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お祝いからの⑫

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「はあ、やっぱりここが落ち着くなあ」
 花を抱っこしながら、しみじみと晃太が呟く。
 私抜き、つまりルームなしでのダンジョンは初めてだったし、何より今は寒いしね。全員体調が悪くはなってないからいいけど。
 話を聞くとやっぱり、ボス部屋、ボス部屋と、バトルジャンキー達のリクエストで一泊したそうだ。
 今回は25階スタートして、28階まで挑んだそうだ。
「食糧系と木材、武器類、ポーション類は全部確保して、残りは全部ギルドに卸したばい」
 思う浮かぶ、華麗にすっ飛んでくるリティアさん。
「それから、宝石類は明日査定が出るって。姉ちゃん、サインしに行って」
「はいはい」
 頷きながら、聞こえてくる。
『明日は私も行くのです』
『何階から行く? シルフィ達の牛乳もいるわ』
『我はどこからでもいいのだ』
「ぶひひんっ」
『フム、亀ノ肉モ旨イカラナ、魔境ノ雌達ニモヨイダロウ』
 オシリスとアリスも加わってる。
 晃太がげんなり。
「わい、明日くらい、ゆっくりサウナに入りたか」
 出発までまだ日はあるが、この調子なら行きそうやなあ。
 でも、晃太の希望も一理あるかな。
 数日後には、カルーラに向かって出発だし。
 最近ブラック臭プンプンだからね。
 一応私が主人だし。
「はい、そこ、聞いてくださーい」
 談笑しているバトルジャンキー達が振り返る。
「明日はお休みです。カルーラに出発するまで、私達の英気を養います」
『『『『えー』』』』
「ぶひひーんっ」
「くうっ、くうーっ」
「わふんっ」
 ブーイング。
「あのね、うちらはあんた達みたいなおばけな体力やないとっ。明日1日は休みっ」
『『『『ぶーぶー』』』』
「ぶひひーん」
「くうー」
「わふーん」
 はい、受け付けません。
 さ、夕方だし、ご飯の準備を、と。
『ねえね、ヒスイお腹減ったっ。貝柱食べたーい』
『ルリね、甘いパンケーキがいい』
『クリスはね、どら焼きー』
 三姉妹がかわいかおねだり。
「準備しようね~」
 母がいそいそと準備に入る。
 手分けして準備する。
 私は貝柱のバター焼きと酒蒸し、海鮮焼きそばを準備する。母は作りおきを出したり、追加で牛肉のオイスター炒めを作っている。慣れたもので、皆でてきぱき準備したので、早く済む。
 明日はお休みだから、アルコール解禁。
 ミゲル君とツヴァイクさんが万歳してる。
 私は缶チューハイ、両親とホークさん、ミゲル君、エドワルドさん、ツヴァイクさんはビール。晃太とチュアンさんはA県の辛口大吟醸。マデリーンさんは白ワイン。エマちゃんとテオ君はお茶ね。
「では、皆さんお疲れ様っ、かんぱーいっ」
「「「「「かんぱーいっ」」」」」
 ミゲル君とツヴァイクさんが一気飲み。
「「あああああぁぁぁぁぁっ」」
 だってさ。
『おかわりなのですっ』
『貝柱がいいわっ』
『母よ~、おかわりなのだ~』
『私ハピザヲ所望スル』
「くうっ」
 リクエスト、早か。

「クラインのエルフが考えそうな事ですなぁ」
 ツヴァイクさんが3杯目のビールを片手に笑う。
 ベガリスさん達の話をすると、あっけらかんに言う。
「特にクラインのエルフは保守的じゃし、何より、リュウタ殿の様な技術者は少ないですからなぁ」
 ツヴァイクさんの話によると、エルフは開発的な事は苦手意識がある。そう思い込んでいる節も否めないが、その分、芸術家的な部分が秀でているそうだ。頂いたブローチも細工と言うか、葉脈まで再現されて素晴らしい。
 でも、エルフって言っても様々。ケルンさんやエリアンさんみたいに冒険者としてあちこち活躍している人もいる。
「しかし、ダンジョンの優先権まであるとは、クラインも奮発しましたなぁ。リーダーのはポーションダンジョンの優先権しかなかったはず。じゃろう、エド?」
「ああ。そうだった」
 エドワルドさんは貝柱の酒蒸しをぱくり。
 やっぱり、ケルンさんてSランクなんやなあ。国からのご褒美として、実力でこの免税証を得たんやね。私なんて、ひとえにビアンカやルージュ達のちゅどん、ドカンのおかげやし。
 ぽつり、と溢す。
「いやいや、あれは持たされたと聞きましたぞ」
 と、ツヴァイクさん。
「持たされた?」
 これって、クラインが国に貢献したとかでご褒美であげるんじゃないの?
