もふもふ大好き家族が聖女召喚に巻き込まれる~時空神様からの気まぐれギフト・スキル『ルーム』で家族と愛犬守ります~

鐘ケ江 しのぶ

文字の大きさ
上 下
722 / 852
連載

約一ヶ月⑤

しおりを挟む
 使い魔の背を撫でながら、ラルフは再び語り出す。

 最初に向かったのは、海が見える村。魚の漁のために朝早く起きて、船に乗っていく村人たちはたくましく見えたこと、次の目的地は両親が支援している孤児院のある山奥の村。

 そこでは子どもたちと村人たちが一緒に畑仕事をしたり、料理をしたりと生きるためのことを教えていた。

「一回だけ、旅の途中で両親にあったよ。ついこの前なんだけどね」
「びっくりしてたんじゃない?」
「うん。思いっきり抱きしめられた」

 そのことを思い出したのか、ラルフの目がやさしく細められる。

 両親たちとゆっくり話したのはとても久しぶりのことで、とても楽しかったと微笑む姿を見て、アシュリンの心が和む。

 とはいえ、普段あまり話さないから、なにから話せばいいのかわからなかったとラルフは後頭部をかいた。

「にゃんでも話せばいいにゃー。親子にゃんだから」

 今までずっと黙って歩いていたノワールがアシュリンの足元から、ラルフに声をかけた。彼はノワールに視線を落として目を丸くし、じっとノワールを見つめる。

「会話が続かにゃくても、いいにゃ。ただ『会話したい』という気持ちが大事にゃ」

 ノワールはぴょんとアシュリンの肩に跳んだ。そして目線をラルフに移し、ぷにぷにの肉球を見せた。

 思わず、ツンと肉球をつつくラルフ。シャー! と怒られたので、肩をすくめる。

「会話したい気持ち、かぁ」
「ラルフが旅に出て、きっとさびしいだろうしね。でも、お互いなにを話せばいいのかわからないみたいな感じなのかも?」
「それはあるかも。……そうだね、今度会ったら、ちょっといろいろ話してみるよ」

 アシュリンとノワールはこくりとうなずいた。

 きっと、次に会うときにはたくさんの会話を楽しめるだろう、と考えながらワクワクと胸がおどった。だって、それは素敵なことだと思うから。

 アシュリンがにまにまと口元を動かしていると、ラルフとルプトゥムが視線をわしてくすりと笑い声を上げる。

「アシュリンたちのことも話していい?」
「いいよー」
『もちろんです!』

 黙っていた本がいきなりしゃべりだした。

 本はアシュリンとラルフを囲うようにくるくると動き回り、どこか興奮こうふんしたように声を張り上げる。

『ボーイ・ミーツ・ガール! 青春ですね!』
「なにそれ?」
「少年が少女に出会うこと……だっけ?」
「それじゃあラルフが主人公になっちゃわない?」

 人差し指を口元に添え、ムムムとうなるアシュリンにラルフは本に視線を送る。本はくるくると回り続けていた。

『自分の人生、自分が主人公ですよ!』
「それはそうかもしれないけどー……」

 むぅ、と唇をとがらせるアシュリンをたしなめるように、ノワールが肉球を頬に押し付ける。

「それぞれの人生があるんだにゃー」
「にゃー」

 ぷにぷにの肉球に頬をゆるませるアシュリン。気持ちを持ち直したのか、ノワールの鳴き真似をした。
しおりを挟む
感想 679

あなたにおすすめの小説

【完結】 メイドをお手つきにした夫に、「お前妻として、クビな」で実の子供と追い出され、婚約破棄です。

BBやっこ
恋愛
侯爵家で、当時の当主様から見出され婚約。結婚したメイヤー・クルール。子爵令嬢次女にしては、玉の輿だろう。まあ、肝心のお相手とは心が通ったことはなかったけど。 父親に決められた婚約者が気に入らない。その奔放な性格と評された男は、私と子供を追い出した! メイドに手を出す当主なんて、要らないですよ!

召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます

かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~ 【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】 奨励賞受賞 ●聖女編● いきなり召喚された上に、ババァ発言。 挙句、偽聖女だと。 確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。 だったら好きに生きさせてもらいます。 脱社畜! ハッピースローライフ! ご都合主義万歳! ノリで生きて何が悪い! ●勇者編● え?勇者? うん?勇者? そもそも召喚って何か知ってますか? またやらかしたのかバカ王子ー! ●魔界編● いきおくれって分かってるわー! それよりも、クロを探しに魔界へ! 魔界という場所は……とてつもなかった そしてクロはクロだった。 魔界でも見事になしてみせようスローライフ! 邪魔するなら排除します! -------------- 恋愛はスローペース 物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

押し付けられた仕事は致しません。

章槻雅希
ファンタジー
婚約者に自分の仕事を押し付けて遊びまくる王太子。王太子の婚約破棄茶番によって新たな婚約者となった大公令嬢はそれをきっぱり拒否する。『わたくしの仕事ではありませんので、お断りいたします』と。 書きたいことを書いたら、まとまりのない文章になってしまいました。勿体ない精神で投稿します。 『小説家になろう』『Pixiv』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

契約結婚のはずが、気づけば王族すら跪いていました

言諮 アイ
ファンタジー
――名ばかりの妻のはずだった。 貧乏貴族の娘であるリリアは、家の借金を返すため、冷酷と名高い辺境伯アレクシスと契約結婚を結ぶことに。 「ただの形式だけの結婚だ。お互い干渉せず、適当にやってくれ」 それが彼の第一声だった。愛の欠片もない契約。そう、リリアはただの「飾り」のはずだった。 だが、彼女には誰もが知らぬ “ある力” があった。 それは、神代より伝わる失われた魔法【王威の審判】。 それは“本来、王にのみ宿る力”であり、王族すら彼女の前に跪く絶対的な力――。 気づけばリリアは貴族社会を塗り替え、辺境伯すら翻弄し、王すら頭を垂れる存在へ。 「これは……一体どういうことだ?」 「さあ? ただの契約結婚のはずでしたけど?」 いつしか契約は意味を失い、冷酷な辺境伯は彼女を「真の妻」として求め始める。 ――これは、一人の少女が世界を変え、気づけばすべてを手に入れていた物語。

令嬢に転生してよかった!〜婚約者を取られても強く生きます。〜

三月べに
ファンタジー
 令嬢に転生してよかった〜!!!  素朴な令嬢に婚約者である王子を取られたショックで学園を飛び出したが、前世の記憶を思い出す。  少女漫画や小説大好き人間だった前世。  転生先は、魔法溢れるファンタジーな世界だった。リディーは十分すぎるほど愛されて育ったことに喜ぶも、婚約破棄の事実を知った家族の反応と、貴族内の自分の立場の危うさを恐れる。  そして家出を決意。そのまま旅をしながら、冒険者になるリディーだったのだが? 【連載再開しました! 二章 冒険編。】

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。