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一旦は⑦

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 次の日。
 時間通りに各リーダーさん達が御用聞きの冒険者の方に伴われてやってきた。
 御用聞きの冒険者さんはぺこりして帰っていった。
「ミズサワ殿、こちらを」
 ケルンさんが代表して手土産を渡してくれた。
「ありがとうございます。気を使わせてしまって」
「我々の気持ちですから」
 と、言われて、素直に受けとる事に。
 綺麗なリボンを飾られたずっしりと重い籠、中身はこれもリボンで飾られた瓶。カルーラの北西、ルーティと言う海辺の町特産のアーモンドとカシューナッツ、ヘーゼルナッツ、胡桃がびっしり入ってる。ルーティはアスラ王国の町で、カルーラとの国境の町だ。馬車で3日の距離だ。アスラ王国はちょっと前まで閉鎖的な国で、ユリアレーナ王国とも最低限な交流しかなかったそうだけど、ある王女様がユリアレーナ王国に嫁いだことがきっかけで、国交が盛んになったと。その王女様が、現在のミッシェル王太后様だ。あれだよね、政略とか、国同士を仲良くするための結婚だったろうけど。今では、アスラ王国とユリアレーナ王国は友好国として上手くいってる。カルーラとルーティはお互い国境の町として、上手く交流しているそうだ。
「皆さん、どうぞ」
 と、パーティーハウスにご案内。
 花が歓迎のローリングを披露し、元気がぷりぷりご挨拶。すっかり慣れた仔達もウェルカム。
「お母さん、お土産頂いたよ」
「まあ、皆さんありがとうございます」
 籠は母に渡る。仔達がわらわらと皆さんに群がるので、必殺技、食パンでルームに誘導。花も食パンにつられてルームに。ルームには母と、チュアンさん、ミゲル君、エマちゃんとテオ君に行ってもらう。今日は父は出勤だ。
 居間に私と晃太、ホークさん、ビアンカとルージュ。ケルンさん、フェリクスさん、ファングさん、ロッシュさんが集まる。マデリーンさんには予め準備していたお茶や、銀の槌の焼き菓子を出してもらう。
「ありがとうございます」
 リスのケルンさんが出来上がる。イケメンエルフなのに、リスみたい。フェリクスさんは呆れ顔だ。
「で、鞍ですが、2週間で出来上がる予定です」
 今日の話し合いの議題だ。
 オシリスの鞍の出来上がりと、ホークさんがオシリスに騎乗するための期間だ。
 皆さんだって、予定があるしね。現在、ヤマタノオロチは王冠山内で眠りに着いているが、期間は約1年。それでどうにかせんといかんからね。
「肝心のグリフォンの騎乗は?」
 紅茶のカップを戻したフェリクスさんが聞いてくる。私はちら、とホークさんを見る。
「現在訓練中です。実際に一度鞍が出来上がって騎乗してみないとなんとも」
「ミズサワ殿は?」
 え? なんで私に聞くん?
「私は、ホークさんを全面的に信頼してますし。オシリスは賢いですから、振り落とすような事はしないと思います」
 今までの訓練過程を見たらね。確かに実際に鞍が出来上がって、乗ってみないとわからないけどね。
「そうですか」
 フェリクスさんは私の答えに納得してくれたのか、それ以上は言わない。
 次の議題だ。
 それは時期だ。現在秋も終わりがけで、直ぐに冬が迫っている。
 騎乗が上手く行って、順調にヤマタノオロチを目視して、神様に報告したとしたら、真冬になる。
 ビアンカやイシス達はふかふかボディだからいいけど、あまり寒いとルージュが嫌がるからね。確かに、真冬の外で、戦闘なんて避けたいよね。空気は冷たいし、動いて汗かいたら直ぐに冷える、一発で風邪引くよ。
「出来ればせめて、雪解けが過ぎた後が」
 と、ケルンさん。
 王冠山には万年雪がある場所もあるから、常に寒い場所もあるだろうけど、少しでもこちらが動きやすい時期がいいに決まってる。
 うーん、蛇って寒くなると動きが鈍くなるから、寒い時に、ほら、ちゅどんドカンした方がって思っていたけど。ヤマタノオロチってそれに当てはまるとは限らない。なら、こちらが少しでもいいコンディションで動きたい。
 こちらの暦も12か月。微妙にずれがあるけどね。ちなみにマーファの春祭りは、日本で言う4月辺りになる。暦の普及はユリアレーナの基礎を築いたユリ・サエキ様が提案して、1月から12月だ。
「なるほど、では、4月過ぎがいいですかね」
 皆さん頷いている。
 大人しくしていたビアンカとルージュが頭をもたげるように、顔をあげる。
『ユイ、ロッシュという雄が動揺しているのです』
『そうね。焦っているわね』
 言われて、ロッシュさんを見る。見た感じはロッシュさんは落ち着いたような雰囲気だけど。この場で聞いてもいいのかな? 後でこっそり聞こう。
「テイマーさんはずっとカルーラに逗留するのか?」
 ファングさんが少し冷ました紅茶を飲みながら聞いてくる。
「そうなりますかね。ファングさん達は何か予定が?」
「実は、ルーティにあるダンジョンに一度臨む予定だったんです」
