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魔境④

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『ククク、元気ソウダナ』
「わんっ」
 私の後ろの元気が吠える。あんたやないったい。振り返ると、尻尾ぷりぷりしている。私はそれから周囲をチェック。治療はほとんど済んでいるようや。
『久し振りなのです』
『貴女も変わりないようね』
 ビアンカとルージュが、落ち着きを取り戻して、話し出す。
 エンペラーグリフォンは、ゆったりとお座りの姿勢。うーん、悠然と構えた感じや。
 あ、私も挨拶せんといかんね。私は小声で聞く。
「ビアンカ、ルージュ、私も挨拶ば」
 聞いていると、森からバーンッ、と飛び出してきたのは、これまた白い大型犬。超大型犬。え、ビアンカよりデカイけどッ。まさか、あれがッ。
『『ゲッ』』
 ビアンカとルージュが一気に渋い顔。
 超大型犬は、右目は緑、左目は青とビアンカと元気と一緒だ。たぶんきっと噂のお兄さんっ。
「わおんわおんわおんわおんっ、わおーんっ」
 ビアンカとルージュを見て正に狂喜乱舞。
 2人の前で、バタバタと忙(せわ)しなく動き、交互に顔を覗き込み、ジャンプジャンプ。ビアンカとルージュの前で尻尾を絶え間なくバタバタ。当人達は、明後日の方を向いて、あー、とか、そー、とか繰り返す。超大型犬は、お母さんウルフの前でもバタバタ。お母さんウルフはしかめっ面だ。多分、色々汚れているかな? 赤ちゃん達が気になるようだけど、お母さんウルフのパンチが飛ぶ。きょとんとしているが、すぐに、笑顔でへっへっ言ってる。なんや、元気に似とるけど。めっちゃ落ち着きがないけど。お母さんウルフからパンチをもらい、ふと、私を見る。
「グルルルッ、きゃいんっ」
 唸ったと思った瞬間、ビアンカとルージュのパンチが炸裂。え、ちょっとちょっと、お二人さんっ。冷蔵庫ダンジョンの牛の首も一撃するパンチだよねっ。ビアンカとルージュの背中の毛、総立ちしてる。がちに怒っている。
『ユイに牙剥くのは許さないのですよッ』
『いくら兄でも許さないわよッ』
「きゅ、きゅーん……………」
 私の側で、牙を剥き出し。情けない声を上げる超大型犬。いや、本当に、大きな元気を見ている気分なんやけど。
『相変ワラズ、騒々シイ』
 やれやれため息をつく、エンペラーグリフォン。
『オ前達モ、コレニ分カルヨウニ説明シテヤレ』
 と、促される。
『そうなのですね。まずは、エリアボスである貴女に挨拶なのです』
『そこから、動くんじゃないわよ』
「きゅ、きゅーん」
 ルージュのドスの効いた声で、沈む超大型犬。
『まずは、先代エリアボスの娘、帰ってきたのです』
『同じく』
 ビアンカとルージュが伏せる。わあ、初めて見た。私達以外に伏せするの。
『それからこちらがユイなのです』
『私達を助けてくれたの』
「水澤優衣です」
 私はぺこり。エンペラーグリフォンは、ふーん、みたいな視線だ。
 伴侶の死、それからこちらのお兄さんを頼っての移動。出産、熊に襲われ、私が救助したこと。キズを治した事、従魔契約したことを説明。
 時間かかるので、その間晃太は蜘蛛の死体を回収。ホークさんは私の側に控え、ノワールの手綱はエマちゃんとテオ君が確保。チュアンさんとマデリーンさん、ミゲル君はウルフ達の水分補給に回ってくれている。
『ユイ達がいなければ、今の私達はいないのです』
『ヒスイも助けてくれたわ。元気だって、決して諦めずに色々手を尽くしてくれたわ』
『ソウカ。ソコニイルノガ仔カ?』
『そうなのです。元気、ルリ、クリス』
『コハク、ヒスイ。いらっしゃい』
「わんっ」
 と、真っ先に飛び出したのは元気だ。ルリとクリスはビアンカにぴったり。コハクは元気の後ろで様子を伺い、ヒスイはルージュに張り付く。
「わんわんっ」
『元気、大人しくするのですっ』
『オ前ノ仔ハ、アレニソックリダナ』
『言わないで欲しいのです。自覚はしてるのですから』
『フフフ』
 エンペラーグリフォンは、尻尾ぷりぷり元気に微笑ましい視線だ。
『ソレデ、ドウシタ? 帰ッテ来タ理由ハ?』
 来た来た。お願いせんと。
『原始のダンジョンを覚えているのですか? 母様が話していた』
『アア』
『実は』
 原始のダンジョンに、ビアンカとお兄さんを産み、ルージュを種族関係なく育てたお母さんがいる。そのお母さんに、元気達を会わせたい。何より、ビアンカとルージュも会いたがっている。だけど、神様から色々条件を提示されている。その一つ戦力強化のお願いだ。
『カミトセッケンシタノカッ』
 しましたよ、結構な回数。
 普通は有り得ないことやけど、私にはルームがあるからね。ルームの説明もする。簡単にだけど、見た方が早いかも。
 私がルームを開けると、初めて私に興味示した。
『コレガソウカ』
 ふーん、みたいだ。
 いつものサイズの為に、エンペラーグリフォンの幅ではないので入りはしないが、入り口から覗き込んでいる。色々設備の説明をする。サブ・ドアの説明には、ふーん、ふーん、ふーん、と連発。
 ほら、もしね、同行してもらっても、気軽に帰れますよアピール。エリアボスなんてしてたら、あまり離れられないだろうし。どっかにサブ・ドアの登録させてもらないかな。
『ね、便利でしょ』
『いつもきれいな寝床で寝れるのです』
『ホウホウ』
 うーん、エンペラーグリフォンのお尻、ふかふかみたいや。
『ご飯も美味しいのよ』
『ユイのお母さんのご飯美味しいのです』
『ホウホウ』
 首もとはふわふわかな。ああ、埋まりたい。
『エビがオススメよ』
『果実の乗ったケーキもなのです』
『ホウホウ』
『『ユイ~』』
「はいはい」
 分かってますがな。
 とりあえず納得してくれたのか、突っ込んでいた頭を下げる。
『フム、興味深イ』
『『でしょでしょ』』
 どうかな、好感触な感じやけど。エンペラーグリフォンのお尻を追う。
『今すぐ返事が欲しいわけではないのですが』
『考えてもらえないかしら? ルームがあれば、こちらに帰って来れるし』
『ソウダナ……………』
 考える仕草のエンペラーグリフォン。やっぱりいきなりは難しいかね。

