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一時の⑥

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 時空神様からの情報で、私のテンションは駄々下がりだ。ため息出したいが、時空神様の前なので我慢我慢。
「それで、華憐達は今何処に?」
 こちらに向かって来ているなら、どうにか対抗手段なり、警戒しないと。絶対に何か起こしそうだし。
「ディレナスから西方向に逃亡しているな」
 ほっ。
 現在地、ユリアレーナはディレナスから東方向だから逆や。良かった。国境のアルブレンまでディレナスから馬車で月単位かかるからね。そのまま西方向に行ってくれないかな。正直言って関わりを持ちたくない。
「他の家族を見捨ててな」
「はぁ?」
 時空神様の言葉は、安心していた私の心臓を冷やす。え、確か、華憐達は四人家族だったはず。見たもん、派手な母親と、髪を派手に染めた弟と妹を。え、見捨てたって、まさか華憐、1人で逃げだしたんっ? だって家族よ? 華憐の家族関係はよく知らないけど、知り合いのいない異世界で、お互いを大事にしない? 頼らない? 私達運良くディレナスから抜け出せたけど、1人で逃げ出すなんて、私には考え付かない。どうにかして、皆で逃げ出す手段を模索したはず。それに華憐達はバカな究極破壊魔法なんて使い、ディレナスでは重犯罪者扱いのはず。もし、そこで1人だけ逃げ出したら、残された家族がどんな目に合うか分からないわけがない。
 いや、もしかしなくても、華憐はそれを分かった上で逃亡したんやない? 
 険しくなる私の顔をみて、時空神様は小さくため息を吐き出す。
「お前なら、そんな顔をすると思ったよ」
 言われて、私はかなりひきつった顔をしていたと気付く。慌てて顔をほぐす。
「だが、この逃亡劇は、ディレナスも一枚噛んでいる」
「え?」
 ディレナスも噛んでる? どういう事?
 私は分からず首を傾げていると。
「わんわんっ」
 花の吠える声。
『ヌッ、ナンダ、オ前カ』
『どくのだな』
 イシスとアレスが微妙にずれる。隙間を縫って花がパタパタと走ってきた。その後ろには寝間着のままの両親が。花が私の足元でローリング、反射的にもふもふ。
 …………………え? 花や、あんた厄災クラスのイシスとアレスに、道を譲らせたん? 小さな口ではみはみするのがかわいか。そんな花を母が慌てて抱き上げる。
「おはようございます、時空神様」
 と、父がご挨拶する。
「急に来て、すまんな。時間がないから話すぞ」
「あ、はい」
 私は椅子を時空神様に勧める。
 慌ててお茶の準備に走る母、代わりに花を抱っこする父。
「厄災の後の事は詳しく知っているか?」
「いえ、流れてくる情報くらいで、詳しくは」
 私は首を横に振る。
「あの後は厄災の聖女一家は特殊な拘束の魔道具をつけられ、重犯罪者として、復興作業の労働による刑期を正式に言い渡された」
 あ、それで無償の治療ね。あの華憐がタダ働きとか考え付かなかったからね。きっと人伝で話が途中で変わったんやね。
「それが遅々として進まず、ディレナスはある手段を使った。高位の闇魔法使いを雇い、厄災の聖女一家にある魔法を使い、復興作業を進ませた」
「ある魔法?」
 なんや、怖そうな感じ。
「一種の幻覚魔法だな。それが効果が出て、ある程度復興の目処がたった頃に、その闇魔法使いがある事に気が付いた」
 そっと、母がお茶を出す。
「厄災の聖女が、魔法に手を抜いている、とな」
「はぁ?」
 訳が分からない。
 だって、自分達がやらかした事でしょうに。破壊魔法なんて使わなければ、ディレナスだって国が傷つかなかったはず、犠牲者だっていなかったはず。隣国のマーランだって灰害で大変なのに。
 ビアンカとルージュの伴侶だって。
 確かに、厄災がなければ、ビアンカとルージュ、仔達と出会わなかっただろうけど、さ。それはそれ。
「厄災の聖女は大地の再生、魔法で破壊された薬草園の大地の再生に手を抜いていたんだ。ディレナスにとって薬草園の再生が、復興の最大目標なのを知った上でな。自分達が苦しい想いをして再生した土地から、恵みを得て暮らすディレナスの人々がいるのが気に食わない、とな」