『『ダンジョン』』
 ひーっ、うちの稼ぎ頭の鼻息がかかるっ。
 ルーティにあるダンジョンは18階で、地下に降りるタイプのもので、初心者から中堅が臨むダンジョン。ただ、人気のダンジョンで、入場制限がかけられている。
「あ、行ってきてもらっても構いませんよ。鞍ができて、騎乗訓練もあるから。後でカルーラで合流すればよかやないですか」
「あー、そう、だなあ」
 ファングさんの歯切れが悪い。
『ねえ。ユイ。その鞍が出来るまでの間に、行ってみたいのですっ』
『行きたいわっ』
 ふごー、ふごー、と私の首筋ベタベタ。
「2週間しかなかやん。それに入場制限があるなら、いきなり行っても入れんばい」
 私はデカイ鼻面を押し返す。
「いや、ミズサワ殿なら、優先的に入れるはずですよ」
 お皿の残り少ないクッキーを手にしようとして、リスのケルンさんが、フェリクスさんに腕を捕まれている。
「スキップシステムを使って、12階以上に行くなら制限がないはずですよ」
 ルーティのダンジョンの特徴は、ワンフロアが広い。一般人が入れる一階でも、ボス部屋まで、片道6時間かかる。それが下層にいけば行く程広くなる。しかもセーフティが各階一ヶ所しかない。なので、中堅層対象の12階以上になると更に広くなる為、アイテムボックス持ちか、マジックバッグがあるパーティーでないと、入場制限がかけられる。
 うちには魔力豊富な、ビアンカとルージュ、それにイシスとアレスもいるし。行けるかな?
「それにルーティは海産物の宝庫なんですよ」
 と、追加報告あり。
「確かにそうでしたね。この時期ならターコイズオイスター、ターコイズシュリンプが絶品ですね」
 フェリクスさんが思い出した様に言う。ターコイズとな。でも、牡蠣にエビ。
『ユイ、ターコイズとは何なのです?』
『気になるわ』
「ターコイズは種類を分ける名前たい。牡蠣とエビやね」
『牡蠣フライなのですっ』
『エビッ、エビッ、エビーッ』
 鼻息が荒くなる。そうなるやろうと思ったよ。
 だけど、気になる、海産物。
「姉ちゃん、ノワールならそのルーティまですぐやん。ダンジョンは無理でも、買い物くらいできんね?」
「そうやな」
 どうしよっかなあ。
『ユイ~、牡蠣~、ダンジョン~』
『エビ~、エビ~、エビ~』
 ゴロゴロと甘えてくるビアンカとルージュ。もう、仕方なかね。陥落。
「ファングさん。良かったらご一緒しませんか? 行きだけでもうちの馬車に乗りません?」
「い、いいのか?」
「はい。それでもしダンジョンに入れたら、また、弟の支援魔法を受けて貰えませんか?」
「それはもちろん、こちらがありがたい」
 ケルンさんが着いていきたいとありありと顔に出てたけど、ギルド主催の魔力訓練の講師を引き受けているため、断念。ヒェリさんもそうらしい。そしてフェリクスさんとエリアンさんもだと。ラスチャーニエと蒼の麓はダメね。ちょっと気がかりロッシュさんに声をかけると、是非同行させてほしいと。
 鞍が出来上がってからもう一度2週間後に話し合いの予定を組んで終了したが、ファングさんとロッシュさんだけ残り、詳しい出発の日程を組む。私にはルームがあるし、まだコテージあるからね。食事は朝はコテージ、昼は自炊か私にいくらか支払い異世界のメニュー。異世界のメニューは、面倒だからお昼はお一人様500頂くことに統一。夕御飯は提供することになる。
 明日はチュアンさんの採寸の後に、午後からシスターアモルとの面会だからね。もし、ダンジョンに入れても長期を避けて、鞍が出来上がる前日にはカルーラに帰り着く予定とする。一応ギルドに報告した方がいいと、ホークさんに言われたので、そのまま私と晃太、ホークさん、ファングさんとロッシュさんで報告に向かう。対応してくれたラソノさんが、ルーティのギルドに連絡してくれるそうだ。
 ギルドで挨拶して別れたけど。
『あのロッシュって雄、迷っているのですね』
『まだ動揺しているわよ』
 大きな背中を見送って、ビアンカとルージュが告げる。聞きたいけど、本人が顔に出さないし、相談も出来ないような事かもしれない。個人的なさ。うーん、春先となった辺りかな? ロッシュさんが動揺したのは。
 春先と言えば、マーファの春祭りしか思い付かないけどなあ…………………………………………あっ。
 確か、ロッシュさんのお子さん、上の子、もしかしたら半成人やないかな? 違うかな? それくらいの年だと思うけど。こちらの七五三は、向こうの様なお祝いの意味もあるが、神様に感謝を捧げる意味もある。
 無事にここまで成長出来ました、ありがとうございます、の意味。
 こちらの子供が無事に成人まで迎えられるのが、日本の比ではない。だから、半成人は大事な大事な一大イベント。春先までこっちにいたら、間に合わんやん。飛行機で帰れる訳がないんやから。
 あくまで推察。もしかしたら、違う理由かもしれないし、ね。
 ルーティに行く途中で然り気無く、聞いてみようかな。
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