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いつものダンジョン調査⑨
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「ユイさん達が気にすることないですよ。会わなきゃいいんですから」
と、当のミゲル君はあっけらかん。
「いやいや、随分会ってないんでしょ?」
鷹の目の中で、ご両親と兄弟が存命なのは、ミゲル君だけ。
「まあ、確かに母ちゃんや兄ちゃん達とかには会いたいですけど」
うーん、とミゲル君。
「うちのひいばあちゃん、絶対に奴隷って認めない性格なんですよ。ドワーフって言う頑固な気質もあると思いますけど、あれはひいばあちゃんの変えられないものなんだと思います。それが悪い、とかは言えないですけど」
ミゲル君のお家は、シーラの首都でも大きな仕立て屋さんだ。ひいお婆さんは、そこの主人として今でも現役の超ベテラン針子さん。早くに人族の旦那さんを亡くして、女手一つで店を切り盛りしながら、一人娘を育て上げた。それは凄いことだと思う。その娘さんも、ミゲル君が生まれる前ずっと前、ミゲル君のお母さんを産んだ後に体調を崩してしまった。体調は少しずつよくなったが、ひいお婆さんが仕事で目を離した僅かな間に、階段から足を滑らせてしまった。ひいお婆さんが帰り着いた時には、もう亡くなっていた。悲しみに暮れる日はない。まだ、乳飲み子のミゲル君のお母さんがいるのだ。ひいお婆さんは、孫を背負って仕事に育児に明け暮れた。そして、年中無休で働き、店も守り、ミゲル君のお母さんに婿を取った。
スーパーウーマンやん。
「ひいばあちゃんは、ばあちゃんの事があって、家族を自分の目の届く範囲に置きたがったんだと思います。だから、姉ちゃんがギルドの試験合格しても大反対したんだと思います」
ミゲル君が肩をすくめる。
「前はひいばあちゃんの気持ちはわかりませんでした。なんで、あんなに頑張っていた姉ちゃんの気持ちを汲んでやらないんだって。冒険者になって、あのワイン護送でケガして、リーダーやエマがあんな事になって、色んな恐怖でごちゃごちゃしてました。きっと、ひいばあちゃんは、もっと、つらい思いをしたんだろうなって」
ミゲル君のひいお婆さんは、目を離した自分を責めたんやないかな? 自分の娘が先に逝くなんて、考えたくもない事やろう。母もそれを聞いて心臓が握り潰される思いやったやろうって。だけど、育児は待った無し、当時乳飲み子のミゲル君のお母さんを抱えて、悲しむ間もなく死に物狂いやなかったんかな? やっと曾孫たちも元気に育った頃に、ミゲル君のお姉さんが目の届かないところに行くのが怖くてたまらなかったんやないかな。
「はい。俺もやっとそう思えるようになったの、あの件がきっかけですから。だけど、ひいばあちゃんは、自分の忠告を無視して家出した俺を許しているとは思えないんです。許して欲しい訳じゃないけど、それでも俺が今大事にしなきゃいけないのは、ユイさん達ですから。ひいばあちゃんに俺が帰ってきてるのがバレて、何か起こるの嫌ですから。まあたぶん、無視されるとは思いますけどね」
へへ、と笑うミゲル君。
「奴隷が家族から出たって世間に広まると、店にも迷惑かけるだろうし、俺は遠目にちらっと会えればいいんです。きっとひいばあちゃんは、母ちゃん達に俺と会うのは許さないと思うし。ですから奴隷解放の後に堂々と会いに行きます」
なんて言っていたけど。
シーラは奴隷に厳しい目を向ける。ミゲル君のお家が経営する仕立て屋さんに、何らかの悪影響が無いわけでもない。風評被害的なやつね。
でもなあ、何とか面会出来ないかなぁ。もう何年も会ってないし、マデリーンさんと違ってミゲル君はあまり手紙を出さなかったし。きっと奴隷云々で、お店に迷惑かけたくなかったんだろうけど。
それにミゲル君のご両親やご兄弟も、きっと心配しとると思うんやけどなあ。
ミゲル君のお家には迷惑かけられないし、うーん、もどかしい。
「どうしましたユイさん」
ノワールのブラッシングが一段落したのか、ホークさんがむむむ、と悩み顔になっていた私に気がついた。
「いえ、ちょっと」
ちら、と見るとミゲル君は元気にベロンベロンされて、わー、と押し倒されている。襲われていませんよ、じゃれてるだけですよ。ミゲル君はニコニコと座り直して、元気をブラッシングしている。視線の先に気がついたホークさん。ああ、とつぶやく。
「ミゲルの家族の事ですか?」
ホークさんが小声で聞いてくる。
「あ、はい」
誤魔化そうと思ったけど、すぐにバレそうなので素直に頷く。
「確かに奴隷という立場は、シーラでは厳しいですね。俺もミゲルが家族に分かるように会うのはお互いに避けるべきだと思ってます」
「それは周囲に分からなければいいんですよね?」
こっそり、私達が滞在する宿に来てもらうとか、どこかで場所を借りるとかダメかな?
