上 下
508 / 820
連載

帰る準備④

しおりを挟む
 各パーティーのリーダーさんが、御用聞きの冒険者に伴われて来た。
「ミズサワ殿。こちらを」
 ケルンさんが代表してお土産を渡してくれる。綺麗な包みに覆われ、リボンで飾られた紅茶の缶だ。ブドウの入ったカルーラ特産の紅茶だと。
「ありがとうございます。さ、皆さん、どうぞ」
 パーティーハウスにご案内。
 花が皆さんの手をはみはみした後、歓迎のローリングを披露。仔達もぷりぷりとご挨拶。その後、ミゲル君が食パンで、ルームに誘導する。ビアンカとルージュは近くでごろり。
 本日はホークさんがいないのでチュアンさんが定位置に立つ。ソファーに腰掛けると、マデリーンさんがお茶とお茶請けを出してくれる。本日のお茶請けは、セレクトショップダリアの御贈答用の焼き菓子と果物だ。彩り豊かだ。
「ミズサワ殿、体調は?」
 座って直ぐにフェリクスさんが聞いてくれた。
「はい。すっかり大丈夫です」
 食欲ばっちりです。
 で、これからの事だ。
 現在、大討伐の休息時期。それぞれの予定の確認をする。
 特にギルドから講師依頼の来る高ランクの人の予定だ。
「我々ラスチャーニエは予定はありません」
 もっふもっふとリスのケルンさん。
「今のところ、我々蒼の麓もありません」
 紅茶を傾けていたフェリクスさんも。
 金の虎もなし、と。
「で、マーファに戻る予定なんですけど。こちらの都合で申し訳ないのですが、出発はホークさんが戻って来てからになります」
「エドワルドもツヴァイクも問題はないかと」
 ケルンさんがもっふもっふ。それでも手を伸ばそうとするので、フェリクスさんが止めてる。
「俺達もです。ユイさん、そのレディ・ロストークって」
「パーヴェルさんの愛馬で」
 私はレディ・ロストークの説明をする。
「かなり気性の荒い魔法馬だったのでホークさんでも調教に半年もかかって。調教後の今はカルーラ騎士団のパーヴェルさんの愛馬になってます」
 ふと、フェリクスさんが手を止める。
「パーヴェルとは、イコスティ辺境伯のご子息ですか?」
「え? お知り合いですか?」
「本人との面識はありませんが、彼の両親のイコスティ辺境伯夫妻と少し」
 流石Sランク冒険者で長命な人やなあ。人脈すごか。
「そのパーヴェルさんのお願いもあって、レディ・ロストークのお相手にノワールをって。レディ・ロストークは、他の雄馬を近付けさせなかったようなんですけど、ノワールとは相性良かったみたいで。私も楽しみなんです。ただ、お腹の赤ちゃんの魔力が多いみたいで、それでレディ・ロストークが悪阻で体調悪くなったみたいです」
 へー、と私の拙い説明で納得してくれたのはファングさんとロッシュさん。
 だけど、ん? と止まるのはケルンさんとフェリクスさん。
「なあ、フェリクス。魔法馬って、悪阻あったか?」
「聞いた事ありません。確か、馬が魔法馬を宿したらそうなると聞きましたが」
「あー、多分、ノワールの種族の問題でなっているみたいです」
 昨日も心配で、様子を見に行って、ホークさんから更に詳しく聞いた。
「ノワール君の種族? 魔法馬ですよね?」
 ロッシュさんがレーズンサンドを手にしながら確認するように聞いてくる。
「始めは魔法馬だったんですけど、進化したんです。戦車馬(チャリオット・ホース)なんです」
 私の普通の感覚だと、犬とかならミックスとかになるけど、魔物は違う。レディ・ロストークは魔法馬、ノワールは上位種の戦車馬(チャリオット・ホース)。同じ馬でも魔物である。この間で子供が出来た場合は、どちらかの種族になる。高確率で母親の種族になる。アレスとアリスの仔達であるシルフィ達がいい例だ。シルフィだけフォレストガーディアンウルフ。イフリィ、ノーム、ウインディはアーマナイトウルフ。元々母親のアリスはアーマナイトウルフ。進化してアーマークイーンウルフになり、アレスの伴侶となった。なので、イフリィ達三匹は、母親の進化前の種族なんだろうって、ビアンカとルージュが。
 ホークさん曰く、ノワールは本来ならば、魔法馬から進化したらその1つ上の属性魔法を持つ(属性)魔法馬になるのが、通常なんだけど、すっ飛ばして戦車馬(チャリオット・ホース)になった。レディ・ロストークのお腹の赤ちゃんは、父親のノワールの影響を受け、母親の魔法馬より上位種の可能性が高い。だから魔力が母体より多く、母体のレディ・ロストークはその魔力の流れを正そうとして、無意識の内に悪阻、体調不良となった。これが出産経験があれば、胎児の魔力を流すコントロールはしやすいのだけど、レディ・ロストークは初産でまったくの未経験でこうなった。現在、魔力のコントロールの為に、ホークさん、飼育員さん、パーヴェルさんが神経を尖らせている。
「ホークさんの話では、赤ちゃんは属性のある魔法馬の可能性が高いそうです」
(属性)魔法馬は戦車馬(チャリオット・ホース)と魔法馬の中間位置にある。おそらくそうだろうって。まあ、産まれてみないと最終的にはわからないけど。
 私の説明で、ケルンさんとフェリクスさんが、止まる。
「え。ミズサワ殿の魔法馬、戦車馬(チャリオット・ホース)なんですか?」
 リスのケルンさん、ほっぺたの位置戻ってる。
「はい。進化しまして」
「道理で、やけに迫力のある体躯だと思っていましたが」
 はあ、と息をつくフェリクスさん。
「ジューバが滅びてから、この大陸で魔法馬より上位が産まれるとしたら、まだ先の話。進化の理由は? まさか、称号持ちの彼の影響ですか?」
「まあ、それはきっと」
 そっと指差す先にはビアンカとルージュ。我関せずと、寝てる。あんだけちゅどんドカンして、ノワールだってバキバキしたしね。
「色々戦闘を繰り返した結果かと」
「ハハハ」
 乾いた笑みのフェリクスさん。
「まあ、魔法馬の話はいいとして。ミズサワ殿、ギルドに出発の報告に行きませんか?」
 ピンクと緑色がマーブル模様になってるパウンドケーキを手にしたケルンさんが聞いてくる。
「早めにエドワルドとツヴァイクの同行を伝えた方がいいかと」
「そうですね」
「今日にでも行きましょう。この後で、私が2人を連れてギルドに向かいますので」
「はい、ギルド前で」
 よしよし、マーファに帰る準備が進むね。
「テイマーさんは出発までカルーラに?」
 苺をせっせと食べていたファングさんが何気なく聞いてくる。
「いえ、明日からルーティのダンジョンに行きます。アリスの闇魔法の指導の為に、3泊予定ですけれど。ノワールがいるので、早く移動出来ますし」
「「ですね」」
 と、ファングさんとロッシュさん。
「あ、そうや、前回ラスチャーニエと蒼の麓は不参加でしたね。ご一緒しません?」
「「是非に」」
 わあ、揃った。何気なく言っただけなのに。こうして3泊4日のルーティダンジョンツアーに、Aランクの冒険者パーティーが加わった。やけど、楽しみ。不謹慎かも知れないが、蒼の麓もAランクの冒険者パーティー。どんな戦闘するんやろ。野次馬野次馬。
 コテージの使用料は3泊4日なので、3万頂く。朝昼は自炊で、夕御飯は提供。もし、お昼異世界のメニューを希望されたらお一人様500頂く事に。
 ドロップ品の取り分も決める。晃太の支援魔法を受けての戦闘も引き受けてもらえたので、その時のドロップ品や宝箱はすべて進呈。こちらのちゅどん、ドカン、バキバキはこちらで。ルームの扉の向こうから『ダンジョン』の掛け声が聞こえる。
 明日の9時城門前と決まり、お話し合いは終了。
 皆さんをお見送りして、私は冒険者の格好になる。晃太とチュアンさん、ミゲル君、珍しくイシスがついてくれてギルドに向かう。
 さ、大根大根。ホークさんに言われたけど、不安そうに、ね。大根大根。ああ、不安や。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

