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閑話 特別な子供達④
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それから紆余曲折あり、現在に至る。
まさか、神と接見できるとは。あの冒険者成り立ての荒んだ時期では、思いもつかなかった。
カルーラに移ったはいいが、リィマとアルストリアの生活基盤を揃えるのが困難を極めた。やはり、アルストリアを抱えて、となると難色を示された。預り所は一杯で、空き待ちすらできない状況。
仕方なく、2人を連れてユリアレーナ内を移動した。
しばらくして、やっとアルストリアが自分達に懐いてくれた。まずは、いつも甲斐甲斐しく世話をしていたフリンダだ。フリンダにぴったり抱きついている姿を見て、ファングとガリストはホッとした。フリンダはわなわな泣きながら、アルストリアを壊れ物のように抱き締めていた。
喪った、我が子を思い出したんだろう。
それからファングとガリストにも、抵抗なく肩車をしてもらっている。
だが、それでも、なかなか言葉がアルストリアから発せられない。
リィマは必死に、人見知りだからと言う。
ファングは獣人故に、呪い持ちと言う病を知っていたが、ガリストとフリンダは首を傾げている。
結局。
「リィマ、こいつが呪い持ちだと分かっている。だが、だからと言って、悪いようにはしない。心配するな」
そう言うと、リィマは真っ青になったが、ファングの言葉に嘘がないことを理解すると、自分の境遇をポツリポツリと話し出した。
リィマとアルストリアは、宝石を扱う商会長の娘と息子。母親はアルストリアを産んで直ぐに亡くなった。リィマは商会長の父親から、読み書き、計算、宝石の鑑定を幼い頃から叩き込まれていた。跡取りのアルストリアはまだ幼かったため、それまでの繋ぎとして。
だが、ある日、アルストリアの言葉が出なくなった。きっと、父親が長女のリィマにかかりきり、リィマは勉強勉強だから、無意識に寂しくなったのでは? と、思われた。リィマは出来る限りのアルストリアとの時間を作ったが、一向に言葉が出ない。
そこでやっとアルストリアが呪い持ちであることが発覚。
父親は、それを恥とした。
「今、呪い持ちの保護法が立ち上がっている。だから、その前にアルスを事故に見せかけて始末しようって…………」
たまたま聞いてしまったリィマは、どうにかしてアルストリアを守りたかった。亡くなった母親との約束もある。
リィマ、この子を守って
「保護法が施行されたら自分達にも火の粉を被るからって」
なんでも、商品を別の街に届ける最中に、アルストリアがキャンプから離れ、運悪く魔物に襲われた、と言う体裁にすると聞いたリィマ。それは商会長である実の父親の指示だ。リィマは父親に幻滅した。
「それから、それがそう先の話じゃないって分かって。私なりに準備したんだ」
まずは路銀。
買い手のまだついていない小粒の宝石を、いつでも持ち出せるようにした。そして、アルストリアから目を離さなかった。
「いざ、アルスを始末する移動の時、私、見つかってしまって。親父に殴られて…………アルスを無理やり引きはなそうとしたから、咄嗟に、近くにあったオイルランプを投げつけたんだ」
投げたオイルランプは、地面に落ちたが、当然燃え上がった。その隙を突いて逃げ出したと。
「それで俺達の所まで逃げたって訳だな」
「そう」
黙っていたフリンダが、アルストリアの布団をかけ直しながら首を傾げる。
「ねえ、その保護法って、罰則付きのよね?」
「え、うん、そうだよ」
「あれって、確か、過去に遡って処罰されるものよね?」
フリンダはこの保護法について、完全ではないが、多少の理解はあった。
この保護法が草案でたち消えている理由だ。過去に遡り、呪い持ちを害した者は、それに荷担したものすべてに罰則がある。反対するものは、それらに関わっているからだ。
