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同郷?②

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 私は心の中でため息をつく。
 結局、華憐の尻拭いかあ。やる気がしなしなと萎びていく。
「元を辿れば、あの女に聖女の称号を奪われてしまった事が始まりじゃ。それについて、お嬢さんに迷惑をかけてしまい申し訳なく思っている」
 うん、始祖神様の前だけど、迷惑だなって、思うけど、口に出さない。だって。
「始祖神様、私達は始祖神様達に感謝しています。この恵まれた生活を送れるのはすべて『ルーム』のおかげなんです。ビアンカやルージュ達と巡り会えたのも、2人の声に導いてくれたおかげなんです」
 そう。
 迷惑って、思ってるけど、それ以上の恩恵がある。しかも適宜ブーストくれて、ちゅどん、ドカン、バキバキして、懐暖かいもん。
「そういってもらえると、儂らもありがたい。今回の件で、厄災の影響による地脈の乱れは終わるじゃろう」
 始祖神様の口振りから、地脈の影響はって、ことはまだ他は影響してるってことか。厄災の薬草園のあるディレナスはそうだろうけど、隣のマーランは灰害が酷いらしい。ユリアレーナからも支援物資がいってるらしいけど。
「で、まずはお嬢さん」
「はい」
 いかん、始祖神様のお話に集中せんと。
「儂らも出来るだけのサポートはするが、主にブーストになる。ヤマタノオロチ攻略法はお嬢さんの方が詳しいはず」
「えっ?」
 そうなの? えっと確か、スサノオノミコトはどうやって倒したっけ? 確か確か、お酒飲ませたんやなかったっけ? 後で両親と晃太に確認や。
「その手段を確実にするため、まずはヤマタノオロチを目視しなさい」
 なかなかなことをっ。無理やっ、下からはあの王冠山は入れないなら、イシスみたいに飛んでいく必要がある。無理や、無理や、無理や。
「手段は、お嬢さんが持っておる」
「わ、私が?」
「ふふふ」
 微笑ましく笑う始祖神様。
「それから、お嬢さん、こちらに」
「あ、はい」
 私は始祖神様にダイニングキッチンのすみに連行される。あたたた、筋肉痛が。
 な、なんやろ?
「あそこにおる冒険者達じゃが」
「はい。いろいろありまして」
 こしょこしょ、と内緒話のように話す。
「事情は分かっておる。お嬢さんらしいのう。で、だ、あの冒険者達はこの騒動、最後まで共におる方がよいぞ」
「それは、私にとって、彼らにとって?」
「もちろんお嬢さんの為じゃ。必ず必要となろう。儂からも声をかけようかの」
 い、いいのかな? こんな騒動に巻き込んで?
「受けるはずじゃ、彼らにも、何より変えがたいものがあるからの」
 そうなの?
「あの、始祖神様、もし、いろいろやって私達では倒せない時は………………」
「件の皇帝竜(カイザードラゴン)に神託を下す事になろう。そうなれば、王冠山、周辺の魔の森、魔境は壊滅。そこから逃げた魔物により被害は、魔の森付近の町は大打撃。全滅も有り得よう」
 どうかせんと。
「本来、こちらの者が起こした地脈の乱れによるものなら、儂らは介入はできん。ヤマタノオロチの進行を防ぐことも、神託を下すこともできん。ただ見守るだけ。だがなあ、それも辛いのじゃ」
 前に聞いた。きっと人々は始祖神様に助けを求める。
 神様、助けてください。
 って、でも、それが出来ない。それが辛いんやね。
「なら、今回は華憐達がやらかしたおかげで、神様も介入できると?」
「そうじゃな。だが、お嬢さん達に負担をかけるのが、申し訳ないがな」
「いいえ、私は結局後ろでみて、役立たずのままですよ。それに私だって、失いたくないものが、たくさんあります」
 浮かぶのは、いろんな人の笑顔だ。
「ふふふ、やはり、この『ルーム』や『神への祈り』を授けて良かったのう」
「感謝しています、始祖神様」
 お話、終わり。
 始祖神様は膝を着いている、冒険者、ロッシュさんやファングさん達の元に。
 ん? あら? 見間違いかな? フェリクスさんとエドワルドさんの肩が小刻みに震えてない?
「ここに居合わせた冒険者達よ」
 静かに話す始祖神様。
「お前達にも話は聞こえていたはず。未曾有の危機に瀕しておる。このまま知らぬ存ぜぬを通すなら、ここでの記憶を消さねばなるまい。それぞれのパーティーリーダーよ」
 びくり、と肩を震わすリーダーさん達。
「このまま、引くか? それとも、ユイ・ミズサワ達の力となるか?」
 間髪いれず答えたのは、ケルンさんだ。
「我ら『ラスチャーニエ』。此度の件、最後までユイ・ミズサワ殿と共に」
 膝を突く姿勢が一段と低くなる。他のメンバーも倣うように低くなる。次に答えたのは、額に汗を浮かべたフェリクスさん。
「我ら『蒼の麓』。同じく、ユイ・ミズサワ殿と共に」
 始祖神様がロッシュさんとファングさんに向く。2人は迷いと戸惑いの表情だ。後ろでメンバー達が心配そうだ。
 それでも、僅かな時間で決断する。
「我ら『金の虎』、テイマー、ユイ・ミズサワ殿と共に」
「我ら『山風』、ユイ・ミズサワ殿と共に」
 いいのかな? 何て思っていると、今度は時空神様にダイニングキッチンのすみに連行される。ホークさんと。なんやろ? 相変わらずイッケメン。そっと、手を握られる、イッケメーン。
「必ず必要になる」
 ふわり、と温かくなる。

