銀の鬼神とかわいいお嫁さん

鐘ケ江 しのぶ

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思い出したのはお式の前③

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 結婚式は、フォン辺境伯内の教会で行われる。
 フォン辺境伯はミュンヘナー王国と隣国、マグル王国との国境にあり交易の要所だ。そして港を要していることもあり、ミュンヘナー王国首都の次の規模を持つ。
 自分はその領主の唯一の跡取りでもあったし、モーリス曰くかつては社交界の薔薇と呼ばれた母に似て、顔はいいらしい。そして辺境伯として、優秀な騎士として恵まれた体格は父譲り。母の青い目、父の銀髪。加護のお陰でケガをしないから、いつの間にか剣の腕も上がった。今ではミュンヘナー王国以外にも知られるようになった。纏わりつく女が紛らわしくて、髪と髭をわざと整えなかった。そして、熊に殴られても、猪に突撃されても平気な自分は、いつしかこう呼ばれるようになった。

 辺境の銀の鬼神。

 そう呼ばれるようになり、少しは寄ってくる女は減った。 
 だが、縁が欲しくて釣書が来た。
 その中に、エミリアの釣書があった。

 エミリア。

 目の前の教会の司教が、白目を剥いて倒れそうだ。何故って? 多分、自分が殺気を抑えられてないから。

 本当にあの時の自分を殴ってやりたい。

 だいたいなんで、新婦側の椅子に、呑気に父親が座ってんだよ。エスコートはどうした。なんだあの母親のバカみたいにハデなドレスは。あの妹の豪華絢爛なドレスは。他の招待客から変な目で見られているのに、気が付いてない。そう、あいつらには常識がない。どうしてあんなの中にいて、エミリアはいい子に育ったんだ?

 いや、あいつらにしたら、エミリアは家族ではない。

 フォン辺境伯からの支度金欲しさの生け贄だ。

 バルド伯爵家当主には娘がいる。先妻と成婚中に生まれたのがエミリア。先妻はエミリアが五歳の頃に儚くなり。喪が明けぬまま後妻を迎えた。エミリアと同い年の腹違いの妹、フランシスと共に。
 よくある先妻の子が虐められるパターンで、エミリアははぶられ、蔑まれ、厄介払いと支度金欲しさに釣書を送ったのだ。

 こいつらがした、エミリアへの仕打ち。前回はエミリアの口から、少しだけ聞いたが、おそらくそれ以上あったはずだ。詳しく思い出せないが。特にあのハデなリボンで金髪をツインテールにした妹、フランシスは、エミリアの死の原因となった。

 なら、今から、殺そうか?

 ちょっと、首の骨をへし折ってやろうか? 簡単じゃないか? あんな小さな首。いや、待て、そんな簡単に殺していいのか? ダメだ、手加減が出来ない。自分がしたら、死んだことすら分からない。それじゃダメだ。苦しめて、苦しめて、苦しめて。ダメだ、エミリアが近くにいる。トラウマになってしまう。

 それに、今日はエミリアとの大事な結婚式だ。
 あの時は、エミリアは張り付けたような笑顔だった。
 せめて、本当の笑顔が出してくれるように、行動するだけ。
 今日、この場が、エミリアと初顔合わせだ。
 愚かな自分は、結婚が決まっても、エミリアに花の一輪、手紙の一つも送らなかった。確かに魔物討伐で忙しかったが、言い訳だ。前日まで領内の村に被害が出したゴブリン討伐で駆け回っていた。セバスとモーリスが気を遣って花束を送ってはくれていた。
 だから、エミリアの印象は悪くないはずだが、挽回しなくては。

 いつの頃か、エミリアと本当に家族になりたいと思い、相談出来たのはモーリス。モーリスによく分からない古今東西の恋愛小説を読まされた。
 読みすぎて、何が正解か分からない位だ。

 ただ、強く思う、エミリアに笑って欲しい、心から、笑顔になって欲しい。

 視界で母が口パクで笑顔と繰り返している。

 そうだな、せめて笑顔だな。

 ふうー、と息を吐き出すと、司教の顔色が戻る。
 パイプオルガンが鳴り響く。
 振り返ると、開かれた扉からエミリアが姿を表した。本当なら、父親のエスコートで進むバージンロードを、エミリアはたった一人で歩いてきた。
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