自分が、罰を受けたくないから。
「いくら事故に見せかけても、成人したリィマちゃんが証人としているんだもの。少しでもアスラ王国から離れた場所で、生活基盤を整えた方がいいわ」
「リィマも狙われるって事には変わらないようだな」
すると沈黙していたリィマは、口を開く。
「多分、私は捕まっても直ぐには殺されないよ」
「結局は殺されるのには違いないんじゃないか。ファング、アルブレンまで早く移動した方がいい」
ガリストまでそう言うが、ファングに反対する理由はない。ただ。
「どうして、直ぐには殺されないって分かる?」
「……………跡取り」
リィマがポツリ。
「くそ親父、アルスが生まれた後に、熱病に罹ってて、そっちの機能がダメなんだ。それで、残るのは私だけ。くそ親父の気に入った男に嫁がされて、子供2、3人産んだら、私は始末するって言ってた」
聞いたガリストの顔が、般若のように歪む。
「ファング、アルブレン行きの馬車を確認してくる」
そう言って、ガリストは馬車のチケット売場に向かった。
「リィマ、心配するな、俺達が守ってやるからな」
ガリストを見送ったファングは、フリンダと顔を見合せ、心配するリィマに宣言するように言った。
アルブレンに移動して、再びリィマとアルストリアの生活基盤のためにあちこち回った。
問題はアルストリア。預り所では、同い年頃の子供達とは仲良くなるが、保育士には一切懐かない。
ほとほと困っていた所に、訪れた教会で行われた収穫祭で、孤児達と仲良く遊んでいたアルストリア。そこに一人のシスターが声をかけた。いつもなら、姉リィマに向かって逃げてくる筈なのに、アルストリアはなんの抵抗もせずシスターに付いていった。
当時、何故かは分からなかったが、このチャンスを逃してはいけないと思い、そのシスターを捕まえて事情を説明した。
ある程度の歳になるまで、アルストリアを預かってもらえるように交渉した。シスターには、アルストリアが呪い持ちであることは隠さなかったが、受けてもらえた。
ユリアレーナには、呪い持ちなど、何かしらの生活に援助が必要なものを受け入れてくれる修道院がある。今後の事を考えたら、いずれアルストリアをそこに入れるしかないと、リィマは断腸の思いで決断。その修道院に入るには、身内がいない場合は無償ではいれる。だが、身内の都合で入る場合には、かなりの金額が必要だ。その修道院に入った年齢で金額は変わる。そしてもし、亡くなった場合は、差し引いた額が返却される。
リィマは悩んだ末に、冒険者になり、ファング達が見習いとして引き受けた。とにかく、アルストリアのために金銭を稼ぎたいと。
リィマはストイックだったし、父親に叩き込まれていた為に、暗算は早いし、宝石や宝飾品系の鑑定力は高かった。ファングがパーティーの金銭管理を任せると、節約はするが、必要な装備などには惜しみ無いし、妥協もしない為、不安定な冒険者生活だったが、少しずつ余裕が生まれていた。
2年後。やっと例の法案がアスラ王国で可決された。
当然、大騒ぎになった。呪い持ちだと、抹消していたもの達は軒並み捕らえられ、騒ぎは数年続き、やっと落ち着いたのは、リィマがDランク冒険者になった頃だった。そして、あのルーティで手続きしてくれた女性職員を探したら、なんと冒険者副ギルドマスターまで上り詰めていた。なんとか面会をして、礼を伝える事ができ、女性職員は穏やかに受けてくれた。
それからルーティのダンジョンに挑んで、痛い目に遭い、アルブレンに戻った。