別に構いませんよ、離縁するので。

杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。 他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。 まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

【完結】虐げられた令嬢の復讐劇 〜聖女より格上の妖精の愛し子で竜王様の番は私です~

大福金
ファンタジー
10歳の時、床掃除をしている時に水で足を滑らせ前世の記憶を思い出した。侯爵家令嬢ルチア 8さいの時、急に現れた義母に義姉。 あれやこれやと気がついたら部屋は義姉に取られ屋根裏に。 侯爵家の娘なのに、使用人扱い。 お母様が生きていた時に大事にしてくれた。使用人たちは皆、義母が辞めさせた。 義母が連れてきた使用人達は私を義母と一緒になってこき使い私を馬鹿にする…… このままじゃ先の人生詰んでる。 私には 前世では25歳まで生きてた記憶がある! 義母や義姉!これからは思い通りにさせないんだから! 義母達にスカッとざまぁしたり 冒険の旅に出たり 主人公が妖精の愛し子だったり。 竜王の番だったり。 色々な無自覚チート能力発揮します。 竜王様との溺愛は後半第二章からになります。 ※完結まで執筆済みです。(*´꒳`*)10万字程度。 ※後半イチャイチャ多めです♡ ※R18描写♡が入るシーンはタイトルに★マークをいれています。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。