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連載

○○説②

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「おおっ、立派な桶がっ」
 夕御飯の後、5メートルを超える桶のお披露目。感じ的に寿司桶だけど、高さが2メートル位ある。
「いやいや、儂だけの力ではないですからなぁ」
 言いながらも、どやっ、としたツヴァイクさん。何故かアレスも大人しく指示に従い、木魔法を使いアシスタントしている。
 念のために耐久性を見るため、アレスに水魔法で桶に8割程になるように水を入れてもらう。
 少し離れて様子を見るが、大丈夫みたいや。
「凄いですツヴァイクさんっ」
「いやいやぁ」
 照れるツヴァイクさん。
「アレスも凄かやん」
『木を操るのは楽しいのだっ』
 フォレストガーディアンウルフだからかな。
「次から7メートルに取り掛かります。それで、あまり戦闘に参加が…………」
 ツヴァイクさんが申し訳ない顔だけど、桶に関しては、こちらがお願いしている立場だ。
「気になさらないでください。桶の作業に専念してくださいね」
「はい」
 その分、エドワルドさんが戦いますって。十分な戦力だよ。
「それで、その材料がですな…………」
 おずおずとツヴァイクさんから申請があり。どうやら、サイズアップに伴い、失敗率も高くなってるみたい。丁度明日から25階のボス部屋に挑んでいる予定だ。
「はい、分かりました。必要な物は遠慮なく使ってください」
 予定としては28階まで行く予定にしていたけど、25階メインで数日過ごして、合間に26階にマジックベリー目的で挑もう。26階の化粧品材料のドロップ品はリティアさんが待ってる。こちらの女性も美意識が高い。
 エドワルドさんとロッシュさんと相談すると、快く受けてくれた。
 桶はアレスの魔法でひっくり返し、張っていた水を破棄して、晃太のアイテムボックスに入れる。
 よし、着々とヤマタノオロチ対策が整い出したかな。予定では後1週間で、ビアンカとルージュ達が帰ってくる。予定は予定だからね。多少の前後はするはず。
 1度も警報器が鳴らないから、無事なんだろうと思うけど。
 母はそろそろ帰って来るからと、私達が今回冷蔵庫ダンジョンに挑む前から、色々準備している。私もルームにいると、ちらほらサブ・ドアを見てしまう。帰って来たら、一杯好きなご飯を食べさせよう。シャンプーにも連れてって、もふもふして。一杯、甘やかそう。
 なんて、考えていると、頭をちょんちょんされる。
「なんね、アレス君や」
『ボス部屋行きたいのだっ、食後の運動なのだっ』
 確かにそんな約束やったね。
 振り返ると、察しのいい皆さんが、準備していた。

「わふんっ」
「ありがとうアリス」
 出てきた宝箱の罠をアリスが解除。時間は掛かったけど解除。成功率が9割を超えている。
 只今、26階。この宝箱を確認したら、25階にとって帰す。必要なマジックベリーはゲットしたしね。
 宝箱は小ぶりだけど、開けると横長のビロードの箱と化粧ポーチ。厄災クラスのアレスが開けると、わさわさなボス部屋になるけど、宝箱がゴージャスになる。
 化粧ポーチはポーチやないはず。ビロードの箱にはシンプルな指輪が3つ。
「アリス、魔力感じる?」
「わふんっ」
 頷くアリス。父の鑑定待ちやね。
 晃太のアイテムボックスへ。
 さて、ボス部屋から出て、皆さんにルームに入ってもらわないと。25階まで戻るので、ぶひひん特急ノワールの出番だ。
 既にホークさんがノワールの準備してくれているからね。
 今からなら25階まで移動して、ちゅどんドカンして、そろそろシヴァ達のレベルアップのちゅどんドカンもしないと。あ、今日の夕御飯どうしよう? 寒いから鍋にしようかな? 今回のダンジョンアタックで、貝柱も手に入ってるから、海鮮鍋にして、〆におじやにして。
「ユイさん、どうしたの?」
 ぶつぶつ言ってた私をエマちゃんが心配してくれる。
「ん? 夕御飯どうしようかなってね。寒いから、海鮮鍋とかどうかな? 〆はおじやにしようかなって」
「わぁ、私、トマトの海鮮鍋がいいなぁ」
 あ、トマトの海鮮鍋か。
 トマト鍋はウインナーやかしわ、もしくはルーティのウサギ肉等の肉系を使用しているけど、海鮮もいいかも。貝柱とエビと白身魚とかいいかも。〆はおじややなくて、リゾットやね。
「じゃあ、海鮮トマト鍋にしようか」
「うんっ」
 かわいか。ボス部屋の外から、ホークさんのお馴染みの、こら、が飛ぶ。
「テオ君は? 海鮮でよか?」
 すぐ近くにいたテオ君にも聞く。
「え、えっと。その…………」
「ん?」
「お、お肉も食べたい、かなって」
 もじもじ、と遠慮がちに。
 くっ、かわいかっ。
「よしっ、鍋、二種類にしようねっ」
 海鮮トマト鍋と、もう1つは旨辛鍋がセレクトショップダリアで見たことあるからあれにしよう。旨辛鍋にスープが違うだけで、野菜はトマト鍋とほぼ変わらない。海鮮ではなく、ルーティのウサギ肉やウインナーを入れよう。こちらの〆は麺かな? あ、半熟玉子とかいいかも。
 テオ君が、にこっとするから、私の判断は間違いではなかったみたいや。
 野菜が足りないかも知れないから、ディレックスに買い物に行かないと。
 キャベツと玉ねぎと人参とトマトとキノコと、ブロッコリーは彩りがいいかな? あ、水菜やパプリカとかもいれちゃえ。冷やご飯は晃太のアイテムボックスに、ある程度の量があるし。チーズもあるし。もうないけど、初夏の首都で手に入れたあの黒い小玉ねぎ。あれがあったら、まるごといれるんだけどなあ。それから、あの甘いとうもろこし、ノワールが気に入っていたから欲しいけど、仕方ないね。今年は首都は無理だし。
「姉ちゃん、今日鍋なん?」
「そうよ」
「わい、〆は麺がよか、後、わいは旨辛鍋がよか」
「はいはい。ちゃんと作るけん」
 晃太がおらんと、ドロップ品の大部分は諦めないといけないからね。私と晃太は一人用鍋にトマト鍋と旨辛鍋にして、つつけばいいしね。鷹の目の皆さんも、しっかり食べるし、エドワルドさんとツヴァイクさん、山風の皆さんも食べるからね。特にハジェル君がね。
 鍋なら、アルコール解禁しよう。明日、少しゆっくりしてから出発しよう。
 具材はどうしようかね、なんて話しながら、エマちゃんとちょっぴりくっつきながらボス部屋を出る。
 既に、ノワールが鞍を着けてスタンバっている。
「じゃあ、皆さん、ルームに入ってくだ」
 さいねー。
 