定期的にアルストリアの様子を見に行っていた。アルストリアは孤児達と馴染んでいた。やはり呪い持ちの影響で、言葉の出にくさはあったが、驚くほどしゃべれる様になっていた。シスターの話では、同年代の孤児達と接しているなかで、自然と言葉が増えていったそうだ。孤児達には、呪い持ちとは言ってはいない、説明しても理解できないからと。ただ、頭に残る傷痕で、何やら事情があるとは、幼心に分かってはいるし、聞いたとしても当のアルストリアは首をかしげるのみで、いつしか誰も気にしなくなった。それから、アルストリアは文字はなかなか覚えなかったが、身が軽く、試しに習わせた護身術等はあっという間に習得したと。
呪い持ちは、突出した何かを持っている。画力だったり、細かい作業だったり、戦闘だったり。
アルストリアは戦闘系能力が高いようだった。
話を聞いたその日、今後のアルストリアをどうしようかと、みんなで悩んだ。このまま、ある程度の額が貯まれば、例の修道院に預けるか、冒険者として一時的に連れていくか。
悩んだが、次の日、孤児院である騒ぎが起きた。
虐待を受け保護されていた女児を連れ戻そうとした父親が乗り込んできたのだ。ちょうど男衆が出払っていた所を狙い、父親が乗り込んできた。泣き叫ぶ女児の髪を掴み、抵抗するシスターを蹴り倒した。
そこに、チャンバラしていたアルストリアが、不思議そうに見ていた。泣き叫ぶ女児、鼻血を出すシスター。
アルストリアの中で、何かが動いた瞬間だった。
数分後、孤児院の玄関先から、父親が這々の態で逃げ出していた。玩具の剣で、アルストリアがその父親を滅多打ちにしていた。当時13歳のアルストリアが、40過ぎの自分の倍以上の体躯の男を、玩具の剣で叩きのめした。玩具の剣が折れたら、箒を手にし、それが折れたら、別の玩具の剣で叩きのめした。
だが、急に、ぱたり、と倒れてしまう。
「クソガキッ」
男は倒れたアルストリアを蹴り飛ばす。
「貴様、何をしているっ、子供にーっ」
運が悪く、アルストリアを蹴り飛ばした瞬間を騒ぎを聞き付けた警備が目撃。男は暴行犯として拘束された。当然、女児やシスターにも暴行していたため、言い訳もできず。ただ、アルストリアに滅多打ちにされたと訴えたが、鼻で嗤われた。
「あんな小さな子供に、玩具の剣で叩かれて騒ぐか? この根性なしが。自分の酒の借金のために未成年の娘を売ろうとしていたことは調べがついてるんだよっ」
男は、二度とアルブレンに帰って来なかった。
そして、アルストリアだ。
騒ぎを聞いたファング達は、アルストリアを見習いとして連れていく事にした。女児とシスターの為とはいえ、あんな騒ぎを起こしたアルストリアにたいして、他の孤児達が一線を引き出したからでもある。ただ、いままで仲良くしていた孤児達に避けられ、アルストリアは半泣きで戸惑う。大の男を、玩具の剣とはいえ、悲鳴を上げて逃げ出すほど打ちのめしたアルストリアに、孤児達は恐怖に似た感情を抱きはじめてしまったからだ。
「おそらく、あれは呪い持ちの戦闘モードだと思いますが…………あんな使い方を続ければ、彼の身体が悲鳴をあげるはず」
顔に痣を浮かべたシスターは、申し訳ないような顔。
「必ず、誰かがそばにいないと」
そう言われた。
いろいろ思うところはあったが、アルストリアはファング達を覚えていた。なので、馴染むのに時間がかからず、スムーズに冒険者として登録した。
アルストリアの吸収力は凄まじかった。特に剣を持たせた戦闘だ。試しにギルドの講座に出した。ちょっと無理を言って代金を支払ったが。講師をした風魔法剣士は、アルストリアの才能を誉め称えた。ただ、必ず保護者なり、フォロー者が必要だと付け加えられた。
数年後、久しぶりにアルブレンに戻って、到着報告をした。
対応したギルド職員が、顔をあげる。
「はい、確認しました。ファングさん、ガリストさん、ランクBです。リィマさん、Cランク。アルストリアさんはEです。これにより、パーティーランクはBになります」
驚いた。
みんな、アルストリアの為とがむしゃらで、ランクの事が抜けていた。
「ところで金の虎の皆さん、ゴブリンの巣の掃討作戦を受けていただけませんか?」
