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一旦は⑤

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 ご指摘ありがとうございます。


 元気をもふもふしていると、私が呼ばれる。
 私も乗るからね。イピオスさんに指定された鞍の模型にホークさんと、跨がりいつもの餃子スタイルになる。
 アグノスさんがてきぱきとサイズを測る。足の長さね。うーむ、日本人サイズで短いのがばれるー。
 サイズの結果を聞きながら、イピオスさんがデザインの細かい調整。凄かなあ。フリーハンドだよ。流石、ギルドおすすめの工房だ。
「どれくらいかかります?」
「そうですなぁ」
 イピオスさんが首を捻りながら考える。
 ノワールの様にがっちりとした鞍ではないので、かかる時間が変わる。
「原材料の査定からですが」
「あ、手持ちの革がありますよ」
 色々あるよ、晃太のアイテムボックスに。何だかんだと何種類か革が残っている。何かで必要になるかもしれないからね。
「是非に拝見させてください。所でミズサワ様のポンチョにも使用されていますね」
 革職人さんだから、お目が高いのかな。
「はい、軍隊ダンジョンのワイバーンの革です」
「ダンジョン産、なるほど通りで。光沢からして質の良いものだと思っておりました。ワイバーンの革でしたら、ご期待に添えるものが出来るかと」
「あー、ワイバーンはもうないんです」
 全部ギルドやマーファの工房で売れてしまったからね。
 そうですか、と残念そうなイピオスさん。
「あ、いいのがありますよ」
 そうそう、いいのがあるやん。
 店内に戻る。
「晃太ー、玄武ー」
 まるで、シャンパンー、みたいな感じね。
「ん」
 と、元気をもふりながら、玄武の革を引っ張り出す。
 イピオスさんとアグノスさんが再びフリーズ。そして目をごしごししている。
「目の前に、あるのは玄武か? あの玄武か?」
「おかしいね、ドラゴンより希少な玄武があるよ。わたし、寝ぼけているのかね?」
 2人してごしごし。揃った動作でごしごし。
 目、赤くなりますよ。
 だけど、本物だと分かってからが、アレだった。
「これが玄武かっ」
「なんて美しい光沢っ」
 興奮してるー。息遣いが、ちょっと危ない感じですけど。ぐへへ、ぐへへ、となんだか、ちょっと危ない。革に頬擦りしそうな勢い。元気をかわいいと言ってくれた若い女性は、気にしていないのか、新しくお茶を出してくれる。
「あのー、使えそうですかー?」
 ぐへへ、ぐへへ、なお2人に聞く。
「あっ、これは失礼っ」
「じゅるっ、すみませんっ」
 ヨダレ、垂れてません?
 そっと口元を拭っている。
 危ない感じが、すぐに職人の顔にシフトチェンジ。
「私共では、この玄武の革を加工するとならば、年単位になるかと」
「じゃ、別ので」
「「そんなーっ」」
 ビアンカとルージュ以外に初めて聞いた。
「出来れば、早く仕上げて欲しいんですが。晃太、他の革出して」
 晃太が色々な革を出していく。然り気無く、玄武の革を仕舞おうとすると。
「「ああああぁぁぁぁぁーっ」」
 なんとも名残惜しい悲鳴が。
「あの、鞍」
「あ、はい、失礼っ、えーっと」
「兄さん、これはどうかしら? 軽いし」
「いや、厚さが足りない。こっちの方が」
「待って、これは硬いわ。かなりの稼働を予測するならこれがいいんじゃない?」
 切り替えが早か。
 イピオスさんとアグノスさんはてきぱきと革を選別。
「重さは付与でどうにかするとして問題は」
 イピオスさんは革を手にして、私の方に向き直る。
「風属性の付与はどうされます?」
「風?」
「そうです。飛行するグリフォンなら、風属性魔法があるはず」
 飛行する魔物は、大型、上位種になれば必ず風属性魔法を持つ。飛行するために、翼の力だけではなく、魔法を駆使して、長く、早く飛ぶのだそうだ。
「人を2人も乗せるのであれば、おそらく補助が必要になるはず。属性のある魔石をお持ちでしたら」
「あー、晃太、ある?」
「なかよ、火と水の魔石ならあるけど」
 ないかあ。属性のある魔石って人気で、冷蔵庫・軍隊ダンジョンで得たものは、是非にと言われて回してしまった。うーむ、とっておけば良かった。
 王冠スライムのコアを出すと、これはこれで使用しますって。だけど、問題は風属性。ペッリル工房はイピオスさんが土、アグノスさんが闇の付与はできるそうだけど。