「はぁぁぁっ?」
 あまりにも、あまりな言い訳で、私の眉間が自然とシワが寄る。母がそっと私をつつくので、シワを指で伸ばす。そのディレナスの人々から、薬草園を奪っておきながら、あいつは何を考えているんやろう。確かにこちらの世界に来た理由は、あの王子の聖女召喚やけど、ディレナス自体は、相応の対応をしてくれていた。
 華憐達はかなりわがまま放題だったと思う。私達も住む場所と生活費もらっていたけどさ。
 薬草園には、私達には全く関係ない人達が働き、そこで栽培される香辛料等がディレナスの輸出品だ。それが大打撃を受けて、数多くの人達の生活が成り立たなくなっているはず。その理由は、華憐達が放った究極破壊魔法だと言うのに。
「大地の表面だけ見かけ倒しで再生した。雑草くらいなら何とか育つ程度で、とても食物が育てられる状況ではない。ただ、厄災の聖女はそれを上手く周囲を騙す手段に気が付いたんだ。自分達が闇魔法使いに使われている幻覚効果を使ってな」
 あいつはそういう所が鋭いというか、ずるをするのが得意だった気がする。華憐達を拘束している魔道具は、攻撃魔法を使えなくし、自殺防止がある。ただ、華憐が色んな人達を騙した幻覚魔法は解けやすく、身体に害はない。こちらの魔法は、本来はちょっとした勇気を出すためのおまじない程度の効果しかないので攻撃魔法とされず対象外。ただ、華憐はその才能があったのか、かなり効果を倍増したそうだ。かけられた華憐の監視役の人達は表面上綺麗になった土地をその場で目視確認した後は、詳しく調べない。だってそれをしていると次にいけない、とにかく復興作業が忙しいから。別の人達がしばらくして検査的な事は行われるが、日をかなりまたぐそうだ。だから、ばれずに今までいたんやね。
「それに気が付いたのが、闇魔法使いだった。まあ、厄災の聖女の弟も薄々勘づいていたようだがな。それで、闇魔法使いは自分の雇い主に報告。ディレナス王国副王ヒュルトに」
 わあ、懐かしい人の名前が。
「このまま厄災の聖女に復興作業させても、まったくの無意味だ。だから、闇魔法使いはある提案をした、厄災の聖女の身柄を自分に預けて欲しいと」
 時空神様は一息着く。
「厄災の聖女を自分の魔法でコントロールするから、と。おそらくいく先々で騒動を起こすが、それのフォローもする。そして時期が来ればディレナスに引き渡すと。それをヒュルトは受けた。厄災の聖女が逃亡すれば、残された家族に圧をかけて、更に労働を強いる事ができるしな。他にも思惑はあったが、それを受けて、厄災の聖女の逃亡を見逃した。もちろん世間には、監視役の騎士達や看守達を、厄災の聖女が意識不明の重体にした、とな」
 私は意識不明の重体の言葉に、血の気が引く。
「実際は眠りの魔法で、眠らせただけで、今は全員ぴんぴんしている」
 ほっ。
「今は地理的に離れているが、いずれお前達に接触しないとは言えない。神とは言え、未来は分からないからな」
 果てしなく、嫌な予感。
 もし、接触してきたら、どうしたらいいのやら。絶対変な言い掛かりつけてきそう。もし、私達が異世界から来たとばれたらどうなるんやろ?
「さて、そろそろ帰るか」
 お茶を飲んで、時空神様が立ち上がる。
 あ、お土産とかないけど。
「数年は接触することはないだろうが。お前の後見人も厄災の聖女の存在は把握している。ただ、お前と関連している事までは把握していないが、あの男の情報収集力なら、近い内に気が付くはずだ」
 サエキ様の事やね。
「何かあれば、サエキ様に相談しますので」
「そうした方がいい。現実最もお前を近くで守ってくれるはずだ。俺達も見守っている。何かあれば、祈りを」
 あ、嬉しか。
 すうっ、と消えていく時空神様。そして、てってれってー。
 さて、水澤家緊急家族会議や。

 時空神様は言葉を濁して話していたけど、後々その意味を知ることとなる。
 その闇魔法使いが、華憐を預かるのは、自分の魔法の実験台にして使い潰す為。そして、ディレナスに引き渡された後は、公開処刑される。見せしめとして、華憐の家族の目の前で。
 私が知るのは、ずっと先の話。
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