メンバーに確認するが、異論はなかった。
「では、受ける」
「ありがとうございます」
これが、今後の金の虎の運命を大きく動かす出合いであるとは知らずに。
まさか、神と接見できるとは。あの冒険者成り立ての荒んだ時期では、思いもつかなかった。
カルーラに移ったはいいが、リィマとアルストリアの生活基盤を揃えるのが困難を極めた。やはり、アルストリアを抱えて、となると難色を示された。預り所は一杯で、空き待ちすらできない状況。
仕方なく、2人を連れてユリアレーナ内を移動した。
しばらくして、やっとアルストリアが自分達に懐いてくれた。まずは、いつも甲斐甲斐しく世話をしていたフリンダだ。フリンダにぴったり抱きついている姿を見て、ファングとガリストはホッとした。フリンダはわなわな泣きながら、アルストリアを壊れ物のように抱き締めていた。
喪った、我が子を思い出したんだろう。
それからファングとガリストにも、抵抗なく肩車をしてもらっている。
だが、それでも、なかなか言葉がアルストリアから発せられない。
リィマは必死に、人見知りだからと言う。
ファングは獣人故に、呪い持ちと言う病を知っていたが、ガリストとフリンダは首を傾げている。
結局。
「リィマ、こいつが呪い持ちだと分かっている。だが、だからと言って、悪いようにはしない。心配するな」
そう言うと、リィマは真っ青になったが、ファングの言葉に嘘がないことを理解すると、自分の境遇をポツリポツリと話し出した。
リィマとアルストリアは、宝石を扱う商会長の娘と息子。母親はアルストリアを産んで直ぐに亡くなった。リィマは商会長の父親から、読み書き、計算、宝石の鑑定を幼い頃から叩き込まれていた。跡取りのアルストリアはまだ幼かったため、それまでの繋ぎとして。
だが、ある日、アルストリアの言葉が出なくなった。きっと、父親が長女のリィマにかかりきり、リィマは勉強勉強だから、無意識に寂しくなったのでは? と、思われた。リィマは出来る限りのアルストリアとの時間を作ったが、一向に言葉が出ない。
そこでやっとアルストリアが呪い持ちであることが発覚。
父親は、それを恥とした。
「今、呪い持ちの保護法が立ち上がっている。だから、その前にアルスを事故に見せかけて始末しようって…………」
たまたま聞いてしまったリィマは、どうにかしてアルストリアを守りたかった。亡くなった母親との約束もある。
リィマ、この子を守って
「保護法が施行されたら自分達にも火の粉を被るからって」
なんでも、商品を別の街に届ける最中に、アルストリアがキャンプから離れ、運悪く魔物に襲われた、と言う体裁にすると聞いたリィマ。それは商会長である実の父親の指示だ。リィマは父親に幻滅した。
「それから、それがそう先の話じゃないって分かって。私なりに準備したんだ」
まずは路銀。
買い手のまだついていない小粒の宝石を、いつでも持ち出せるようにした。そして、アルストリアから目を離さなかった。
「いざ、アルスを始末する移動の時、私、見つかってしまって。親父に殴られて…………アルスを無理やり引きはなそうとしたから、咄嗟に、近くにあったオイルランプを投げつけたんだ」
投げたオイルランプは、地面に落ちたが、当然燃え上がった。その隙を突いて逃げ出したと。
「それで俺達の所まで逃げたって訳だな」
「そう」
黙っていたフリンダが、アルストリアの布団をかけ直しながら首を傾げる。
「ねえ、その保護法って、罰則付きのよね?」
「え、うん、そうだよ」
「あれって、確か、過去に遡って処罰されるものよね?」
フリンダはこの保護法について、完全ではないが、多少の理解はあった。
この保護法が草案でたち消えている理由だ。過去に遡り、呪い持ちを害した者は、それに荷担したものすべてに罰則がある。反対するものは、それらに関わっているからだ。
自分が、罰を受けたくないから。
