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神からの依頼①

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 次の日。
「おはようございます」
「お、おはようございます…………」
 いつもと変わらないホークさん。
 あら、私はドキドキしているのに、変わらないよ、ホークさん。もしかして、昨日のあれは………………は、私の見た幻? 行き遅れのひがみが見せた夢か?
 うーん、可能性が高か。
「ユイさん、どうしました?」
 ホークさんがうんうん唸る私の顔を覗き込むから、過剰に反応してしまう。
「いえっ、なんでもなかですっ」
 やっぱり、昨日のは幻やったんやっ。私は逃げるように、朝ごはんを作る母の手伝いに入る。うん、そうだよね、やっぱり幻、幻、なんか寂しいけど、これで良かったんや。
 私は大量の目玉焼きを焼くためにフライパンを準備。卵出して、と。10台のトースターフル回転だ。チンチン言ってる。鷹の目の皆さんが、せっせとバターやジャムを塗り、ビアンカやルージュ達に搬送している。
 なんだろ。いつもの光景だけど、虚しくなってきたのは何故やろ?
「優衣、どうしたん?」
「え?」
 スープとウインナーの準備をしていた母が驚いて聞いてくる。
「涙出ようよ」
「えっ? あ、あ、睫が入って痛かだけよ」
 咄嗟に誤魔化し、ごしごし。
 私は目玉焼きを大量作成し、トーストの上にのせて行く。ふう、大変。人数増えたから仕方ないね。卵の殻が凄かことに。
 神様にもお祈り済ませる。今日、出発だからね、安全祈願だ。麦美ちゃんのイギリスパン、塩ロールパン、スープ。リンゴとキウイ、オレンジジュース、リンゴジュースを並べる。
 お見守りください。
 よし、なくなってる。
 なんとか平常心なつもりで朝ごはんを済ませる。
 それから出発準備。装備品を確認する。ワイバーンのポンチョもベストも大丈夫だし、レッサードラゴンのブーツもよし。下着には母が保温の一時付与してくれている。
「ユイさん」
 ドキイッ、いかん、過剰反応や。
 振り返ると心配そうなホークさん。
「な、何でしょう?」
「ちょっと、こちらに」
「あ、はいはい」
 な、なんやろ? いかん、ドキドキしてきた。過剰反応や、これは自意識過剰や。中庭に連れられる。
「あの、ホークさん?」
「どうされました? 朝から様子がおかしいですよ」
 昨日の行き遅れが見た幻のせいですよ、なんて言えない。ホークさんが心配そうや。やっぱり、幻やったんやなあ。こんなに通常運転なんやから。
「あ、ちょっと、昨日、変な夢をですね……………」
 わたわた、と答える。私は下を向く。なんや、なんや、つらい。
「夢?」
 ホークさんが不思議そう。
 下を向いた私の耳元で、小さな声で言う。
「夢じゃないですよ」
 ぶわわわわっ、と顔に血がのぼる。
「………………っ、だって、ホークさんっ」
「なんです?」
「だって、ホークさん、いつもと変わらんし、私だけ、おかしかし……………」
 私だけ、おかしい、変や、こんなに自意識過剰みたいに動揺して、恥ずかしい。
「そりゃ、リーダーの仮面被ってますから」
 プロや。ううっ、私、情けない。
「本当は毎日言いたいんですが。それは許されません。俺は貴女の奴隷ですから」
 本来は昨日の事も、言ってはいけないそうだ。私が特別ボーナスなんて言ったからかな。
 な、なら、昨日のあれは、幻やないって事やな。うん、ちょっと、嬉しくなってきた。うわあっ、嬉しくなってきた。胸の奥底からポカポカしてきた。
 貴女に相応しくなります。
 あ、嬉しい。
 にまっ、としそうになるが、我慢我慢。
 ホークさんがリーダーの仮面を被るなら、私は主人の仮面を被ろうかね。にまっ、いかん、いかん。
「なら、私もいつもの感じになります。ホークさん、頼りにしてます」
 委ねます、は使っちゃいけない言葉やしね。
「お任せください」
 よし、気持ちを切り替えて、と。
 中庭の入り口で、ビアンカとルージュがまっていた。
「どうしたん?」
『様子を見ていたのです』
『ユイが嫌がるなら、噛もうと思って』
「やめて、大惨事や。そう言えばさ、昨日」
 私とホークさんの話聞いていたと思う。何も言わないけど。
『聞こえていたのですが、私達が口だす問題ではないのです』
『ユイ、ホークを受け入れていたでしょう?』
「う、そうやけどさ」
 ビアンカとルージュによると、私に無闇に接近する輩はチェックしている。下心や悪意なんかね。そういった輩は撃退し、それ以外は私に誰々が来ると忠告していると。なるほど流石。
『もし、ユイを悲しませるような事をするなら容赦しなかったのです。それにホークは私達をどうにか、なんて考えてないようなのです』
『そうね、ユイだけを想っている感じね。だから、見守ることにしたの』
「そ、そうなん? ありがとうビアンカ、ルージュ。あのさ、あのさ、ビアンカ、ルージュ。もしよ、私にその伴侶的な人が出来たらどうなるん?」
 それが心配。もし、伴侶出来ました、ビアンカとルージュがじゃあ、魔境に帰ります。何て言われたら半端ない喪失感が。
『変わらないのですよ』
『そうね。私達を邪険にする目的のヤツは黙らせるわ』
 どうやって?
『ホークはそうしないのですね』
『ノワールも一番懐いているし』
『ユイ、心配しなくても大丈夫なのです』
『そうよユイ、私達はユイの家族。側にいるわ』
「ありがとうビアンカ、ルージュ」
 私は嬉しくなって、2人の首に腕を回す。私は従魔に恵まれたなあ。毛並みに埋まりながら、何度目かの実感。
 ちょっと堪能してからいざ出発。
 城門まで両親と花が見送りに来てくれた。シルフィ達は馬車の中だ。
「気を付けるんよ」
「分かった。もしかしたら2ヶ月越すかもしれんよ」
 神様から指定を受けた山まで、その付近に行くまで徒歩なら3週間以上はかかる。途中でノワールに乗るけどね。予定では山の付近をノワールに騎乗し、ビアンカ、ルージュ、イシス、オシリス、アレスにがっちり守ってもらって駆け抜ける予定だ。
「テイマー様、お気を付けて」
 門の警備さんがわざわざお見送りに来てくれた。
「はい、ありがとうございます」
 私は馭者台に座る。隣はホークさん。
 ノワールの引いた馬車は、ゆっくり走り出す。
 さあ、いよいよ、神様からの依頼開始や。
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