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カルーラで年越し~春まで⑤

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 ご指摘ありがとうございます。



「この度は、面会の場を設けていただきありがとうございます」
 馬車から降り、丁寧にご挨拶してきたのは、中年を越したあたりの夫婦だ。後は護衛の騎士達が三人と、馭者さんと侍従さん。
『敵意はないのですよ』
『あの雄達は警戒しているだけね』
 そうだろうね。ビアンカとルージュがしっかり私のそばにいますからね。それからしっかり装備品に身を固めたホークさんとチュアンさんもいるし。
 同行した御用聞きの冒険者の方にはお帰りいただく。
「私はアスラ王国大使を勤めています、ジャスパー・モーガンと申します。これは妻のモーヴでございます」
 外国の大使って、既婚者は基本的に奥さんとペアで動くんだって。
 モーガン夫妻はかちっとしたシンプルな出で立ちで、再び丁寧に腰を折る。
「お話は両親から伺っています。どうぞ、寒いのでお入りください」
 私はモーガン夫妻をパーティーハウスにご案内する。てっきり侍従さんと護衛の騎士の方が来るかと思ったが、夫妻だけで入ってきた。今回は非公式の訪問になるので、夫妻だけだけど。これが公式なら、侍従さんと護衛の騎士もいるし、場所も役場を使用するんだって。
 パーティーハウスの居間にご案内する。奥の台所から花のわんわんが響く。ルームは台所で開けているが、アリスが念のため入り口に陣取り、シルフィ達が飛び出してこないようにしている。モーガン夫妻は出迎えた母にもご挨拶する。
「どうぞ、お掛けください」
 私はソファーを進める。
「失礼します」
 着席を確認してから、私は話を切り出す。
「両親から非公式な事と伺っておりますが」
「はい」
 と、きちんと座ったジャスパーさんが答えてくれる。
「此度の事は非公式であります。ただ、ミズサワ様よりご献上いただいたルビーが、王家の威信を守っていただくことになり、アスラ王国国王アティカス陛下より、感謝のお言葉をお預かりしております。深く感謝申し上げます、と」
 と、深々と頭を下げるモーガン夫妻。
 あのリィマさんでも価格が良くわからないと言ったルビー。
 あれが王家の威信を守ったって、何事?
「いえ、あれはこれからもよしなに、って言うこちらの思惑もありましたので」
 そこまで感謝、しかも国王陛下からの感謝が来るとは思っていなかった。
 そこにマデリーンさんがお茶を出してくれる。
「ルーティにも短期間滞在しましたが、トラブルなく過ごせたのは、ご配慮あっての事だと理解しています」
 そう、マーファでも特にフェリアレーナ様の結婚式の後、時折だが豪商や貴族の人がパーティーハウスを訪ねてきた。ルーティでは一度もなかった。つまり、アスラ王国の上層部から注意喚起が行われたって事だ。
「それは予め、ミッシェル王太后殿下より、アティカス陛下に通達があったからです」
 なんと、私がカルーラに行くと知って、もしかしたらルーティのダンジョンに行くかもと推察してくれたみたい。わあ、何かお礼せんといかんかな?
「あの、不躾ですが、あのルビーがどうして役に立ったのですか?」
 だって、宝石だよ。エリクサーみたいに人は救えない。なのに、わざわざ国王陛下からのお礼があるなんて。
 ちら、と顔を見合せるモーガン夫妻。
「ミズサワ様、これから話す内容はどうかご内密に」
 あっ、しまった聞いたらいかんやつやったっ。
 ジャスパーさんが少し困り顔で話してくれる。
 アスラ王国王家に代々伝わる王冠がある。王様が被るやつね。基本的に気軽に被らない。新年の挨拶、王族の結婚式、建国式とか国の重要な式典のみ使用する。それ以外は宝物庫に厳重にしまってあるのだが。
 アティカス陛下の孫の一人がかなりの悪ガキ、失礼、やんちゃ君がいて、そのやんちゃ君がやらかしたみたい。
 王冠を遊びで被り、転けて破損。
 笑えない。
 そもそもなんで気軽に宝物庫に入れたわけ? そんなやんちゃ君なら大人がいれないでしょう。これには、ふかーい、経緯と事情があるけど、簡潔に言うとこう。
 やんちゃ君の母親は、アティカス陛下の第一子で元王女様。アスラ王国の公爵家に降嫁したが、何年も子宝に恵まれなかった。結婚して十八年してやっと授かったのがそのやんちゃ君ね。嬉しすぎたのだろうね、やんちゃ君を甘やかすだけ甘やかして、現在にいたる。元王女様は、やんちゃ君を産むまでは控えめ女性だったらしいが、やんちゃ君の関わることになるといきなり苛烈となり、周囲の言葉が耳に入らないようになった。あの日も、周囲が止めるのを無視して、宝物庫を探検したいと言うやんちゃ君の為に、元王女様の権利を振りかざして宝物庫を開けさせた。
 で、結果。
 代々、国王にしか被れない王冠で遊んで破損。
 降嫁したとは言え、元王女が関わっているので、王家にしてみたら、醜聞も醜聞、信頼問題にもなる。
 王冠の小さな飾りはどうにかできたが、問題は正面に位置する赤い宝石が真っ二つ。サイズも気軽に手に入るようなものでもなく、色合いも深い為、困った困ったとなった時に、私があのルビーを献上した。
 ルビーは全く同じ形ではなかったが、どうにか形を整えて代行品としたみたい。
 王冠はアスラ王国の建国時から受け継がれ、もっとも歴史のある国宝だ。それを国王の孫が遊んで壊しました、なんて言えない。下手しから、王家に難ありと言う人達もいるはず。ややこしいことになれば、割りを食うのは下の人達だ。王家はその人達が心配だし、呪い持ちの法案を可決後に揺れた国内がやっと静かになったのに、また国内が乱れるのを避けたいと。なので、ばれるわけにはいかないそうだ。そりゃそうだわな。
 ちなみに、その元王女様とやんちゃ君の処遇は、考え中。公爵の屋敷に軟禁しているって。
「ですので、どうかご内密に」
「それはもちろん」
 以前、転移門をユリアレーナに献上した時、私の税金がギリギリまで免除された。だが、このルビー献上自体がなかったことになるため、非公式にお礼の言葉だけになるのが、申し訳ないって。
「色々配慮していただいています。あのルビーがお役に立って良かったです」
 まあ、うちのバトルジャンキー達のちゅどんドカンのおかげだけどね。
 そこで、モーガン夫妻はお帰りになる。あら、もう暗いなあ。
 丁寧なご挨拶をして、私は馬車をお見送り。
 あのルビー、役に立って良かったのかな。その元王女様とやんちゃ君がどうなるか気になるけど。王女様のイメージは、フェリアレーナ様なんだけどなあ。なんだかなあ。
 馬車が見えなくなる。ふう。
『ユイ、あの番、狙われているのですよ』
『害意ではないわね、明らかな殺意よ』
『『どうする?』』
「直ぐに救助にいってっ」
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