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約一ヶ月⑥

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 無事にギルドに到着する。
「皆さん、よくご無事でっ」
 ラソノさんが奥から駆けてきた。
「ご心配をおかけしました」
「ご無事でなりよりです。さ、皆さんこちらに」
「あの、すみません、一度両親の所に行ってもいいですか? 仔達とシルフィ達をパーティーハウスに連れていきたくて」
「そうですね。きっと心配されていますでしょうし」
 体裁上、数ヶ月会ってない事になっている。ルームを経由して、毎日会っているけど、内緒だからね。
 まずは到着報告を済ませ、残るのは晃太、チュアンさん、ミゲル君、ビアンカ。それと各リーダーさんだ。本日はとりあえずパーティーハウスに全員泊まる予定。コテージがあるしね。現在大討伐が休息期で数多くの冒険者パーティーが、カルーラにいる。今年はあのゲリラ豪雨と土砂崩れで魔物分布が変わり、一年の延期がなされたそうだ。つまり、宿が満室の所が多い。探せばあるだろうが、今日の今日は厳しいだろうから、本日はパーティーハウスにお泊まりだ。明日以降宿の様子を見て、宿に移動するかどうか決める事になる。
 わざわざ御用聞きの冒険者の方が来てくれて、私達は一旦パーティーハウスに。ギルドに行く途中、帰る途中も色々見られたが、ほとんどが安堵の視線だ。やはり雪が振りだしても帰らなかったので、もしかして、なんて思われていたみたい。
 ホークさんがノワールの手綱を引く。明日、ホークさんはレディ・ロストークと赤ちゃんの様子を見に行く。私も着いていくことにした。だって、レディ・ロストークが心配だし、赤ちゃんみたいもん。
 きっと、レディ・ロストーク似の美少女やね。
 冷たっ、手に冷たいのがっ。
『主よ』
 アレスが鼻面を私の手に押し付けてきた。
「なんね?」
 きゅるん、と見てくるアレス。嫌な予感なひしひし。
『帰ったら、ボス部屋行ってもいいのだ?』
「君はマグロかなんかね? 動いとらんといかんやつね?」
『? 我はウルフなのだ、魚ではないのだ』
「そうやろうよ、はあ、もう、ちょっとじっとしとらんね?」
『ちょっとでいいのだー』
「あんたのちょっとはちょっとやなかろうもんっ」
 あっちでちゅどん、こっちでドカン。どんだけダンジョンでやってるんだか。もう、晃太が製作したルーティのドロップ品リストの桁が、4桁突破しているのがちらほらあるのに。王冠山のフィールド型ダンジョンの脱出の際、もともとルーティのダンジョンに繋いでいた方は解除し、王冠山の集落後に繋いだ。理由としては晃太のマッピング能力を上げるために、あの広大なフィールド型ダンジョンの地図を作図しているからだ。マッピング能力は上がれば、可視可能範囲以上の情報が一目で得られる。当然情報処理能力も必要だけど、晃太は私と違い地理に強いので今のところ問題はない。サブ・ドアを使用すれば、広大なフィールド型ダンジョンも、あちこち簡単に移動出来るだろうからね。
 時空神様がわざわざ教えてくれたのだから、必要なことなんやろうと、せっせと作図している。同時にノワールの騎乗訓練もやってる。
 なんて思っていると、アレスがすりすりきゅるん。
『我はもっと強くなりたいのだ~、レベル800越えたいのだ~』
 レベル800って、きっとイシスがヤマタノオロチ後にレベルが800越えたのに刺激を受けたんやろうけど。負けなくないんやろう。
『母様に会う時に、もっと強くなっていたいのだ』
 くっ、それを言われたらなあ。
「もう、わかった、まずはお母さん達に会ってからよ」
『やったのだっ、早く行くのだっ』
「ぎゃーっ」
 アレスが私の背中を鼻面で押す。700キロ前後の巨体が嬉しくて私を押す。勢いよくね。はい、前方に弾かれるように吹き飛ばされましたよ。地面にダイブしたが、なぜか予想より痛みがない。あ、白夜がいい感じで守ってくれたんかな?
「ユイさんっ」
 慌ててホークさんが抱き起こしてくれる。
「ユイさんっ、大丈夫っ?」
「怪我は?」
 エマちゃんとテオ君も心配してくれてる。私が前方に弾かれたので、周りから一斉に悲鳴が上がったが、私はホークさんの手を借りて立ち上がる。
「あ、大丈夫です。思ったより痛くないです」
 すぐさま立ち上がったので、ほっとした空気が漂う。
 起き上がると、アレスの悲鳴が上がる。
「きゃいんっきゃいんっ」
 イシスがアレスの頭を前足で押さえて、骨が軋む音がなる。ルージュとアリスもビシバシしている。
『コノバカ者ッ』
『ユイが怪我したらどうするつもりっ』
「ヴァンッヴァンッ」
「きゃいんっきゃいんっ」
 痛そうやな。
「もうよかよ。アレス、私やからいいけど、他の人にしたら分かっとるやろうね?」
 きゅーん、と鳴くアレス。
『ごめんなさいなのだ~』
「罰として、今日はおとなしくしとき」
『そんな~』
「アレス」
『あ、ごめんなさいなのだ』
 直ぐに服従の姿勢になる。
 もう。
「ほら立って、帰るよ」
『ごめんなさいなのだ~』
「はいはい、分かっとるから。次は分かっとるね?」
『分かったのだっ。気を付けるのだっ』
「約束よ」
『約束なのだっ』
 私が小指を出すと、アレスが冷たい鼻面を押し付けてきた。冷たっ。
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