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三度目の首都㉗

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 携帯新しくしました。サクサク書けます(笑顔)。


 駆け出す先に立ちはだかるのは、ピエロ感が増した聖女が自身の胸に手を当てている。おそらく自身に支援をかけているんやろう。
「アップッ、ダウンッ」
 晃太が察してバフとデバフを連発。バフは当然私だ。身体が温かくなる。
『ユイッ、私が吹き飛ばすのですっ、うっ、臭いのですっ』
『もう蒸発させましょうっ』
 物騒だけど、頼もしいか。この二人は有言実行できるから、いくらんでもいかん事になる。
「ダメよっ、フォローだけしてっ、アレスもよっ」
 視界の中で、アレスが嫌そうな顔で後退りしながら、恐ろしい鼻息放ちそうになっていた。ぶー、な顔になっている。
「ユイさんっ、俺がっ」
 ホークさんも続くが、ここは私がでるべきや。
「男が女に手を出したらダメですっ」
 晃太の支援もあり、一気にピエロ感が増した聖女に迫る。とにかく襟首掴んで引き倒して、押さえつけよう。その間に、女の子をオスヴァルドさんに保護してもらおう。
「キィィィィッ」
 甲高い、耳障りな声を発しながら、ピエロ感が増した聖女が爪を振り上げる。
 晃太の支援のおかげで、私は軽く払う。
 よし、あとはあの豪華な襟を掴んで…
 一気にピエロ感が増した聖女に近づく。
 …くっさぁぁぁぁぁっ
 なにこれ? 汗? 体臭? 香水? 化粧? 鼻をつつき、胃から何かが吹き出してきそうな、色んな匂いか混じりに混じって、なにこれっ、くっさぁぁいーっ。
 私は瞬時に押さえつけると言う判断を捨てる。無理っ、臭かっ。反射的に上唇で鼻の穴を塞ぐ。
 とにかく離れたいっ、掴んでしまった襟首、追加で袖もつかんで。
 とうっ。
 膝の裏に足を引っ掛けて、後ろにひっくり返るように倒す。私、中高で柔道していました。大外刈みたいな感じね。頭を打たないように袖を引いて、よしっ、臭かっ、離れよう。
「ぐふうっ」
 ピエロ感が増した聖女は、背中を石畳で打ち付けて顔をしかめている。私は放置する。だって、臭かもん。
 私は床板だけになった馬車に飛び乗る。
 女の子は、さすがに驚いた顔になっている。鎖は所々錆が入り、女の子の手首は枷に繋がっているが、除く細い手首には、皮膚が痛々しく赤黒くなっている。おそらく昨日今日の傷ではない。色素沈着を起こすほどに、長い時間付けられているのだろう。
 カッ、と頭に血がのぼりそうになる。まだ、どう見ても小学生みたいな女の子に、なんて事を。
「すぐにこれ外すけんねっ」
『ユイッ、触らない方がいいわっ。それから嫌な魔力を感じるわっ』
 慌ててルージュが駆けてくる。
『臭いわねっ、あっち行きなさいっ』
 ベシッ、と闇の触手でもがきながら立ち上がり、ピエロ感が増した聖女を掴んで高速クレーンの様に移動させる。わーわー、ギャーギャー言ってるが女の子を見て、申し訳ないとか、怪我してないかとか思えない。ぽいっ、と放り出されている。
 続いて来たオスヴァルドさんも馬車に上がる。
「これは」
 女の子の状況を間近に見て、オスヴァルドさんの顔が強面から更に険しくなる。
「ルージュ、どうにかできる?」
『ちょっと待ってね、これは…初めてだわ、お父さんに見てもらわないと、妙な魔力よ、この童に深く繋がっている感じだけど』
 ルビーのような赤い目を細めるルージュ。
 ルージュでも分からないなんて、ダンジョンにある魔力を含む罠付きの宝箱は確率100%で解除できている。つまり、魔力が関わるようなものは、ルージュにかかれば解除可能なのだ。罠の解除技術で冒険者ランクを上げたエリアンさんさえも、ルージュの罠解除でその繊細な魔力の扱いを目の当たりにして舌を巻いた。そのルージュが父の鑑定を頼りなんて。普通の鎖やないって事や。