「ミゲルのひい婆さんがそれを許してくれたら可能かも知れませんね」
「そこまで、奴隷ってだけでダメなんですね。それとも家出が許せないのかなあ?」
ミゲル君の話だと、頑固さんみたいやし。いっそ、ミゲル君だけ奴隷解放しちゃう? なら、鷹の目の皆さんも一緒に。もともとはアレスやイシスに会えたら解放予定やったんやし。
「うーん、それ以上に複雑だと思いますよ」
と、当のミゲル君はあっけらかん。
「いやいや、随分会ってないんでしょ?」
鷹の目の中で、ご両親と兄弟が存命なのは、ミゲル君だけ。
「まあ、確かに母ちゃんや兄ちゃん達とかには会いたいですけど」
うーん、とミゲル君。
「うちのひいばあちゃん、絶対に奴隷って認めない性格なんですよ。ドワーフって言う頑固な気質もあると思いますけど、あれはひいばあちゃんの変えられないものなんだと思います。それが悪い、とかは言えないですけど」
ミゲル君のお家は、シーラの首都でも大きな仕立て屋さんだ。ひいお婆さんは、そこの主人として今でも現役の超ベテラン針子さん。早くに人族の旦那さんを亡くして、女手一つで店を切り盛りしながら、一人娘を育て上げた。それは凄いことだと思う。その娘さんも、ミゲル君が生まれる前ずっと前、ミゲル君のお母さんを産んだ後に体調を崩してしまった。体調は少しずつよくなったが、ひいお婆さんが仕事で目を離した僅かな間に、階段から足を滑らせてしまった。ひいお婆さんが帰り着いた時には、もう亡くなっていた。悲しみに暮れる日はない。まだ、乳飲み子のミゲル君のお母さんがいるのだ。ひいお婆さんは、孫を背負って仕事に育児に明け暮れた。そして、年中無休で働き、店も守り、ミゲル君のお母さんに婿を取った。
スーパーウーマンやん。
「ひいばあちゃんは、ばあちゃんの事があって、家族を自分の目の届く範囲に置きたがったんだと思います。だから、姉ちゃんがギルドの試験合格しても大反対したんだと思います」
ミゲル君が肩をすくめる。
「前はひいばあちゃんの気持ちはわかりませんでした。なんで、あんなに頑張っていた姉ちゃんの気持ちを汲んでやらないんだって。冒険者になって、あのワイン護送でケガして、リーダーやエマがあんな事になって、色んな恐怖でごちゃごちゃしてました。きっと、ひいばあちゃんは、もっと、つらい思いをしたんだろうなって」
ミゲル君のひいお婆さんは、目を離した自分を責めたんやないかな? 自分の娘が先に逝くなんて、考えたくもない事やろう。母もそれを聞いて心臓が握り潰される思いやったやろうって。だけど、育児は待った無し、当時乳飲み子のミゲル君のお母さんを抱えて、悲しむ間もなく死に物狂いやなかったんかな? やっと曾孫たちも元気に育った頃に、ミゲル君のお姉さんが目の届かないところに行くのが怖くてたまらなかったんやないかな。
「はい。俺もやっとそう思えるようになったの、あの件がきっかけですから。だけど、ひいばあちゃんは、自分の忠告を無視して家出した俺を許しているとは思えないんです。許して欲しい訳じゃないけど、それでも俺が今大事にしなきゃいけないのは、ユイさん達ですから。ひいばあちゃんに俺が帰ってきてるのがバレて、何か起こるの嫌ですから。まあたぶん、無視されるとは思いますけどね」
へへ、と笑うミゲル君。
「奴隷が家族から出たって世間に広まると、店にも迷惑かけるだろうし、俺は遠目にちらっと会えればいいんです。きっとひいばあちゃんは、母ちゃん達に俺と会うのは許さないと思うし。ですから奴隷解放の後に堂々と会いに行きます」
なんて言っていたけど。
シーラは奴隷に厳しい目を向ける。ミゲル君のお家が経営する仕立て屋さんに、何らかの悪影響が無いわけでもない。風評被害的なやつね。
でもなあ、何とか面会出来ないかなぁ。もう何年も会ってないし、マデリーンさんと違ってミゲル君はあまり手紙を出さなかったし。きっと奴隷云々で、お店に迷惑かけたくなかったんだろうけど。
それにミゲル君のご両親やご兄弟も、きっと心配しとると思うんやけどなあ。
ミゲル君のお家には迷惑かけられないし、うーん、もどかしい。
「どうしましたユイさん」
ノワールのブラッシングが一段落したのか、ホークさんがむむむ、と悩み顔になっていた私に気がついた。
「いえ、ちょっと」
ちら、と見るとミゲル君は元気にベロンベロンされて、わー、と押し倒されている。襲われていませんよ、じゃれてるだけですよ。ミゲル君はニコニコと座り直して、元気をブラッシングしている。視線の先に気がついたホークさん。ああ、とつぶやく。
「ミゲルの家族の事ですか?」
ホークさんが小声で聞いてくる。
「あ、はい」
誤魔化そうと思ったけど、すぐにバレそうなので素直に頷く。
「確かに奴隷という立場は、シーラでは厳しいですね。俺もミゲルが家族に分かるように会うのはお互いに避けるべきだと思ってます」
「それは周囲に分からなければいいんですよね?」
こっそり、私達が滞在する宿に来てもらうとか、どこかで場所を借りるとかダメかな?
「ミゲルのひい婆さんがそれを許してくれたら可能かも知れませんね」
「そこまで、奴隷ってだけでダメなんですね。それとも家出が許せないのかなあ?」
ミゲル君の話だと、頑固さんみたいやし。いっそ、ミゲル君だけ奴隷解放しちゃう? なら、鷹の目の皆さんも一緒に。もともとはアレスやイシスに会えたら解放予定やったんやし。
「うーん、それ以上に複雑だと思いますよ」
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