辱したのだ、ぶったぎられてもしょうがないやつらだ。

 そこに金髪碧眼の王子様風味の男がやってくる。今まで両親と話し込んでいた男。この国の王太子殿下、ビスマルク殿下だ。王家から代表で夫婦で参加だ。妃殿下はマグル王国の元公爵令嬢、イドゥン妃殿下だ。母もマグル王国の侯爵家出身で、イドゥン妃殿下は母の従姉の娘になる。二人とも美男美女で、正装姿に見惚れている招待客がいる。

 ああ、思い出した、前回の最後。
 ビスマルク殿下は自分の前に土下座して、許しを請おた。

 どうか、弟の首だけにしてくれ、これ以上は、やめてくれ、どうか、どうか、やめてください。

 そう。
 エミリアが死んだ理由の一端を担ったのが、ビスマルク殿下の弟。第三王子のカシアンだった。エミリアを喪い、正気を失った自分は王城を血に染めて、土下座するビスマルク殿下、そして必死に追い付いて、その前に飛び出したモーリスごと、切り殺してしまったのだ。

「やあ。フォン辺境伯殿、目出度い日だな。本当に良かった、これでご両親もさぞかし安心されているだろう。花嫁殿は、まるで妖精のような愛らしさだな」

 あの時、地位もプライドも何もかも捨てて、土下座していたビスマルク殿下が、笑っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

敗戦して嫁ぎましたが、存在を忘れ去られてしまったので自給自足で頑張ります!

桗梛葉 (たなは)
恋愛
タイトルを変更しました。 ※※※※※※※※※※※※※ 魔族 vs 人間。 冷戦を経ながらくすぶり続けた長い戦いは、人間側の敗戦に近い状況で、ついに終止符が打たれた。 名ばかりの王族リュシェラは、和平の証として、魔王イヴァシグスに第7王妃として嫁ぐ事になる。だけど、嫁いだ夫には魔人の妻との間に、すでに皇子も皇女も何人も居るのだ。 人間のリュシェラが、ここで王妃として求められる事は何もない。和平とは名ばかりの、敗戦国の隷妃として、リュシェラはただ静かに命が潰えていくのを待つばかり……なんて、殊勝な性格でもなく、与えられた宮でのんびり自給自足の生活を楽しんでいく。 そんなリュシェラには、実は誰にも言えない秘密があった。 ※※※※※※※※※※※※※ 短編は難しいな…と痛感したので、慣れた文字数、文体で書いてみました。 お付き合い頂けたら嬉しいです!

転生おばさんは有能な侍女

吉田ルネ
恋愛
五十四才の人生あきらめモードのおばさんが転生した先は、可憐なお嬢さまの侍女でした え? 婚約者が浮気? え? 国家転覆の陰謀? 転生おばさんは忙しい そして、新しい恋の予感…… てへ 豊富な(?)人生経験をもとに、お嬢さまをおたすけするぞ!

妹に全てを奪われた伯爵令嬢は遠い国で愛を知る

星名柚花
恋愛
魔法が使えない伯爵令嬢セレスティアには美しい双子の妹・イノーラがいる。 国一番の魔力を持つイノーラは我儘な暴君で、セレスティアから婚約者まで奪った。 「もう無理、もう耐えられない!!」 イノーラの結婚式に無理やり参列させられたセレスティアは逃亡を決意。 「セラ」という偽名を使い、遠く離れたロドリー王国で侍女として働き始めた。 そこでセラには唯一無二のとんでもない魔法が使えることが判明する。 猫になる魔法をかけられた女性不信のユリウス。 表情筋が死んでいるユリウスの弟ノエル。 溺愛してくる魔法使いのリュオン。 彼らと共に暮らしながら、幸せに満ちたセラの新しい日々が始まる―― ※他サイトにも投稿しています。

婚約破棄から聖女~今さら戻れと言われても後の祭りです

青の雀
恋愛
第1話 婚約破棄された伯爵令嬢は、領地に帰り聖女の力を発揮する。聖女を嫁に欲しい破棄した侯爵、王家が縁談を申し込むも拒否される。地団太を踏むも後の祭りです。