「いくら事故に見せかけても、成人したリィマちゃんが証人としているんだもの。少しでもアスラ王国から離れた場所で、生活基盤を整えた方がいいわ」
「リィマも狙われるって事には変わらないようだな」
すると沈黙していたリィマは、口を開く。
「多分、私は捕まっても直ぐには殺されないよ」
「結局は殺されるのには違いないんじゃないか。ファング、アルブレンまで早く移動した方がいい」
ガリストまでそう言うが、ファングに反対する理由はない。ただ。
「どうして、直ぐには殺されないって分かる?」
「……………跡取り」
リィマがポツリ。
「くそ親父、アルスが生まれた後に、熱病に罹ってて、そっちの機能がダメなんだ。それで、残るのは私だけ。くそ親父の気に入った男に嫁がされて、子供2、3人産んだら、私は始末するって言ってた」
聞いたガリストの顔が、般若のように歪む。
「ファング、アルブレン行きの馬車を確認してくる」
そう言って、ガリストは馬車のチケット売場に向かった。
「リィマ、心配するな、俺達が守ってやるからな」
ガリストを見送ったファングは、フリンダと顔を見合せ、心配するリィマに宣言するように言った。
アルブレンに移動して、再びリィマとアルストリアの生活基盤のためにあちこち回った。
問題はアルストリア。預り所では、同い年頃の子供達とは仲良くなるが、保育士には一切懐かない。
ほとほと困っていた所に、訪れた教会で行われた収穫祭で、孤児達と仲良く遊んでいたアルストリア。そこに一人のシスターが声をかけた。いつもなら、姉リィマに向かって逃げてくる筈なのに、アルストリアはなんの抵抗もせずシスターに付いていった。
当時、何故かは分からなかったが、このチャンスを逃してはいけないと思い、そのシスターを捕まえて事情を説明した。
ある程度の歳になるまで、アルストリアを預かってもらえるように交渉した。シスターには、アルストリアが呪い持ちであることは隠さなかったが、受けてもらえた。
ユリアレーナには、呪い持ちなど、何かしらの生活に援助が必要なものを受け入れてくれる修道院がある。今後の事を考えたら、いずれアルストリアをそこに入れるしかないと、リィマは断腸の思いで決断。その修道院に入るには、身内がいない場合は無償ではいれる。だが、身内の都合で入る場合には、かなりの金額が必要だ。その修道院に入った年齢で金額は変わる。そしてもし、亡くなった場合は、差し引いた額が返却される。
リィマは悩んだ末に、冒険者になり、ファング達が見習いとして引き受けた。とにかく、アルストリアのために金銭を稼ぎたいと。
リィマはストイックだったし、父親に叩き込まれていた為に、暗算は早いし、宝石や宝飾品系の鑑定力は高かった。ファングがパーティーの金銭管理を任せると、節約はするが、必要な装備などには惜しみ無いし、妥協もしない為、不安定な冒険者生活だったが、少しずつ余裕が生まれていた。
2年後。やっと例の法案がアスラ王国で可決された。
当然、大騒ぎになった。呪い持ちだと、抹消していたもの達は軒並み捕らえられ、騒ぎは数年続き、やっと落ち着いたのは、リィマがDランク冒険者になった頃だった。そして、あのルーティで手続きしてくれた女性職員を探したら、なんと冒険者副ギルドマスターまで上り詰めていた。なんとか面会をして、礼を伝える事ができ、女性職員は穏やかに受けてくれた。
それからルーティのダンジョンに挑んで、痛い目に遭い、アルブレンに戻った。
定期的にアルストリアの様子を見に行っていた。アルストリアは孤児達と馴染んでいた。やはり呪い持ちの影響で、言葉の出にくさはあったが、驚くほどしゃべれる様になっていた。シスターの話では、同年代の孤児達と接しているなかで、自然と言葉が増えていったそうだ。孤児達には、呪い持ちとは言ってはいない、説明しても理解できないからと。ただ、頭に残る傷痕で、何やら事情があるとは、幼心に分かってはいるし、聞いたとしても当のアルストリアは首をかしげるのみで、いつしか誰も気にしなくなった。それから、アルストリアは文字はなかなか覚えなかったが、身が軽く、試しに習わせた護身術等はあっという間に習得したと。