「そりゃ、あの人、クライン王国の王子ですからね」
 牛肉のオイスター炒めをぱくり、としたエドワルドさんが、なんだか跳んでもない発言をっ。
「えっ、王子って、王子?」
 えっ、王子様?
「そうですよ」
 当たり前のように言うエドワルドさんがビールを一口。
「正確に言えば、『元』王子です。さっき話した、王達を幽閉した王妃が生んだ第二子ですよ」
 あのリスみたいに頬っぺた膨らませているケルンさんがっ。
「世間は皆、もう忘れておるでしょうが、まだ王家に籍を置かれていると聞きましたぞ」
 なんでも、ケルンさんは王族とか貴族とかのしがらみがめんどくさかったみたい。籍を抜いて、クラインには二度と戻らない覚悟もしていたそうだけど、そうは問屋を卸さなかったのは、ケルンさんの婚約者。エドワルドさんとツヴァイクさんも詳しくは何があったか分からないが、クラインにある公爵家に婿入りし、1男2女をもうけ、しっかり成人するまで育てて、長男の結婚・公爵当主になるまで公爵代理を務め上げた。それから、やっと冒険者になったそうだ。その際に、あの免税証を渡されたって。
「あれでも優秀な剣士でありますが、何より才能を持つ者を見つけ出す天才ですからなぁ、クラインとしても手放すには惜しいと思ったんでしょうなぁ」
 ツヴァイクさんがビールをぐびり。
「才能? あ、もしかしてエドワルドさんみたいな?」
「そうですぞ。ひょろひょろしたエドを一目見て、引き受けると言った時はどうなるかと思いましたがなぁ」
 わっはっは、と豪華に笑うツヴァイクさんに対して、黙れ、と目で訴えるエドワルドさん。
 そう言えば、ある程度の経験のある冒険者は新人さんを抱える。それが評価されてSランクになったのが、フェリクスさんだった。フェリクスさんも万能型呼ばれるほど優秀だし。
「そのフェリクスの新人時代を引き受けたのも、うちのリーダーですよ」
「えっ、あ、やから古い付き合いやって言ってたんですね」
「そうです」
 ケルンさんは本当にたまにしか新人を受けないが、その新人が全員Sランクになってるって。凄かっ。
「1人はユイさんも会ってるはずですよ。マーファの冒険者ギルドマスターがそうです」
「ストヴィエさんがっ」
 世間って狭いっ。ストヴィエさんは20年程前に引退し、マーファのギルドに所属。当時のギルドマスター、リティアさんのお父さんに師事して、しばらくしてからその座に着いたって。もう1人、新人を受けたそうだけど、老衰で亡くなっているそうだ。
「あのエドワルドさん、シェリデアさんはやっぱりお父さんであるケルンさんに帰って来て欲しいですかね」
「あー、すみません、俺の口から話せないんですよ」
 あ、個人情報的なやつね。私はそれ以上は聞かない。
 次に相談したのは、第二夫人的なやつね。
 ツヴァイクさんもエドワルドさんと似たような答えだったけど。やっぱりケルンさんに聞いた方がいいって。ケルンさん達はすでにルーティを出て、カルーラに移動しているから、合流して相談やな。
 しかし、世間って狭いなあ。
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