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一旦は③

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 次の日。
 あまり眠れなかった。
 しかし今日はカルーラに帰るために、ノワールに騎乗せんといかんからね。
 冷たい水で顔を洗って、よし、気持ちを切り換えよう。
「ユイさん、おはようございます」
 ドキイィィッ
 ホークさんがいつものように挨拶に来てくれた。
 昨日のシュタインさんとの会話が過る。

 男は最後はそれを望みますよ

 いかん、顔に血が昇る。
「あ、あ、はい、おはようございます」
 平常心、平常心で答えるが、ばれていたみたいだ。
「ユイさん、どうしました?」
「いえ、何でもないです……………」
 まともにホークさんの顔がみれなかったが、よく考えたら、変だよね、自意識過剰や。うん、そう、自意識過剰。いつもに戻ろう、いつものね。そっと息を吸って、と。
「何でもないんですよ。今日もよろしくお願いしますね」
「? はい、お任せください」
 本日はホットドッグの朝御飯を済ませる。
 片付けしていると、コテージから挨拶に来たのは、毎朝のご挨拶の皆さん。なんで、ロッシュさんじゃなくて、シュタインさんなんやろ。目が、会わせづらいっ。さ、爽やかな笑顔ば浮かばせんでっ。
「ユイさん、おはようございます」
「お、おはよう、ございます……………」
 他の皆さんが、んん、と言う顔だけど。
 シュタインさんはいい笑顔を浮かべて、それで帰って行ったけど。
『ユイ、どうしたのです?』
『動揺しているわ。あの雄、噛んで来ましょうか?』
「やめて」
 心配してくれるのはありがたいけどさ。
 それでも持ち直して、準備して、と。
 ただ、そんな私をホークさんが静かに見ていたのに、気がついていたけど、気がつかないふりした。

 数日後、無事にカルーラに到着。
 Sランクの私の馬車の中、鮨詰め状態。私は馭者台にホークさんとならんですわっているからいいけど。馬車の中には、広いとはいえ、冒険者25名と晃太とシルフィ達がびっしり入ってる。中から、わいわいと楽しそうな声が。
「つ、つぶれる…………」
「仕方ないですね、膝に乗りなさい」
「はーい」
「わんわんっ」
「リーダー、なんか匂うっす」
「やかましい」
 賑やか。
 無事に城門に到着して、ホークさんが先行通過の為に走っていく。
 馬車が止まったので、中から皆さんが溢れるように出てきた。
「もうすぐ着きますよ」
「お気遣いありがとうございます。流石にここからは歩きますよ」
 と、フェリクスさん。
 元気が出てきた皆さんにぷりぷりとご挨拶。他の仔達もすっかり皆さんに懐いて。
 人見知りのルリとクリスも尻尾ぷりぷり。元気がハジェル君のポケットを探している。好きねポケット。
『ねえね、ねえね』
「ん? なんねヒスイちゃん」
「がるうぅ」
 コハクもゴロゴロしながら来たので、もふもふ。
「ユイさん、先行通過の許可が出ました」
 ホークさんが走って戻って来た。
 ふう、良かった。長い時間待つのは、ちょっとね。申し訳ないけど冒険者ギルドランクを使わせてもらった。ラスチャーニエや蒼の麓には、Sランク冒険者が複数いるから、大丈夫だと思っていたけど。
「皆さん、行きましょう」
 私は声をかけて、並んでいる人にぺこりと頭を下げる。ただ、金の虎と山風の皆さんは大丈夫かなって、顔だけど、ちゃんとホークさんが聞いてきてくれた。
 この4パーティーで大討伐に参加しているのは、ギルドが承認している。この場合の待遇は、ランクの高いパーティーに準ずるそうだ。
 私達の方がおまけだよ。
 ぞろぞろと、城門に移動し、警備の人にギルドカードを提示。まずは、到着報告をしないとね。
 ギルドまで、警備の人が着いてくれた。念のために、トラブルを避ける為に、ね。
 そこそこの大人数だし、ビアンカやルージュ達がいるからね、ちらほら見られたけど仕方ない。
 ギルドに到着報告すると、窓口が1つ開く。そこまで警備の人が着いてくれた。
「わざわざありがとうございます」
「職務ですので」
 警備の人はぺこりして帰って行った。
 それぞれのパーティーリーダーが到着報告を済ませる。私達も済ませるが、それから呼び出されてしまった。私と晃太、ホークさんとルージュとヒスイも行く。いつもの応接室に通されソファーで待つ。ホークさんは私達の後ろに立ち、ルージュとヒスイはごろり。直ぐにラソノさんがやって来た。
「皆さん、よくご無事で」
 ラソノさんがほっとした顔だ。
 理由はあのゲリラ豪雨。派手に土石流まで起こしていて、あの付近を回っていた皆さんの安否を心配していたみたい。カルーラから、特殊な望遠鏡で土石流の確認をしていて、まだ戻って来てないパーティーもあるらしい。無事だといいけど。
「まさか、ミズサワ様も合流されていたとは」
「まあ、たまたまです」
 おほほ、とな。
 私達だけ呼ばれたのかと思ったけど、大討伐に関しては情報収集の為に、色々聞かれるそうだ。あんまり、時間がかかるのは、ちょっと勘弁だなあ。
「あの、仔達だけでもパーティーハウスに戻してもいいですか? そのうち飽きて、騒いだら大変なので。シルフィ達はまだ小さいし」
「はい、構いませんよ」
 晃太とホークさんが残ってくれると。
 私はケルンさん達に挨拶して、ルージュとヒスイを連れて一旦退室する。
 あーあーあー、外で待っていたはずのアレスがビアンカにすりすりして、当のビアンカは、あーみたいな顔だ。アリスはイシス達と外で馬車の側にいる。馬車にはシルフィ達が寝ているしね。ノワールの手綱はミゲル君が持ち、エマちゃんとテオ君もいる。元気は変わらず尻尾ぷりぷりして人気者だ。
 ロビーで待っていた皆さんにも挨拶して、ギルドを失礼する。
「こらこらアルス、あんたはこっちだよっ」
「なんで?」
 普通に私に付いてくるアルスさんを、リィマさんが制止する。こてん、とするアルスさん。
「ファングがまだだろ?」
「ん?」
「ん? じゃないよ」
「ユイちゃん、一緒じゃないの?」
「もともと一緒じゃないだろっ」
「アルス、テイマーさんに迷惑だぞ」
「ファングが帰って来るまで待ちましょうね」
 一斉に言われて、しぶしぶ、と言った感じのアルスさん。
「ユイちゃん、また、会える?」
「会えますよー」
 だって、ヤマタノオロチの件があるからね。各パーティーリーダーさん達と既に話し合っている。一旦今日解散後、今後の行動計画をパーティーハウスで話し合うことになっている。
 三日後だ。
 それまでにオシリスの鞍を作ってくれる工房を探して、出来上がるまでの予定日が分かるとありがたいんだけどなあ。
「ユイさん、また」
「あ、はい」
 そっと私の手を取ろうとするシュタインさん。あわわわ。さ、と後ろに引いてくれたのは、チュアンさんだ。
「あ、シュタインさん、また、後日、はい」
 チュアンさんの背中がありがたい。
 もう一度挨拶して、私はギルドを後にして、両親と花の待つパーティーハウスに戻った。
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