王子には付き合い切れない!~婚約破棄から始まるミステリー~

あみにあ
恋愛
突然王子より召集がかけられ、やってきた大広間。 貴族たちが集まる中央に、私の婚約者ディエゴ王子がいた。 彼の隣には質素なワンピース姿の令嬢。 何が始まるのかと腕を組み待ち構えてると、 王子はなんと私との婚約破棄を宣言した。 理由は隣にいる名も知らぬ令嬢を虐めた罪。 悔しい惨め、そんな気持ちよりも先にため息が漏れる。 このバカ王子、また騙されたのかと……。 手のかかる王子の婚約者になった、出来る令嬢のお話です。 ※短編小説 6話で完結します。 (1/1 21時 1/2 0時 7時 12時 18時 21時 完結)

見た目を変えろと命令したのに婚約破棄ですか。それなら元に戻るだけです

天宮有
恋愛
私テリナは、婚約者のアシェルから見た目を変えろと命令されて魔法薬を飲まされる。 魔法学園に入学する前の出来事で、他の男が私と関わることを阻止したかったようだ。 薬の効力によって、私は魔法の実力はあるけど醜い令嬢と呼ばれるようになってしまう。 それでも構わないと考えていたのに、アシェルは醜いから婚約破棄すると言い出した。

婚約者に見殺しにされた愚かな傀儡令嬢、時を逆行する

蓮恭
恋愛
 父親が自分を呼ぶ声が聞こえたその刹那、熱いものが全身を巡ったような、そんな感覚に陥った令嬢レティシアは、短く唸って冷たい石造りの床へと平伏した。  視界は徐々に赤く染まり、せっかく身を挺して庇った侯爵も、次の瞬間にはリュシアンによって屠られるのを見た。 「リュシ……アン……さ、ま」  せめて愛するリュシアンへと手を伸ばそうとするが、無情にも嘲笑を浮かべた女騎士イリナによって叩き落とされる。 「安心して死になさい。愚かな傀儡令嬢レティシア。これから殿下の事は私がお支えするから心配いらなくてよ」  お願い、最後に一目だけ、リュシアンの表情が見たいとレティシアは願った。  けれどそれは自分を見下ろすイリナによって阻まれる。しかし自分がこうなってもリュシアンが駆け寄ってくる気配すらない事から、本当に嫌われていたのだと実感し、痛みと悲しみで次々に涙を零した。    両親から「愚かであれ、傀儡として役立て」と育てられた侯爵令嬢レティシアは、徐々に最愛の婚約者、皇太子リュシアンの愛を失っていく。  民の信頼を失いつつある帝国の改革のため立ち上がった皇太子は、女騎士イリナと共に謀反を起こした。  その時レティシアはイリナによって刺殺される。  悲しみに包まれたレティシアは何らかの力によって時を越え、まだリュシアンと仲が良かった幼い頃に逆行し、やり直しの機会を与えられる。  二度目の人生では傀儡令嬢であったレティシアがどのように生きていくのか?  婚約者リュシアンとの仲は?  二度目の人生で出会う人物達との交流でレティシアが得たものとは……? ※逆行、回帰、婚約破棄、悪役令嬢、やり直し、愛人、暴力的な描写、死産、シリアス、の要素があります。  ヒーローについて……読者様からの感想を見ていただくと分かる通り、完璧なヒーローをお求めの方にはかなりヤキモキさせてしまうと思います。  どこか人間味があって、空回りしたり、過ちも犯す、そんなヒーローを支えていく不憫で健気なヒロインを応援していただければ、作者としては嬉しい限りです。  必ずヒロインにとってハッピーエンドになるよう書き切る予定ですので、宜しければどうか最後までお付き合いくださいませ。      

貴公子アドニスの結婚

凛江
恋愛
公爵家の令息アドニスは、二度の婚約解消を経て三度目の婚約を目指している。 三つの条件を満たしさえすれば多くは望まないのだが…。 ※あまり内容もなく趣味で好き放題書いた話です。 昨年一度非公開にしましたが、再度公開します!

処理中です...