上 下
693 / 820
連載

フィールド型ダンジョン⑯

しおりを挟む
 ボス部屋はビアンカにいいとこ見せようと、シヴァが飛ばす飛ばす。当然火魔法使うため、危ないので、私は扉から離れ、下がって見守る。
 
 ちゅどどどどん
 ドカン、ドカン、ドカーン

 いい音。
 しばらくして、扉が開く。ぶはあっ、熱気がっ。
『あっついのです』
『堪らないわ、ユイ、冷たい水飲みたいわ』
 ビアンカとルージュが、ひーひー言いながら出てきた。ルームを開けると、一直線に従魔の部屋に向かい水分補給している。
「くうーん」
 ビアンカがさっさとボス部屋出ていったので、シヴァが鼻水垂らしながら情けない顔に。多分、シヴァが頑張っちゃった結果の熱気なんだろうが、ビアンカとルージュにはきつかったみたい。
 シヴァは嫌われたのではと、心配してるのかな?
「シヴァ、ビアンカは水を飲みに行っただけやけんね」
「くうーん」
 情けない顔のシヴァ、鼻水垂れそう。ハンカチで拭いて上げる。私はシヴァにも水分補給させる。ルームに誘導すると、おずおずとビアンカにすり寄っていく。
『ふう、やっぱりシヴァの火魔法は凄いのですね』
 一息ついて、ビアンカがシヴァを讃えている。
 ほら、嫌われてないやん。
「わふんっ、わふーんっ」
 途端に嬉しそうに尻尾バタバタ。
 しばらくビアンカにすり寄っていくが、そろそろアレスを戻さないと、補佐ウルフ達が悲鳴を上げそう。晃太がワイバーンの大きな肉塊をシヴァに渡して、名残惜しい感じ丸出しのシヴァをサブ・ドアの向こうに見送る。
『待ちくたびれたのだー』
 サブ・ドアの向こう、二匹の補佐ウルフが、ひーひー言ってた。お疲れ様。
『主よ、ボス部屋なのだ』
 きゅるん。
「今、クールダウン中や」
『そんなー、なら、ルーティの方に行ってもいいのだ?』
 きゅるん。
「はあ、夕御飯までには帰って来てよ」
『分かったのだっ、妹よっ、共に行くのだっ』
『一人で行ってくるのです』
『私達疲れてるの』
 きっぱり断られて、アレスがしょげてる。
「ほらほらアレス、マジックバッグよ。ルーティの方でイシスが元気や若手達の訓練に行っとるから合流し。それから一緒に戻ってきて」
『ぐすん、分かったのだ』
 次の階層次第では、ノワールではなくオシリスの騎乗が必要だ。オシリスはイシスにくっついてルーティのダンジョンの方に行っている。
 とぼとぼとルーティのダンジョンに繋いでいるサブ・ドアの向こうに。アレスのお尻、しゅっ、としている。ビアンカやルージュより食べるのに、ぽちゃぽちゃにならない。あんだけ動いているからかな?
 ビアンカとルージュは水分補給後、休憩の体勢になる。
 この間、ホークさんはノワールのブラッシングをしている。ノワールは相変わらず気持ち良さそう。
「お疲れ様ノワール、頑張ってくれてありがとうね」
「ぶひひんっ」
「ホークさん、いつもありがとうございます。ホークさんに負担ばっかかけてすみません」
 毎回移動するには、必ずホークさんの騎乗能力に頼りっぱなしや。通報レベルにブラック臭が、自分から漂っている。
「ユイさん、気にしないでください、これは俺の役割なんですから」
 そうホークさんは言ってくれる。
 ホークさんの立場、形式上私が購入した戦闘奴隷。いつになっても好きになれない響きや。
 私がリティアさんから戦闘奴隷の話を持ちかけられた時に付けた条件に、当てはまったのが、鷹の目だった。
・冒険者パーティーランクがC以上
・攻守揃い、女性がいる
・ノワールを乗りこなせる程の騎乗能力
 最後の条件に当てはまったのが、ホークさんだった。偶然が重なっただけかもしれないが、時々思う。
 あの護衛依頼を、鷹の目にお願いしなければ、カルーラに向かうタイミングがずれて、あんなひどい依頼に、鷹の目が当たらなかったのではって。もちろんあのワイン護衛依頼は、発生しないわけないし、鷹の目が受けなければ、別の冒険者パーティーが被害に遭っていたはず。それなれば、私はその被害に遭うパーティーをどうにかしたか? とならない。私の知らない、感知しない所で処理されていたはず。
 なら? 私の判断は正しかったのか? もっと別の手段があったのではなかったか? と、一人になると悶々と考えてしまう。答えが明確に分かりもしないのに。
「ユイさん? どうしました?」
「あ、いえ。あっ、そうやっ。いっつもホークさんにお世話かけっぱなしなので、ヤマタノオロチの件が済んだら特別ボーナスを出そうって思っているんですよっ」
 せめてこれくらいせんとね。ブラック臭ぷんぷんやもん。
「えっ、貰いすぎですよっ」
「いえいえ、これは私の気持ちですから。あ、新しい弓とかは必要経費ですからね」
 と、言うとホークさんが、ふわっと笑う。嬉しそうや。そして、ちょっと照れるように言う。あら、珍しか、ホークさんの照れ。よく見とこう。
「じゃ、じゃあ、ユイさん、時間貰えますか?」
「時間?」
「そ、うです、ゆっくり話したくて、その二人で」
「あ、いいですよ」
 なんだそんなことかあ、それくらいならばっちり。私もゆっくりホークさんとお話したかもん。ちょっとウキウキしてしまう。なら、ホークさんが好きなお菓子ば準備しよっと。ホークさんは抹茶系やおかきみたいなのが好む傾向にあるし。
 ぱぁぁっ、と珍しくホークさんの顔が輝く。
「いっぱいお菓子ば準備しますねっ」
 張り切ります。
 途端にがっくり、と肩を落としている、なぜ?
「ど、どうしましたっ?」
「あ、いえ、何でもないです、楽しみにしてます」
 そう言って、ノワールのブラッシングを再開する。
「ぶひひんっ」
 と、気持ちいいのか首を振るノワール。その目は、もう、至極のブラッシングタイムば邪魔せんでー、だ。
 はいはい、私がお邪魔虫でしたね。
「じゃあ、ホークさん、ご飯出来たら呼びますね」
「………はい」
 なんなろ? 声に元気がないけど。やっぱり疲れとるんやね。
 よしっ、今日はホークさんが好きなメニューにしよっと。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

