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思い出したのはお式の前⑤

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 歓声が教会内に響く。
 エミリアを片腕に抱き上げたからだ。
 本来ならエスコートして、バージンロードを進み、教会外で待つ詰め掛けた民衆に手を振って、馬車で館に移動する。

「あのっ、フォン様っ、私、歩きますっ」

 エミリアが腕の中で、恥ずかしそうに言う。
 うん、エミリアが生きている実感が沸く。沸き上がる喜び。

「おや? 名前で呼んでくれないのか? 私のかわいいお嫁さん?」

「ん~っ」

 ブーケで顔を隠すように持ち上げる。かわいい、本当にかわいい。なんで、前回見逃したんだ? 自分のばかっ。かわいいお嫁さんエミリアの向こうに、醜悪な連中が視界に入る。ベルド伯爵家連中だ。
 父親はぽかんとアホ面を晒し、後妻は元はそこそこの美貌だろうが、皺を寄せて口をへし曲げている。娘の方も、とても10歳の娘がするような顔ではない。醜く歪んでいるがあれがあの娘の本性だろう。
 やはりあいつらに、エミリアを祝福するつもりはないんだな。
 エミリアの視界に入れたら駄目やなやつだ。
 無視して進む。
 ほとんどが好意的な拍手だ。特に両親は呆気にとられている。一応、息子の結婚式なわけよ、喜んでくれたっていいんじゃないか?

 エミリアを片腕に抱き上げたまま進む。
 ベールのしたの白いドレスは所々が黄ばみ、糸が解れ、レースがずれて、小さな穴が開いている。どうみても、安物、いや、売り物にもならない古着だろう。
 フォン辺境伯から支払ったベルト伯爵家への支度金は、確か2億だったはず。エミリアの花嫁衣裳代や、婚礼道具一式も含まれていたはず。

 あいつら、支度金に手を着けたな。

 だが、今、それを追及しない。腕の中にいるエミリアに、嫌な話だからだ。
 エミリアを抱えて教会を出る。
 すると、集まった領民が紙吹雪と歓声を上げる。

「エミリア、皆に手を振っておくれ」

 そっと耳元で囁く。
 ベール越しでも、頬が赤く染ます。おっ、役に立つな古今東西の恋愛小説。

「はい」

 小さく返事をするエミリア、なんて素直で愛らしいのだ。
 自分も軽く手を振り、エミリアも小さく振ると、更に歓声が上がる。

 自分が、ここで受け入れ貰えていると言う、自己肯定をエミリアに思わせないと。前回はスタスタ歩く自分の後ろを、離されまいと着いてきたエミリア。それが周囲にどんな印象を与えてしまったか。

 夫に、粗雑に扱われる花嫁と思われたはずだ。

 今回は違う。間違えない。エミリアを幸せにするんだ。大事に大事にして、エミリアの人生を守るんだ。

 恥ずかしそうに小さくなるエミリアが愛しいが、下ろす気になるになれず、腕に抱いたまま花で飾られ馬車に乗りこんだ。
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