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連載
布確保⑨
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金の睫毛を持つ、暖かい色合いのオレンジの瞳が、悲しげに伏せられる。
「お話は伺っています」
やっぱり気にされていたよね。なんと言ってもジークフリード王太子殿下は、実の弟だし、その伴侶になる方はいずれ義妹だし。
何よりいずれはこのユリアレーナ王国を背負う方々の結婚式に、あの事件が妙な影を落とさないか心配されているんやね。
「子供達を保護できたのは、せめてもの救いです」
あの事件はズロー商会の単独犯ってことで、アスラ王国は片付けた。まあ、色々加担していた人たちも、芋づる式に引っ捕らえているそうだけど。布の準備を指示したのは、アスラ王国夫妻。現在、ユリアレーナ王国王太后ミッシェル様は、もともとアスラ王国のお姫様だ。つまり、今のアスラ王国の国王は、ミッシェル王太后様の実弟に当たる。せっかく、これからもユリアレーナ王国とアスラ王国が仲良くしましょうって準備したのに、あの14人の子供達の事件だ。
言わずもがな、アスラ王国夫妻は、かんかんらしい。
「はい。今はカルーラの修道院で保護されています。私は、シスター・アモルを、カルーラの修道院の皆さんを信じています。ギルドも対応してくれていますから」
「まあ、ミズサワ様は、カルーラの修道院の皆様と交流を?」
「はい。うちのチュアンさんが、そこで保護されて育った経緯がありまして。私は真面目なチュアンさんを信じています。そしてチュアンさんが信頼しているカルーラの修道院が子供達をチュアンさんのように守ってくれると信じていますから」
「そうでしたか」
そう、フェリアレーナ様は微笑む。わっふ、美しい。晃太が、綺麗な人やー、と呟く。
「それで、ですね。そのレティシア様、ファクル侯爵令嬢の為に、色んな人達の願いがこもった大切な布が、使えなくなってしまって。どうしても気になっていました」
「まあ。ミズサワ様がお気になさる必要はありませんのよ。ミズサワ様は最悪の事態を防いでいただいたのですから」
「それでもどうしても気になってしまいます。せっかく、ユリアレーナ王国とアスラ王国の更なる友好の架け橋になるはずだったのに。私には責はないと色んな方から言ってもらえますが、何かできることはないかと思って。でも、私が出来るのは限られています」
静かにフェリアレーナ様は聞いてくれる。そして、父と話していたダストン様も、お隣のイザベラ様も、そしてセザール様も聞いてくれている。
「私には、頼もしい家族、従魔達がいます。先日ダンジョンに行った際に、素晴らしい布が手に入りました。それを王家に、レティシア嬢に差し上げたいのです」
「まあ、ミズサワ様」
綺麗な声は感極まるのを、抑えている。
「本日持参しています。商人ギルドのタージェルさんからお墨付きを頂いたものです。ハルスフォン侯爵様のお手を煩わせるかと思いますが、これをレティシア嬢に、ファクル侯爵令嬢に使って頂けるようにご配慮していただきたいのです」
私はある程度考えていたセリフを必死に紡ぐ。
国を挙げての結婚式だけど、レティシア嬢にしてみたら、人生最大のイベントになるはず。だって、結婚式だよ。それを全く関係ないところで泥を塗られて、ショックを受けないわけはない。せめて、綺麗な布を贈って、少しでも、そんなショックをいずれ思い出の一つくらいにしてもらいたい。幸せな結婚式にしてほしい。
「お義父様、お義母様、私はその役目を引き受けたく存じます」
話を聞いてくれたフェリアレーナ様が、ダストン様とイザベラ様に視線を移す。
「そうですわあなた。私も同じくそのように思います」
「父上、私もフェリアレーナと同じ考えです」
イザベラ様とセザール様も援護してくれる。
それを受けて、ダストン様は静かに姿勢を正す。