 ジリィィィィィィィィィッ

 警報音が、頭のなかで鳴り響く。
 きつかっ。
「いっ」
 言いかけた私は思わず頭を抱える。
「ユイさんっ」
 エマちゃんが悲鳴のような声を上げる。テオ君や他の皆さんもだ。
「姉ちゃんっ」
 晃太も慌てている。
『主よっ、どうしたのだっ』
 早く走りたいとボス部屋の外でうろうろしていたアレスまで、すっとんで来てくれる。

 ジリィィィィィィィィィッ
 ジリィィィィィィィィィッ
 ジリィィィィィィィィィッ

 ちょっと待って、なんで、連続やねんっ。きっとあの警報器を連打しているんやろうけどっ。
 あ、頭、痛かっ。
 やけど、これはきっと、あれやっ。
 予定より早いけどっ。
 
 ジリィィィィィィィィィッ
 ジリィィィィィィィィィッ
 ジリィィィィィィィィィッ

 魔境に籠っていたビアンカやルージュ達が、帰って来るんやっ。それでなければ、シヴァ達に何かあったからだろうけど。

 ジリィィィィィィィィィッ
 ジリィィィィィィィィィッ
 ジリィィィィィィィィィッ

 頭、頭が痛かっ。割れるように痛かっ。いかん、立てんっ。
「ユイさんっ」
 ノワールの手綱を放り出して、ホークさんが駆け寄ってくれる。
「姉ちゃんどうしたなっ」
「け、警報器がっ、ルームッ」
 私は必死にルームを開ける。
 私の一言で察したのか、ホークさんが私を抱き抱える。そのままルームに入ると、サブ・ドアからなにやら引っ掻く音が。
 二つのサブ・ドアはわずかにだけど開いている。ダンジョン内からでは一度完全に閉めると、外に出ない限りドアは開かないからだ。なので、指一本分はいるくらいに開けている。それでも時間が過ぎると勝手に閉まるので、適宜ドアノブに触れてリセットしている。そして、このサブ・ドアは、私にしか操作できない。
 片方のサブ・ドア。魔境に繋がるドアから覗くのは、必死にサブ・ドアをこじ開けようとする白い前肢の先と爪。そして、声。
『ねえね~っ、ゆいねえね~っ』
『ねぇねっ、ねぇねっ』
『ねーねーっ、ねーねーっ』
 かわいか三人娘やっ。
 無事に、魔境での訓練が終わったんやっ。
 一気に私の中で、溢れんばかりの嬉しさが沸き上がる。
 沸き上がるのだけど、あ、頭に響き渡る警報が、きつかっ。
 三人娘の声はするが、元気達、三人衆の声が聞こえない、ビアンカとルージュも。早く無事を確かめたいっ。
 ホークさんが私を抱えて、サブ・ドアに駆け寄る。すぐ後ろに晃太が続く。
 待ってて、今、ドアを開けるけんねっ。
 止まらない響き渡る警報音。
 余りの痛さに、私の手元が狂う。
 ぱたり。
「「「あ」」」
 指が当たり、サブ・ドアが閉まってしまう。

 ジリィィィィィィィィィッ
 ジリィィィィィィィィィッ
 ジリィィィィィィィィィッ
 ジリィィィィィィィィィッ
 ジリィィィィィィィィィッ
 ジリィィィィィィィィィッ

 ぷつん、と視界がブラックアウトした。
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