 てってれってー
【時空神のブースト(短期)獲得しました】

 神様のブースト、来たーっ。
 えっ? えっ? いいの? 神様のブーストだけど。
「俺のブーストは、戦闘には向かん。だが、必ずこの先、お前達を守るものだ」
「あ、ありがとうございます」
 なんやろ? 不吉な予感。
 雨の女神様もいつの間にか側に。
「気を付けてね。いずれ私のブーストも必要となるでしょう。それまで、出来るだけの研鑽をなさい」
「はい、雨の女神様」
 受け取り方次第だけど、さらに不吉な予感。
 神様達がおかえりだ。
 あ、いかん、お土産。
「お嬢さん」
 焦っていると、始祖神様がもう一度私の所に。
「ヤマタノオロチを目視して、ある程度の対処法が見つかれば儂らを呼ぶんじゃぞ。ブーストを授けよう」
「はい」
 ブーストかあ。ビアンカとルージュとノワールにあるけど、多分きっとイシスやアレスよね。授けるの。
 うーん、いやな予感、ひしひし。
「お嬢さん」
「はい」
「お嬢さんが動いたことで、救われる命もあろう。今を生きるもの、そして、これから生まれ来るもの」
 始祖神様の言葉が一瞬分からない。
「生まれ来る者じゃ、お嬢さんが楽しみにしている」
 私の頭の中で、はっきりと姿が浮かぶ。
 レディ・ロストークが。
「ブヒヒヒヒヒヒーンッ」
 厩舎で大人しくしていたノワールが、嘶き始める。
『ノワールッ、静かにするのですっ』
『落ち着きなさいっ、神様がいらしているのよっ』
 ビアンカとルージュが嗜めるが、ノワールの嘶きは止まらない。分かっているんや、ノワール。このままヤマタノオロチが出てきたら、カルーラは壊滅する。そうなれば、レディ・ロストークだって無事に済むわけない。もちろんレディ・ロストークだけやないけど。
 もし、私達で無理なら、その皇帝竜(カイザードラゴン)が出てくる。話を聞いたら、絶対に穏やかに済むはずない。
 なんとか、なんとかせんと、ノワールの子馬を守らんと。
「お嬢さん、儂らもサポートする。必ず呼ぶんじゃよ」
「はい、始祖神様」
 神様達が、すうっと消える。
 
 てってれってー
【始祖神 時空神 雨の女神 降臨確認 ボーナスポイント40000追加されます】

 ポイントポイント。お土産渡せなかった。明日の朝のお供え、豪華にしよ。
 さあ、皆さんとお話せんとね。
「おいっ、フェリクスッ、大丈夫かっ」
「エドワルドッ、どうしたっ」
 悲鳴が上がっていた。
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