上 下
730 / 820
連載

カルーラで年越し~春まで⑦

しおりを挟む
 イシスが先頭で進むと、暗い中に、灯りが灯された馬車が浮かぶ。
 あ、地面に転がるのは、荒くれ風の格好をした男達。アレスがじーっと見ている。し、死んでないよね。
 駆け付けると、チュアンさんがルージュと護衛騎士の一人の手当てをしていた。
「ルージュ、チュアンさんっ」
『ユイ、イシスも来たのね。殺意があったのはすべて拘束したわ』
「ユイさん。手当てはほぼ済みました。大使は馬車内です」
「ありがとうございます。ルージュ、ありがとう」
『これくらいいいのよ』
 護衛騎士、中年くらいの騎士は座ったままペコリ。どうやら肩に矢を受けたみたい。地面に矢じりに血がついた矢が転がっている。大変なお仕事やな。他の二名も手当て済んでいるようや。一番若い騎士は座り込んでいたが立ち上がり、もう一人はベテラン感のある騎士は、周囲を警戒している。
 ホークさんは馬車を引いていた馬を宥めている。馭者さんも真っ青だけど、無事のようや。
 そこにマデリーンさんと共に警備の方が数人走ってきた。
 暗闇からビアンカが姿を表す。
『ユイ、殺意があった連中は気絶させてあるのでる。そこにまとめているのです』
 薪やないやろうに。やけど、結構な数やな。何事? 大使って、そんなに危ない役職なんなね。
「ありがとうビアンカ」
 さて。
 私は馬車に向かって声をかける。
「モーガン大使、ミズサワです。もう大丈夫ですよ」
 中から少し顔を出したのは、侍従の方だ。
「ミズサワ様、ご助力感謝致します。大使夫妻はご無事です。安全を期して、このまま大使館に戻りますが、後日改めて御礼のご挨拶に参ります」
 まあ、そうだわな。いくらビアンカやルージュ達がいても避難せんとね。
「分かりました。イシス、心配やけん着いてってくれる」
『ウム、ヨカロウ』
「このイシスが大使館まで同行しますので、ご安心ください」
「重ね重ねありがとうございます」
 侍従さんは、中年の騎士の方に事情説明の為に残るように伝え、馬車は去っていった。
 さあ、後片付けやね。こん人達、どうしようかね。

 私の事情聴取は直ぐに終わった。
「テイマー様はお帰りになってかまいません」
 いいのかな?
「ユイさん、俺とチュアンは残ります」
「姉ちゃんはマデリーンさんと帰り、わいが通訳で残るけん」
 襲撃者を実際撃退したのは、ビアンカとルージュなので、通訳として残ってくれる。
 アレスが暇になったのか、気絶した襲撃者をツンツンし始めた。やめて、単なるツンツンでもアレスみたいにデッカイのがやるのは恐い。アレスを連れて先に帰ることに。
「ほら、アレス帰るよ」
『分かったのだ』
 ツンツン。やめて。
 私はマデリーンさんとアレスでパーティーハウスに戻る。
 父も既に帰宅していたみたい。
「優衣、モーガンさん達は?」
 足元にお帰りローリングを披露する花を撫で回す。母が心配そうに聞いてくる。
「大丈夫よ、安全策のために大使館に先に帰ったよ。晃太とホークさんは事情聴取ね」
「そうね」
 話を聞いて、ほっとしたような母。
「やけど怖かね。大使が襲われるなんて」
 母がローリングから戻って来た花に、こわかね、と語りかける。確かに、これが日本なら大問題やない? いや、外国でもそのはず、国際問題や。
「国際問題になりますよ。おそらく領主様が直々にうごかれますよ」
 と、マデリーンさんが教えてくれる。
「え? イコスティ辺境伯が? そうなります?」
「そうなります。アスラ王国の大使が、自分の管轄内で襲撃を受けて何も動かなければ、無能の烙印を押されますからね。これが大使や負傷したり、命をおとしたりしていたら、前代未聞ですよ」
 あ、やっぱり。
「後は襲撃者達の意図ですね。それ次第で事態が変わりますけどね」
「そうですか」
 襲撃者達の意図ね。護衛騎士を引き連れた馬車を襲ったのだ、単なる破落戸とは思えないし、数が多い気がする。素人の私もそう考えてしまう。
「晃太とホークさんは遅くなるかね? ご飯どうしようかね?」
 母が悩んでいるが、何時になるか分からないから、とりあえず準備して、私のアイテムボックスにいれておくことにする。
 イシスが早々と帰って来たが、やはり晃太達の帰りは遅かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

別に構いませんよ、離縁するので。

杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。 他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。 まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。

【完結】虐げられた令嬢の復讐劇 〜聖女より格上の妖精の愛し子で竜王様の番は私です~

大福金
ファンタジー
10歳の時、床掃除をしている時に水で足を滑らせ前世の記憶を思い出した。侯爵家令嬢ルチア 8さいの時、急に現れた義母に義姉。 あれやこれやと気がついたら部屋は義姉に取られ屋根裏に。 侯爵家の娘なのに、使用人扱い。 お母様が生きていた時に大事にしてくれた。使用人たちは皆、義母が辞めさせた。 義母が連れてきた使用人達は私を義母と一緒になってこき使い私を馬鹿にする…… このままじゃ先の人生詰んでる。 私には 前世では25歳まで生きてた記憶がある! 義母や義姉!これからは思い通りにさせないんだから! 義母達にスカッとざまぁしたり 冒険の旅に出たり 主人公が妖精の愛し子だったり。 竜王の番だったり。 色々な無自覚チート能力発揮します。 竜王様との溺愛は後半第二章からになります。 ※完結まで執筆済みです。(*´꒳`*)10万字程度。 ※後半イチャイチャ多めです♡ ※R18描写♡が入るシーンはタイトルに★マークをいれています。

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。