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カルーラで年明け~春まで⑨

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「ミズサワ様、先ほどはデリックが失礼を」
 コーディさんとデボラさんがペコリ。
 いえいえ気にしてませんよ。
「デリックが先ほどの事を謝罪したいそうです」
「はい、受け入れます」
 さっきから、デリック君がこちらをちらっと見て、直ぐに俯くを繰り返す。口はちょっぴりへの字。なんだか、かわいか。
「ほら、デリック」
 デボラさんに背中を押されるデリック君。デリック君は不安そうに振り返るが、促されこちらにおずおずと来る。ちらっ、ちらっと見てくる、かわいか。
『大丈夫なのですよ』
『そうね』
 分かっとるがな。
 デリック君は私の前に。
「あっちいけ、言って、ごめんなさい」
「うん」
「ばか、とか言って、ごめんなさい」
「うん、怒ってないよ」
 すると、ホッとした顔になる。応接室内にもホッとした空気が流れる。
 デリック君がデボラさんの元に、走って戻っていく。
 それでコーディさん達は退室となった時。エリンちゃんがビアンカとルージュを見ているが、当のビアンカとルージュのお菓子を食べたいと、晃太にきゅるんきゅるんしている。
「わんわんしゃわりたい」
 くうん、と泣きそうなエリンちゃん。
「少しくらいいいですよ。ビアンカ、よかよね?」
『いいのですよ。こんな小さな童一匹』
『ビアンカは人気ね、ねえ晃太、食べちゃダメ?』
「たのむけん、じっとしとって」
 鼻面を押し付けてくるルージュを、呆れた顔で押し返す。
 しかし、抱えていたコーディさんが困り顔だが、触りたい触りたいとエリンちゃんがぐする。そうなるとデリック君も触りたい様子。せっかくだしね。先ほどのケイシーちゃんとカール君も希望があれば、触っていい事を伝える。
 それからビアンカのおさわりタイムとなる。
 ケイシーちゃんとカール君もやって来た。ケイシーちゃんだけ、もう一度ご挨拶してくれる。うん、しっかり者って感じ。
 メイドさん達があわあわしているが、子供達はビアンカをさわさわ。ルージュはガチに猛獣の顔だからね、避けられる事がある。
「ふわふわ」
「柔らかーい」
 おっかなびっくりカール君とデリック君。エリンちゃんは毛並みに沈んでよく見えなくなってる。ケイシーちゃんはおずおずと触っている。
 うん、なんて平和的な絵。
「おかしたべるゅー?」
 エリンちゃんがビアンカに焼き菓子をはい、どーぞ、と差し出す。わあ、ちっちゃい手。
「エリンちゃん、お菓子は手のひらに乗せてね」
 私がそっと言う。
「あーい」
 かわいか。
 止めようとするメイドさん。
「ビアンカは噛んだりしませんよ」
 エリンちゃんのちっちゃい手のひらに乗ったお菓子をビアンカがペロリ。エリンちゃんはビアンカのでっかい舌にびっくりしているが、きゃっきゃっと笑う。次々に差し出していくエリンちゃんに習うようにケイシーちゃん達も差し出すとビアンカはペロリペロリ。当然ルージュが我慢できずに横からペロリ。子供達大興奮。やっとルージュにもお菓子を差し出してくれている。
 子供達がきゃっきゃっと言って楽しそうなので、今日は難しい話はしないことになる。こんなに楽しそうなのに、引っ越しして生活を一変せざるを得なかった理由が含まれる『呪い持ち』の話は避けようって。
 ケイシーちゃんやカール君には少しずつ説明していくが、本人がどれだけ理解し、現状を受け入れができるかは、実際は分からない。
 せっかく楽しそうだからね。モーガンさん達の現在の生活状況を聞くことになる。
 モーガンさん夫妻は大使として当然お仕事していて、バーナーさんは補佐官、コーディさんは大使館を管理するスタッフとして働いている。基本的には大使館に詰めて、外出はしない。必要なもの、食料品とか日用品は大使館スタッフ、コーディさん以外ね、その人達が買ってくる。
 つまり、この大使館から出ることはない。それは家族もだ。
「ずっとですか?」
「いいえ、例の件が済めば、多少は出来ますが、今は大事をとり控えています。ただ、子供達には不便をかけています」
 それが申し訳ないと顔に出ている。カルーラに移り既に三ヶ月以上経つがジェフリーさんとモーヴさん以外は外出していない。今は冬場だからといって、子供達は何とか理解してくれてはいる。だが、もともとアスラ王国に住んでいた時、子供達は週に一度図書館の読み聞かせ会に通っていた。とても楽しみにしていたと。それに最近まで近所のお友達とも駆け回っていたのに、限りある大使館内にずっといなくちゃいけないなんて、窮屈やろうなあ。しかも病気で、とかの理由じゃないし。気軽に散歩も出来ないのは辛いなあ。
「例の裁判が終わるまでですから」
 笑うジャスパーさん。
 それっていつ頃なんやろ?
「いつ頃ですか?」
「夏、過ぎでしょうか」
 半年近く先っ。
 ちょっと息がつまらん? うーん、うーん。ビアンカとルージュにきゃっきゃっとお菓子をあげている姿を見る。毎週の楽しみがなくなり、お友達とも離れてしまっている。なんだか、なあ。
 大使館を出ないのは安全面の問題よね? なら、いい手がある。
「良かったら、うちに来ます? 子供達の気分転換を兼ねて」
「えっ?」
 モーガンさん一家が私に視線を集める。
「ようは安全面ですよね心配なのは、うちには最高の警備員がいます」
 ビアンカとルージュもいるが、何より厄災クラスのイシスとアレスもいる。オシリスとアリスだっている。最近、三人衆の快進撃も凄いが、三人娘だって負けてない。ノワールもいるしね。
「毎日なんて無理ですが、そうですね、私がパーティーハウスにいる時だけ。たまにルーティに行くことがありますから。ああ、うちに遊びに来る時はサエキ様の経由は必要ありませんよ」
「しかし、ご迷惑では」
「迷惑なんて思っていませんよ。事情は理解しているつもりです。うちの両親だって今のモーガンさん一家の現状を知って、ダメなんて言うような人達ではありませんよ」
 モーガンさん達が相談を始める。
「どうしようか?」
「せっかく、ミズサワ様からの申し出ですわ」
「最近、カールも出たがっています。ケイシーは我慢していますが」
「デリックもエリンもそうですわ」
「う、うーん」
 家長のジャスパーさんがお悩みモードに。
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