呪い持ちは、突出した何かを持っている。画力だったり、細かい作業だったり、戦闘だったり。
アルストリアは戦闘系能力が高いようだった。
話を聞いたその日、今後のアルストリアをどうしようかと、みんなで悩んだ。このまま、ある程度の額が貯まれば、例の修道院に預けるか、冒険者として一時的に連れていくか。
悩んだが、次の日、孤児院である騒ぎが起きた。
虐待を受け保護されていた女児を連れ戻そうとした父親が乗り込んできたのだ。ちょうど男衆が出払っていた所を狙い、父親が乗り込んできた。泣き叫ぶ女児の髪を掴み、抵抗するシスターを蹴り倒した。
そこに、チャンバラしていたアルストリアが、不思議そうに見ていた。泣き叫ぶ女児、鼻血を出すシスター。
アルストリアの中で、何かが動いた瞬間だった。
数分後、孤児院の玄関先から、父親が這々の態で逃げ出していた。玩具の剣で、アルストリアがその父親を滅多打ちにしていた。当時13歳のアルストリアが、40過ぎの自分の倍以上の体躯の男を、玩具の剣で叩きのめした。玩具の剣が折れたら、箒を手にし、それが折れたら、別の玩具の剣で叩きのめした。
だが、急に、ぱたり、と倒れてしまう。
「クソガキッ」
男は倒れたアルストリアを蹴り飛ばす。
「貴様、何をしているっ、子供にーっ」
運が悪く、アルストリアを蹴り飛ばした瞬間を騒ぎを聞き付けた警備が目撃。男は暴行犯として拘束された。当然、女児やシスターにも暴行していたため、言い訳もできず。ただ、アルストリアに滅多打ちにされたと訴えたが、鼻で嗤われた。
「あんな小さな子供に、玩具の剣で叩かれて騒ぐか? この根性なしが。自分の酒の借金のために未成年の娘を売ろうとしていたことは調べがついてるんだよっ」
男は、二度とアルブレンに帰って来なかった。
そして、アルストリアだ。
騒ぎを聞いたファング達は、アルストリアを見習いとして連れていく事にした。女児とシスターの為とはいえ、あんな騒ぎを起こしたアルストリアにたいして、他の孤児達が一線を引き出したからでもある。ただ、いままで仲良くしていた孤児達に避けられ、アルストリアは半泣きで戸惑う。大の男を、玩具の剣とはいえ、悲鳴を上げて逃げ出すほど打ちのめしたアルストリアに、孤児達は恐怖に似た感情を抱きはじめてしまったからだ。
「おそらく、あれは呪い持ちの戦闘モードだと思いますが…………あんな使い方を続ければ、彼の身体が悲鳴をあげるはず」
顔に痣を浮かべたシスターは、申し訳ないような顔。
「必ず、誰かがそばにいないと」
そう言われた。
いろいろ思うところはあったが、アルストリアはファング達を覚えていた。なので、馴染むのに時間がかからず、スムーズに冒険者として登録した。
アルストリアの吸収力は凄まじかった。特に剣を持たせた戦闘だ。試しにギルドの講座に出した。ちょっと無理を言って代金を支払ったが。講師をした風魔法剣士は、アルストリアの才能を誉め称えた。ただ、必ず保護者なり、フォロー者が必要だと付け加えられた。
数年後、久しぶりにアルブレンに戻って、到着報告をした。
対応したギルド職員が、顔をあげる。
「はい、確認しました。ファングさん、ガリストさん、ランクBです。リィマさん、Cランク。アルストリアさんはEです。これにより、パーティーランクはBになります」
驚いた。
みんな、アルストリアの為とがむしゃらで、ランクの事が抜けていた。
「ところで金の虎の皆さん、ゴブリンの巣の掃討作戦を受けていただけませんか?」
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