「あのー」
 おずおずと切り出すイピオスさん。
「はい」
「グリフォンの羽を頂けたら、なんとかなりますが」
 何でも上位種の身体の一部、毛、牙、爪とかは、その魔物が属性魔法の潜在素材なんだって。例えばビアンカの毛には、風、水、土、木、雷、氷の潜在素材で、これらを使うと簡単に、ワンランク上の属性付与ができるんだって。
 なら、オシリスの羽ば。
 再び裏庭に。オシリスはのんびりお昼寝している。引き抜くのはかわいそうだし。
「オシリス」
「くぅ?」
「ごめんけど、オシリスの羽が欲しいんよ。こう、羽ばバタバタしてみて」
 抜け落ちたのでもよかろう。私がバタバタの仕草をすると、オシリスはすぐに理解してくれたのか、羽を広げる。
 おおっ、凄かっ。迫力満点っ。
 で、バサバサッ。
「ギャーッ」
 風圧ーっ。風圧ーっ。風圧ーっ。
 いきなり巨大扇風機に当てられたような感じっ。私は当然、晃太もひっくり返り、興味津々で見ていた他の職人さん達まで巻き込んで、一斉に倒れこむ。
 ストップッ、ストップッ、ストップーッ。
 ひーっ。
 なんとかバサバサが終わり、転がった皆さんが立ち上がる。
 あたたた、私はホークさんの手を借りてなんとか立ち上がる。
「探せーっ」
 復活したイピオスさんが号令をかけて、職人さん達が地面を捜査を始める。まさに地面に張り付くように。オシリスがどうしたものかと、羽をしまって首を傾げている。
「あったかーっ」
「「「ないですーっ」」」
 じゃ、アンコールバサバサ。ひゃーっ。
 だけど、なかなか羽が落ちない。そろそろ工房の屋根が、危なくない? 吹き飛ばない?
 今日、このバサバサで羽が落ちなかったら、後日自然落下したのでもダメかなって、思ったけど、それは素材的に品質が落ちるから、イピオスさんはいい顔しない。自然に落ちるのは、劣化しているからなんだって。出来れば、劣化して落ちたのではなく、バサバサで落とされた物がいいって。だけど、そろそろ皆さん、限界やない? 後でイシスに聞いたら、羽なんて簡単に抜けないそうだ。羽毛みたいなのは、よく落ちているけど、グリフォンの命である翼を覆う羽は強靭で、ちょっとやそっとで抜け変わらない。まだホルスのように幼いグリフォンなら、ちょいちょい抜け変わるが、オシリスは立派な成体だからね。もう、羽毛でよくない?
「羽でっ、羽でお願いしますっ」
 イピオスさんの熱烈アピール。
 流石にオシリスも、めんどくさそうな顔をし始める。それより、自分の周りを這って回る皆さんに引いてる。
 アンコールバサバサがめんどくさくなったのか、オシリスはいきなり嘴で豪快に自分の羽を数本むしり取る。いやいや、ぶちぶちって、言わんかった?
「オシリス、痛くないね?」
「くぅっ」
 大丈夫だと言わんばかりに、オシリスは私の手に自分の羽を乗せる。羽は全部で3本。長さ30センチくらいかな。
「イピオスさん、これで足ります?」
「ああああぁぁぁぁぁーっ、グリフォンの羽っ。グリフォンの羽っ。グリフォンの羽ーっ」
 大興奮。後ろで他の職人さんがばんざーい。
 こほん。
「これで付与問題はどうにかなります。では書類作成しましょう」
 革は鼻水君がビアンカに献上した猪の革だ。ほどよい厚さがあり、柔軟性もあり、付与を重ねてかけても耐えられる上物だからと。
 私が早く、と言ってしまったので、明日実際に飛行するオシリスを見てもらうことになる。時間を確認してと。
「デザインは明日の飛行を見てからすぐに詰めます。作成は特急で急いだとして、2週間、前後2日みてください」
「はい」
「ではこちらの木札をお持ちください」
 差し出されたのはこの工房の紋様と、依頼受注中と焼き印されている。
 よし、いいかな。
 その間、元気がアグノスさんにもふもふされている。
「かわいいウルフの坊やだね。うちの仔にしたいよ」
 ですって。おほほ。うちの元気はやんちゃだけど、かわいかのよ。
「ウルフの坊やの1割くらいのかわいさが、うちのバカ息子にあれば、怒鳴らなくてもすむのにねー」
 難しい年頃の息子さんがいるんやね。アグノスさんのため息がやけに実感が籠っている。元気はペロペロ。
「では、明日、14時に西門で」
「「はい」」
 私達はいつの間にか工房の職人さん皆さん全員に見送られて、工房を後にした。
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