 ビーッビーッビーッビーッビーッ

「ひっ」
 突然頭の中で、けたたましい警報音が鳴り響く。私は頭を抱える。
「ユイさん、どうしましたっ」
『ユイッ、どうしたのですっ』
『ユイッ』

【魔物侵入を確認しました】
【厄災レベルの魔物侵入を確認しました】
【特別オプション追加されます】
【特別ボーナスポイント300000追加されます】

「魔物、侵入って……………」
 振り返ると、半開きのルームのドアと、いやしない超大型犬と元気。嘘やろ。
 慌ててルームを確認。ギャーッ、フローリングが派手に汚れてるーッ。超大型犬がゴロゴロしてる、ちょっと勘弁ーッ。汚れた毛並みでやめてーッ。元気も一緒にゴロゴロしてる。く、かわいかっ。
 しかし、似てるよ、この2人ッ。
『何をしているのですかっ』
『動くなって言ったわよねっ』
「「わふーん」」
 そっくりやん、この2人。
 ひっくり返ったままで、呑気に返事している。ちょっと本当にデカイ元気やん。この超大型犬のお兄さん。
 ビアンカとルージュがきいきい言いながら、ルームから出してくれる。床は申し訳ないが、チュアンさんとマデリーンさんが掃除してくれる。
『マッタク、落チ着キガナイ』
 ふう、と息をつくエンペラーグリフォンの『彼女さん』。
『話ハ分カッタ。少シ、考エサセテクレ』
 と、お返事あり。
『エリアボスデアル、私ハソウ簡単ニハ、離レラレナイ』
 そりゃそうだね。
『トニカク、歓迎シヨウ。先代ノ娘達ヨ。ソシテ、ソノ主ヨ』
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