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連載

再出発⑤

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 次の日。
 私はギルドに向かう。ホークさんとエマちゃんとテオ君、ビアンカと元気とコハクが付いてきてくれた。
 直ぐに応接室に通され、元気とコハクがそわそわしている。
「じっとしとかんね」
「わふん、わふん」
「がるぅ」
 やめて、ソファーを齧らんよ。
『元気、コハク、こっちに来るのです』
 ビアンカが言うが、元気とコハクはそわそわ。リードを付けているので、その長さしか動かないが、そわそわ。仕方なくエマちゃんとテオ君が、もふもふとマッサージすると、ごろりん。
 そこにラソノさんがやってきた。身嗜みは整えているけど、隈がしっかり。
「ミズサワ様、お待たせしました」
「いいえ」
 マッサージしていたエマちゃんとテオ君が、ホークさんと並ぶように立つ。すると、元気とコハクがきょとん、として、エマちゃんとテオ君にマッサージのおねだりすりすり。私はラソノさんに許可をもらい、エマちゃんとテオ君には元気とコハクのもふもふ再開のお願い。
 私はその間に、出される書類にサインと魔力。あの畳2帖のウサギの毛皮、300万になった。凄か。もともと魔の森の奥にしかいないし、直ぐに逃げるし、襲われたらあの角で鎧なんて貫通だしね。毛皮は回収の時に触ってみたけど、すごく滑らかだった。これはお貴族様のコートになるんだって。角もサイズは様々だけど、最高額は30万。これには薬師ギルドからお礼の為にわざわざ職員さんがやってきた。
 それから宝石や宝飾品は、残っていたのはすべて高額品だけど買い取ってくれた。最高額はあのエメラルド。お値段びっくり6000万。これはうちの従魔ズのシャンプー代にしようかね。
 ふう、せっせとサインと魔力を流して終了。ラソノさんが確認。
「はい、ありがとうございます。すべてでドロップ品は3億5952万3000になります。宝石、宝飾品は2億1600万となります」
 あははん、ちょっとダンジョン行っただけなのに。やっぱりレベルの高いビアンカやルージュ達が、ボス部屋開けるので、ウサギや猪がわさわさ出るからね。お肉はずいぶん引き取ったけど、凄か額。ルーティのダンジョンは、あの後サブ・ドア繋がっていたから何度か行っていて、まだドロップ品はあるけど、こちらはマーファに持っていこうと思っている。
 ドロップ品の1%は鷹の目のパーティーカードに入れてもらう。よしいいかな。
「あの、ラソノさん」
「はい」
 ほくほくと書類を確認したラソノさんが顔を上げる。
「これ、良かったら皆さんで召し上がってください」
 私はマジックバッグからお菓子が詰まった箱達を取り出す。
 元気とコハクが箱から漂う匂いを察知するが、リードを付けているので、ビアンカががっちりおさえる。
「え?」
「お菓子です。カルーラのギルドの皆さんには色々お世話になっていますので、気持ちです。一番上の箱のお菓子にはリキュール等のアルコールが含まれますので、ご注意ください」
 念のために赤いリボン巻いてみた。私は綺麗に蝶々結び出来ないので、母がしました。どやっ。
「こ、こんなにたくさん。ありがとうございますミズサワ様。皆、喜ぶでしょう、ありがとうございます」
 丁寧にお礼を言うラソノさん。職員さんが丁寧に運び出していく。
「ラソノさん」
 そろそろお暇しなくちゃだけど、私はどうしても気になっていた事を聞いてみた。
「はい、ミズサワ様」
「子供達は、無事に修道院に?」
 ラソノさんは一瞬考えて、答えてくれる。
「そうですね。ミズサワ様は当事者ですので。はい。治療もほぼ終了し、先日全員無事に修道院に移送完了しました」
「そうですか」
 チュアンさんを大切に育ててくれたシスター・アモルがいる。きっと大丈夫。
 他言無用で、とラソノさんが続ける。そうよね、個人情報やったね。
 14人の子供達は5~12歳。子供達の中で、誘拐されたかどうかが、まず分からない。住んでいた場所、つまり村の名前もないような所から来たようで、難航しているみたい。はっきり親から売られたと自覚がある子はわずかに3人。あの狼の獣人少年を含んだ年長の男の子と女の子の3人だ。私に分からないのは、違法と分かっていながら未成年の子供を違法奴隷として売った親の心情だ。バレたらかなり厳しい罰があるのが、分からないのかね。聞いたら、一発で長期の犯罪奴隷なんだって。
「おそらく、子供を子供として思っていないのでしょう。こういった輩は、自分が奴隷になるのを嫌い、一晩の酒代の為に簡単に子供を売りますからね」
 ラソノさんは忌々しいと息を吐き出す。私も腹が立ってきた、自分で働かんね。子供を売るって、どんなに小さくたって、その子供の親だからって、やってはダメな事やろうに。
「あんな小さな子供を売っても、大した労働力ではないですよね?」
 だって、皆痩せてたし。奴隷っていったら、定番は鉱山ってイメージ。それからアルブレンの石少年の母親が国営農場に行ったはず。力仕事やない?
 すう、と、ラソノさんの顔から感情が消える。
「ミズサワ様、あの子供達は労働力目当てではありませんよ」
 じゃあ、何で誘拐したの? ふと、私の肩に手が置かれる。ホークさんだ。小さく首を横に振ってる。あ、知らない方がいいんかな? でも、気になる、気になってしまう。あの狼の獣人少年があんな目に合わされた理由が。赤の他人の私だけど、冒険者として活動するならいずれ似たような事態に遭遇する可能性がある。遅かれ早かれ、耳にはいることや。
 私は意を決して、ラソノさんと向き合う。
「あの子供達は、愛玩奴隷にされる予定だったのでしょうな。みな、汚れを落としたら見た目が良かったので。特にあの狼の獣人少年は、珍しい白狼。顔立ちも群を抜いて良かったですから」
 なんて、響きの悪い言葉、あ、愛玩奴隷って…………思わず絶句してしまう。つまり、その愛玩奴隷を買う連中がいる、そしてそれを準備する連中もいる。なんて歪んだサイクルや。あんな小さな子供達が、どんな目に合わされていたか。今回はたまたま察知能力の高いアレスが気がついたから、いいようなものだ。そして、救出の為に使った、ルージュの高位闇魔法のおかげなんやけど。だけど、こんなの氷山の一角。いたちごっこなんだって。
「今回は、ミズサワ様のおかげで未然に防げ、あの冒険者パーティーもペナルティは付きましたが、これからも活動できます。今回は、そうですね、希に見る救出劇ですよ」
 そう、なのかなあ。
 考え込んで、寄った眉間のシワを指で解きほぐす。
「ミズサワ様?」
「大丈夫です。教えて頂きありがとうございます。他言しません。ラソノさん、ありがとうございます」
「いいえ」
「後ですね。明後日から、また、魔の森に籠る予定です」
 私は、ラスチャーニエ、蒼の麓、金の虎、山風と共に魔の森に入ることを告げる。ラソノさんから大討伐にご参加ですか? と、聞かれるけど。
「ちょっと調べたい事があるだけなので、他の皆さんにくっついて行くだけですから」
 安易に参加しますとは言えない。
 私はラソノさんに挨拶して、ギルドを後にした。
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