上 下
814 / 824
連載

三度目の首都㉙

しおりを挟む
 無事に出荷となりました。
 それに伴い書籍化された部分は取り下げとなりました。
 書店さんに届くには数日要するようです。

 いいねが130万超えました、ありがとうございます。励みになります、いいねくださった皆さんありがとうございます。

 ふわぁっ、と女の子の頭上に光り輝く、薄いベールが幾重にも広がる。とても綺麗で、私は言葉が出ない。女の子も輝くベールに意識が奪われたように見上げている。
 指示を出していた教会の人と、鎖をどうにかしようとしてくれたトビアスさんが言葉を失っている。
 光り輝くベールは、ふわぁっと女の子を包む。
 次の瞬間、私は思わず引きそうになる。
 女の子の身体から、細かい真っ黒な粉が噴き出してきた。まるで蚋みたいで、見た目がかなり悪かっ、完全にホラーやっ。近くにいた父も、何か詰まったような声が出そうになり、必死に抑えている。
「え、え……」
 女の子も自分から噴き出すそれに、一気に恐怖の色に。いかんっ、私でも引く現象に、精神的に参っている女の子には、かなり、いやとんでもなくヘビーなやつやっ。
 これはおそらく呪いとかを解除する過程で出るもんやろうけど。
「だ、大丈夫っ、ルージュが呪いを解いてくれているだけやからねっ」
 父が安心させるように声を掛けるが、女の子の顔には恐怖がいっぱい。さまよう視線が私を捉える。
 視線が物語る、怖い、と。
「大丈夫よっ、おいでっ」
 咄嗟に私は両手を広げると、女の子はこちらに向かって体を動かす。動かすが鎖が邪魔をしているから、私は女の子の体を抱き寄せる。
 布越しでもわかる。ガリガリに痩せた体。お風呂にも入れてもらえなかったのだろう、体臭が鼻を突く。
 まだ、成長期真っ盛りの女の子なのに。
 怒りと同時に、悲しくなるが、私にしがみつこうとする女の子の体から、絶え間なく真っ黒な蚋が噴き出す。
 私は光り輝くベールを邪魔していないが、心配したが、魔法を操るルージュが目で問題ないと伝えてくれる。
「大丈夫よ、ルージュが、神様が、あなたを助けてくれるけんね」
 この騒ぎが治まった後があるが、今は、女の子を縛る呪いと拷問用の魔道具をどうにかせんと。女の子を抱き寄せて分かったが、枷と鎖から小さな音が響く。呪いの解除と同時に、魔道具の解除もやりこなしている。やっぱりルージュは凄かっ。
 必死に私の服の裾を握る女の子に、大丈夫と繰り返す私。
 どれくらいしたか、時間にしたら、おそらく一分かかっているかどうか。
 女の子から噴き出す真っ黒な蚋がピタリと止むと同時に、枷と鎖が砕け散る。
『私にかかればこんなものよ。ユイ、お父さん、終わったわ』
 ルージュが今までで一番のドヤ顔を出す。
「ありがとうルージュ。ほらね、大丈夫やろ」
 私は腕の中で震える女の子に、優しく声を掛ける。枷が嵌められていた手首の皮膚は、青紫に変色し、一部いびつな跡になっている。
 女の子はぷるぷると外れた枷を見て、戸惑いながら私を見上げてくる。顔色悪いが、かわいか顔してるやん。
「なんて素晴らしいんだっ、これだけの解呪の魔法を、この短時間でっ」
 駆けつけれてくれた教会の人の言葉に、私は鼻が伸びる。ふふん、うちのルージュはすごかのよ。すると、視界の端で私と同じ顔の父。
「さ、手の傷は治そうね」
 次はずっと枷を、ダメージを受け過ぎた手首の治療や。なんせ私にはこれがある。