 お嬢さん、聞こえるかの。

 始祖神様の声が響く。
 はい、了解しました。
 私は息を吸う。
「どなたかっ、魔道具に詳しい方はいませんかっ」
 声を上げる。
 父に見てもらえば一発だろうけど、第三者の証言が後々必要になってくるって。すぐ近くに、名乗り上げてくれる人はいると。
「お父さんも来てっ、この鎖、調べてっ」
 私の声に父が弾かれたようにこちらに向かってくる。ミゲル君が一緒に走ってくる。そして、遠巻きに見ていた人達から、一人の男性が飛び出して来てくれる。
「テイマー様っ、遅くなり申し訳ありませんっ」
 そこに教会から男性の牧師さん達、ギルさんを彷彿とさせる人達が来た。もしかしたら、首都の教会所属の戦闘部隊かも。ちら、と女の子を見て、先頭の男性は、シスターを呼ぶように後ろの若い男性に指示している。
「ウルガー准将っ」
 新たに現れたのは、青いマントの騎士達。首都の警備をしている青騎士団だ。
「そこに転がる連中を拘束せよっ」
「「「「はっ」」」」
 手早く青騎士団が動き出す。
 まだぐったりしている機能性の低そうな鎧の聖騎士達と、成金神官達を手際よく縄で縛り上げる。青騎士団の装備なのか、背中から縄を出している。
「ふざけるなっ、我々に敵に回してタダで済むと思っているのかーっ」
 もんどり打っていたピエロ感が増した聖女が、つばを飛ばしながら叫ぶ。まだ、言うかね。
 だけど、視界の中で、女の子が急に怯えの表情になる。真っ青になり、息が促迫する。これは、やっぱりかなり根強く怖い思いをしていたんや。始祖神様も言ってた。このままだと衰弱死か自殺するって。
「大丈夫よ、もう、あのピエロみたいなのは、こっちに来れんからね」
 私は出来るだけ優しく声をかける。だけど、女の子はカタカタと俯いて震えている。
「優衣」
 まずは父が到着して、鎖を見る。一瞬に眉間に皺が寄る。
「お父さん?」
「これは、質が悪る過ぎや」
「どうにか出来る?」
「そうやな」
 父は目を細めて、鎖を見ている。
 意識に外にやったピエロ感が増した聖女が突撃したが、ぴたり、と止まる。
『見苦シイナ』
 イシスがその強靭な鉤爪が、がっちり頭を掴んでいる。当然に進むわけない。厄災クラスのイシスに頭を掴まれて、更にギャーギャー騒いでいる。まあ、ただでさえイシスはデカいし、グリフィンと言う高位魔物に頭掴まれたら、怖いかな。
「穢らわしい魔物めっ、私は、聖女であるぞっ」
 みっともなく喚いている。必死に魔女みたいな爪を立てているが、イシスの鉤爪に歯が立つなわけない。
『ヌッ、臭イッ』
 翼で鼻を覆い隠している。
『タマランッ』
 イシスは鉤爪を外して、鼻を覆い隠していない方の翼でバサバサ。ギャーッ、臭いが拡散してこっちに来たーっ。ホークさんと、チュアンさん、オスヴァルドさんにエドワルドさんまで、うっ、と顰めている。ピエロ感が増した聖女は、イシスの風圧に耐えられず、その場に蹲っている。
「はぁっ、はぁっ、私、トッパで魔道具を扱う技師をしておりますっ」
 私の声に応えて飛び出してきてくれたのは、
「トビアス」
 さっきまでエドワルドさんと談笑していた男性だった。
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