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カルーラで年明け~春まで⑧

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「ミズサワ様、お騒がせしまして申し訳ありません」
「いいえ、デリック君落ち着くといいですね」
「はい。お心遣い感謝いたします」
 新しくお菓子を出してくれる。ふんが、言わんで。ふんが、ふんが。お茶も新しく出してくれそうになったが、私は猫舌気味、晃太はしっかり猫舌なのでそのまま頂く。薄くスライスされたレモンが添えられていたので、レモンティーにしてみた。爽やかな香り。温度が飲みやすい。
 ふう、あ、話、呪い持ちに関しての話だったけど、それどころじゃなくなった。でも、デリック君心配やしなあ、どうしよう、あ、そうや。
「あのモーガンさん、追加でお渡ししたいものがあるのですが、受け取って頂けないでしょうか?」
 会話のきっかけ、ぷらす自己満足。
「え? こちらがご迷惑をおかけしていますのに」
 モーガンさん達が戸惑いの顔。
「これはそうですね。私の自己満足ですので」
 顔を見合わせる面々。
「ルーベサンシュというものはご存じですか?」
 私が投げ掛ける。
「はい、アスラ王国では北部の一部でとれる魔物ですね」
 良かった、ご存じみたい。
「実はかなり手に入りまして、お譲りしたいんです」
 最近雪かき依頼があるので、ビアンカとアレスが出掛けている率は高いし、ルージュは寒がりだし、ノワールはせっせとレディ・ロストークの元に通っているので、そうそう頻度は高くないが、ちゅどんドカンして手に入って来ている。
「しかし、ルーベサンシュは高級品では」
「これはダンジョンで手に入ったのです。なので、元手はタダですよ。あ、ギルドが非公開を決めましたので、ご内密に」
 私は晃太に耳打ち。こそこそとレースのハンカチに、乾燥処理されたルーベサンシュを三枚のせて包む。
「どうぞ。デボラさんに必要な栄養が含まれていますので」
 そこでびっくりされる。
「ど、どういう事でしょうか?」
「乳飲み子抱えていますよね。うちのビアンカとルージュは鼻がいいので」
 あー、みたいな顔をされた。私は乾燥ナマコ、ルーベサンシュを包んだハンカチをテーブルに乗せて押し出す。
「まだたくさんあるのでどうぞ」
 戸惑いのジェフリーさんに、モーヴさんがそっと耳打ちする。やっと決心がついたみたい。
「ありがとうございますミズサワ様、早速、デボラのために調理を致します」
 ジェフリーさんはハンカチごと受け取り、メイドさんに渡す。
「赤ちゃん、いま、おいくつなんですか?」
「生後二ヶ月です。やっと首が座りまして」
「へー、って、まさか、カルーラで産まれたんですか?」
「はい、そうですね」
「移動、大変だったんじゃ」
 そう。モーガンさん一家がカルーラに大使として移ったのは、秋のはず。デボラさん、かなりお腹が大きかったんやない?
「はい。大変でした。いつどうなってしまうかとヒヤヒヤしながらでの移動で」
 ジェフリーさんがカルーラまでの移動を話てくれる。
 モーガンさんの長男バーナーさんが階段から突き飛ばされ、次男のコーディさんはナイフを持った破落戸に襲われた。自宅には怪文書が投げ込まれ挙げ句ボヤ騒ぎ。とうとうイヴリン王太子妃殿下が、モーガンさん一家を守るために、大使として理由を着けて国外に避難させた。
 理由としては、『呪い持ち』に関する法案や、保護する修道院建設推進派代表みたいなものだったから。法案は国会で可決されたからどうしようもないが、修道院建設を反対する色んな人達からの度が過ぎる嫌がらせ。
「当時デボラは妊娠七ヶ月でした、カルーラまでの長距離移動は悩みましたが、置いていくには不安で不安で、コーディ達だけアスラ王国に残り、コロンが産まれてから、移動と考えなかったわけではないのです。しかし、あのボヤ騒ぎで、アスラ王国内に留まるのが危険だと判断しました」
「そんなひどいボヤ騒ぎ? 放火レベルやないですか?」
 私が反射的に口にすると、表情を更に固くするモーガンさん達。
『ユイ、様子がおかしいのですよ』
『少しずつ怒りが沸いているわね』
「正式にはボヤ騒ぎとされましたが、あれはミズサワ様の仰る通りに放火です。ケイシー達が眠っていた子供部屋を狙って」
 最悪っ。
 モーガンさんは悔しそう。
「幸いにも、我が家は水魔法に長けたメイドと騎士がおり、怪文書の事もあったので警戒を強めていたところでした。ケイシー達は直ぐに避難させて無事でしたが、これをきっかけにコーディ達だけ残しておけないと思ったのです。放火は警備に圧力がかかってボヤ騒ぎとされてしまいましたしね。それで、皆でカルーラに参りました」
 圧力って。多分、権力のある人達、コルコス公爵か、その腰巾着の伯爵達かな? 本当に質悪い。確かに物理的に距離を置くのも一つの手だよね。アスラ王国から出て、ユリアレーナに移動すれば、国境を超えての嫌がらせも確実に減る。それでも毒矢なんか使って襲って来たが、それが結局、向こうの運のつきだ。
 モーガンさん達はお腹が大きいデボラさんの体調を第一にして慎重に移動。何とか到着はしたが、やはり無理がかかったのかデボラさんは予定日かなりも早く出産。それがコロンちゃん、女の子ね。
 あら? デボラさんのご実家はどうしたのかな? 関わるとやっぱり火の粉がかかるからと、デボラさんを保護しなかったのか? モーガンさん達が迷惑かけれないと、断ったのかな? これは後日、デボラさんから聞くことになる。
 ここから話はモーヴさんにバトンタッチ。
「デボラは精神面の疲弊をきたし、母乳の出が悪かったのです。このような状況の為に、乳母を雇い入れるのもなかなかうまくいかずもどかしい思いでした。ミズサワ様、ルーベサンシュ、ありがとうございます、これでデボラも安心できます、コロンにもしっかり栄養がいきますわ」
『落ち着いて来たのです』
『大丈夫みたいね』
 話をすることで、当時の事を思い出しただけやったかな。しかし、抵抗力のない子供のケイシーちゃん達を狙うとは、許せん。
「それは良かったです」
 私は性懲りもなくお菓子を狙うビアンカとルージュの鼻面を押し返す。
 そこに扉がノックされる。
『大丈夫なのです、ふごー』
『そうね、ふごー』
 やめて、恥ずかしか。
『コーディです。入室の許可を』
 ジャスパーさんは私にお伺い。問題ないようやし、了承する。
 扉がメイドさんが開けて、入ってきたのはエリンちゃんを腕に抱いたコーディさん、デボラさんと手を繋いだデリック君。あらあら、お鼻がまだ赤いよデリック君。やけど、明らかに落ち着いた様子で、私はホッとした。
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