 てってれってー。

 効果音をつぶやきながら、アイテムボックスから取り出したるは、下級エリクサー。
 びくうっ、となる女の子。
「あ、これはね、とってもよく効くポーションでね」
「ミズサワ殿、お待ち下さい」
 なんと止めてきたのはオスヴァルドさん。
 なんで? 思いっきり顔に出てしまった。
「傷の記録をしなければ、虐待の証拠となりません。必ず手当てをします」
 すう、とオスヴァルドさんが息をつく。
「連中を徹底的に叩くために」
 オスヴァルドさんは私の腕の中で呆然としている女の子に声を掛ける。
「私は君を助けたい、どうか、協力してくれないだろうか?」
 声を掛けられた女の子は、どうしていいか分からない顔だ。
『主ヨ、コノ臭イ雌ハドウスル?』
 あ、忘れとった。
 イシスの風圧で……あら、なんか、ちょっとおかしか? あら? 頭、あら? 石畳にへばりついている、あのゴテゴテローブ、ピエロ感が増した聖女よね? そして元気が何やら咥えている。金色の、あれ、まさか。
 か、か、鬘やっ。
 金色の鬘やっ。ピエロ感が増した聖女の地毛って、茶色やっ。しかも、斑に地肌が見える。脱毛症なんやっ。残っていたギャラリーの人達が気がついて、こそこそと話している。元気が鬘を咥えて、たったと振り回しながら走っているから余計に。
 確かにこの子に酷いことをしたかもしれないが、同じ女としては、人の目に晒したくない事やない? 息も絶え絶えの様子で顔を上げると、ものすごく悔しさが溢れているが、恥ずかしさがしっかり混じっている。
 これは、ちょっといかんやろ。
「お父さん、こん子お願いっ、ちょっと待ってね。大丈夫よ。ここにいるビアンカもルージュもアレスも、ドラゴンが来たって鼻息でちょんって倒せるけんね」
 私は父に、キョトンとする女の子を託す。
 馬車から飛び降りて、アイテムボックスから魔境のウルフ達の為に、常備しているおやつで元気を捕まえる。おやつを見ると、元気は、鬘をぺっ、としてから飛びかかってくる。慣れたもので、躱しておやつを上げる。私は鬘を拾い上げる。あ、元気のよだれが。そっと拭いて、顔を真っ赤にして、立ち上がれないピエロ感が増した聖女の元に。すぐ近くに、ホークさんとチュアンさんが付いてきてくれる。
「ユイさん危険ですっ、アレに近付くのはっ」
「それはわかるんですけど、さすがにこれは返さんと。もう動けんと思いますし、向こうが何かする前に、イシスが抑えるでしょうし、私には白夜がいますから」
 イシスは当然だと言わんばかりの顔だ。私は鬘を手に精も根も尽き果てた様に蹲るピエロ感が増した聖女の元に駆け寄った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幸子ばあさんの異世界ご飯

雨夜りょう
ファンタジー
「幸子さん、異世界に行ってはくれませんか」 伏見幸子、享年88歳。家族に見守られ天寿を全うしたはずだったのに、目の前の男は突然異世界に行けというではないか。 食文化を発展させてほしいと懇願され、幸子は異世界に行くことを決意する。

何でも奪っていく妹が森まで押しかけてきた ~今更私の言ったことを理解しても、もう遅い~

秋鷺 照
ファンタジー
「お姉さま、それちょうだい!」  妹のアリアにそう言われ奪われ続け、果ては婚約者まで奪われたロメリアは、首でも吊ろうかと思いながら森の奥深くへ歩いて行く。そうしてたどり着いてしまった森の深層には屋敷があった。  ロメリアは屋敷の主に見初められ、捕らえられてしまう。  どうやって逃げ出そう……悩んでいるところに、妹が押しかけてきた。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。

しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹 そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる もう限界がきた私はあることを決心するのだった

ぬいぐるみばかり作っていたら実家を追い出された件〜だけど作ったぬいぐるみが意志を持ったので何も不自由してません〜

望月かれん
ファンタジー
 中流貴族シーラ・カロンは、ある日勘当された。理由はぬいぐるみ作りしかしないから。 戸惑いながらも少量の荷物と作りかけのぬいぐるみ1つを持って家を出たシーラは1番近い町を目指すが、その日のうちに辿り着けず野宿をすることに。 暇だったので、ぬいぐるみを完成させようと意気込み、ついに夜更けに完成させる。  疲れから眠りこけていると聞き慣れない低い声。 なんと、ぬいぐるみが喋っていた。 しかもぬいぐるみには帰りたい場所があるようで……。     天真爛漫娘✕ワケアリぬいぐるみのドタバタ冒険ファンタジー。  ※この作品は小説家になろう・ノベルアップ+にも掲載しています。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。