別に構いませんよ、離縁するので。

杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。 他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。 まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。

【完結】虐げられた令嬢の復讐劇 〜聖女より格上の妖精の愛し子で竜王様の番は私です~

大福金
ファンタジー
10歳の時、床掃除をしている時に水で足を滑らせ前世の記憶を思い出した。侯爵家令嬢ルチア 8さいの時、急に現れた義母に義姉。 あれやこれやと気がついたら部屋は義姉に取られ屋根裏に。 侯爵家の娘なのに、使用人扱い。 お母様が生きていた時に大事にしてくれた。使用人たちは皆、義母が辞めさせた。 義母が連れてきた使用人達は私を義母と一緒になってこき使い私を馬鹿にする…… このままじゃ先の人生詰んでる。 私には 前世では25歳まで生きてた記憶がある! 義母や義姉!これからは思い通りにさせないんだから! 義母達にスカッとざまぁしたり 冒険の旅に出たり 主人公が妖精の愛し子だったり。 竜王の番だったり。 色々な無自覚チート能力発揮します。 竜王様との溺愛は後半第二章からになります。 ※完結まで執筆済みです。(*´꒳`*)10万字程度。 ※後半イチャイチャ多めです♡ ※R18描写♡が入るシーンはタイトルに★マークをいれています。

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。