「ミズサワ殿。是非、我々ハルスフォン侯爵家は、その役目を引き受けさせていただきます」
軽く、会釈。
素敵。
やけど、良かった。無事になんとかなったね。
「お話は伺っています」
やっぱり気にされていたよね。なんと言ってもジークフリード王太子殿下は、実の弟だし、その伴侶になる方はいずれ義妹だし。
何よりいずれはこのユリアレーナ王国を背負う方々の結婚式に、あの事件が妙な影を落とさないか心配されているんやね。
「子供達を保護できたのは、せめてもの救いです」
あの事件はズロー商会の単独犯ってことで、アスラ王国は片付けた。まあ、色々加担していた人たちも、芋づる式に引っ捕らえているそうだけど。布の準備を指示したのは、アスラ王国夫妻。現在、ユリアレーナ王国王太后ミッシェル様は、もともとアスラ王国のお姫様だ。つまり、今のアスラ王国の国王は、ミッシェル王太后様の実弟に当たる。せっかく、これからもユリアレーナ王国とアスラ王国が仲良くしましょうって準備したのに、あの14人の子供達の事件だ。
言わずもがな、アスラ王国夫妻は、かんかんらしい。
「はい。今はカルーラの修道院で保護されています。私は、シスター・アモルを、カルーラの修道院の皆さんを信じています。ギルドも対応してくれていますから」
「まあ、ミズサワ様は、カルーラの修道院の皆様と交流を?」
「はい。うちのチュアンさんが、そこで保護されて育った経緯がありまして。私は真面目なチュアンさんを信じています。そしてチュアンさんが信頼しているカルーラの修道院が子供達をチュアンさんのように守ってくれると信じていますから」
「そうでしたか」
そう、フェリアレーナ様は微笑む。わっふ、美しい。晃太が、綺麗な人やー、と呟く。
「それで、ですね。そのレティシア様、ファクル侯爵令嬢の為に、色んな人達の願いがこもった大切な布が、使えなくなってしまって。どうしても気になっていました」
「まあ。ミズサワ様がお気になさる必要はありませんのよ。ミズサワ様は最悪の事態を防いでいただいたのですから」
「それでもどうしても気になってしまいます。せっかく、ユリアレーナ王国とアスラ王国の更なる友好の架け橋になるはずだったのに。私には責はないと色んな方から言ってもらえますが、何かできることはないかと思って。でも、私が出来るのは限られています」
静かにフェリアレーナ様は聞いてくれる。そして、父と話していたダストン様も、お隣のイザベラ様も、そしてセザール様も聞いてくれている。
「私には、頼もしい家族、従魔達がいます。先日ダンジョンに行った際に、素晴らしい布が手に入りました。それを王家に、レティシア嬢に差し上げたいのです」
「まあ、ミズサワ様」
綺麗な声は感極まるのを、抑えている。
「本日持参しています。商人ギルドのタージェルさんからお墨付きを頂いたものです。ハルスフォン侯爵様のお手を煩わせるかと思いますが、これをレティシア嬢に、ファクル侯爵令嬢に使って頂けるようにご配慮していただきたいのです」
私はある程度考えていたセリフを必死に紡ぐ。
国を挙げての結婚式だけど、レティシア嬢にしてみたら、人生最大のイベントになるはず。だって、結婚式だよ。それを全く関係ないところで泥を塗られて、ショックを受けないわけはない。せめて、綺麗な布を贈って、少しでも、そんなショックをいずれ思い出の一つくらいにしてもらいたい。幸せな結婚式にしてほしい。
「お義父様、お義母様、私はその役目を引き受けたく存じます」
話を聞いてくれたフェリアレーナ様が、ダストン様とイザベラ様に視線を移す。
「そうですわあなた。私も同じくそのように思います」
「父上、私もフェリアレーナと同じ考えです」
イザベラ様とセザール様も援護してくれる。
それを受けて、ダストン様は静かに姿勢を正す。
「ミズサワ殿。是非、我々ハルスフォン侯爵家は、その役目を引き受けさせていただきます」
軽く、会釈。
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