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一時の⑦

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「では、会議開始します」
 議長は私。
 あの後、朝御飯の準備をして、従魔ズに食べさせた。時空神様のお話の最中に、ホークさん達も聞いていたみたいで、イシスやアレスの後ろで膝をついていた。
 今日、ディッティを出発するから時間が限られているからね。朝御飯を食べながら、会議を始める。準備が整ってから、晃太が起きてきた。なので、分からない顔。
「どうしたん?」
「実はね」
 時空神様からの華憐の話をする。
「はぁ? あん人、一人で逃げたんっ?」
 珍しく声を荒げる晃太。母が嗜める。確かに私もそう思った。家族を残して逃げる。それ以外にも、華憐には晃太は思うことがたくさんあって、毛嫌いしている。晃太が華憐をそう思うきっかけなり、なにより許せかったのは、生後4ヶ月の娘、美羅ちゃんをうちに預けて、コンサートに行った『美羅ちゃん事件』だ。
「晃太。時間ないけん」
「それは、分かっとるよ」
 ぶすうっ、とウインナーロールにかぶりつく。エマちゃんとテオ君が、珍しい様子でこちらを見ている。基本的に晃太は淡々としているからね。
「最大の問題は、華憐が私達の存在に気が付いて言い散らかす事です」
「それは直ぐには言わんかも知れんよ」
 父があんパンを齧りながら冷静に返す。
「理由は?」
「利益にならんやろうもん。もし、うちらが異世界から来たと誰かに話してよ。なんでそんなこと知っているかって話になるやろ? そうしたら自分がディレナスから逃げ出した、犯罪者の厄災の聖女やとばれる危険性があるやん。そうなれば捕まるやん」
「あ、確かに」
 冷静に考えたらそうかな。
「確か、闇魔法使いの人が管理する的な事ば聞いたから、今すぐやないかもよ。それに今は逃亡に精一杯やろうし」
「そうやね」
「ただ」
 父はコーンスープを一口。
「対策は立てておいて損はない。サエキ様が帰って来たら、一度面会した方がよかろうな」
「そうやね」
 おそらく、サエキ様はジークフリード殿下の結婚式の為に帰って来るはず。だったら会いに行かんとね。
「もう隠してはおけんね」
 私達は、サエキ様のお母さんと同じ日本人だと言う事をね。
「もうバレとらんね?」
 晃太が身も蓋もない。
「サエキ様はご意見番って言われとるから、いろんな人達から一目置かれておるやろ? 情報網はわいらが思うより凄かはずや。それに恐らくもう薄々勘づいておるんやない? だって実のお母さんが日本人ばい? あのわざと落とした手紙からして、会う前から疑っとったんやない?」
「じゃあ、話さん方がよかと?」
「そうは言っとらんよ。やけど、確認ばした方がよかろうな」
「確認?」
 何の?
「異世界人をこちらの人達は、どう認識しとるかって事よ。もしバレて、迫害されたらどうするん? ビアンカやルージュ達が守ってくれてもよ、限界があるやん」
『心配ないのですよ』
『そうよ。誰であろうと止めるわよ』
 だから、何を? 息の根?
「ありがとう。頼もしいけど、穏便にね。でもさ晃太。もともとここの世界は、他所の国からの移民を受け入れとったやん」
「もうずっと前の話しやろ? 問題はうちらがあん人達と同じ時期に召喚されたって事」
「あ、分かった」
 言わんとしている事。
「うちらが、華憐達と同じディレナスで厄災を起こした犯罪者と思われんかって事ね?」
「そう。わい、あん人が大人しく逃亡生活するだけとは思えん」
「それは同意する」
 私はカフェオレを一口。
「でも、それはうちらがディレナスで召喚されたとばれた時点で多かれ少なかれ疑われんね?」
 黙っていた母が意見を出す。事情を知らない、中途半端な情報を持つ人達がそう思うのは仕方ないかもしれない。この世界にはテレビやインターネットのような情報がすぐに手に入らないし、正確な情報を得たくても難しい。もし、私達が華憐と同じ聖女召喚でこちらに来たとバレて、中途半端に私達が厄災に関わっているんじゃないかと疑われたとして、それから身を守る手段。
 私達はビアンカやルージュ達がいるから、誹謗中傷があっても頑張れる。もし、私達を信じて庇ってくれる人達が被害に合わないかが心配や。
「そうやろうね。やから、そうなった時、ユリアレーナがどう動いてくれるか、や。確実に、一致団結してうちらを守ってくれるかよ。姉ちゃんに対して妙な考えを持つ貴族がおるんは事実や。まずは貴族で、異世界の血が確実に流れてるエドワルドさんに、ちょっと相談ばしたら? それからサエキ様に、話を持っていっても良くない? もし、エドワルドさんが分からんかったら、アルベルトさんに相談を考えたら?」
「そうやね」
 今、近くで、日本人の血が流れているのはエドワルドさんだけ。もしかしたら、ひいおじいさんのサエキ様から実際に、佐伯ゆりさんの待遇を聞いているかも知れないしね。
 どちらにしても、今、サエキ様はユリアレーナにいないし。
 なんやなあ、気が晴れない。
 私はコーンとマヨネーズのパンを齧る。
「やけど、相変わらずあん人は最低やな。美羅ちゃん、父親に引き取られて良かったなあ」
 イライラと晃太はカツサンドにかぶりつく。
『珍しいのですね』
『コウタがこんなに憤るなんて』
 ビアンカとルージュがこそこそ。
 母が晃太に目配せをする。
 確かに、晃太の言う事はわかる、わかるけど。
「そうやね。美羅ちゃんの事に関しては、私も許せん。やけど、やけど、ね。」
 私は一息つく。
「アクヴァ君の母親よりまだましや」
 晃太は食事の手を止める。
「………………姉ちゃん、甘いばい」
 言いたいのは分かる。美羅ちゃんをうちに押し付けて行ったのは事実。アクヴァ君の母親は、愛玩奴隷になるとわかって息子のアクヴァ君を売った。それにより、アクヴァ君は心身ともに深く傷付いている。華憐が、私達に美羅ちゃんを押し付けたのは、私達が美羅ちゃんに対して手荒にしないと思ったからやろう。つまり体よくベビーシッターにされただけだけど。
 それでも、アクヴァ君と対面してから、私は少し考えを変えた。許せないのは変わらないけど、視点が変わった。
「やろうね」
 私は玉子サンドを手にする。
『ん? コウタが落ち着いたのです』
『あら、そうね』
 晃太がビアンカとルージュに、しー、ってしていた。
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