もふもふ大好き家族が聖女召喚に巻き込まれる~時空神様からの気まぐれギフト・スキル『ルーム』で家族と愛犬守ります~

鐘ケ江 しのぶ

文字の大きさ
上 下
382 / 850
連載

カルーラへ⑤

しおりを挟む
 戦闘しています、ご注意ください



 私は次々倒れている騎士や魔法馬達にポーションをかけ、飲ませて回る。
 チュアンさん達に守られた晃太は、移動しながら、あちこちでバフやデバフを連発している。
 オルクが迫って来たら、赤毛の騎士と若い騎士が斬り倒し、矢は光のリンゴが迎撃。ホークさんも合流して、弓と剣を持ちかえながら、戦闘している。エマちゃんとテオ君も、2人で連携して倒している。
『鬱陶しいのですッ』
 ちゅどーんッ
 ビアンカが雷を放ち、オルクやハイエナを一掃しても、後方の森からぞろぞろと新手が出てくる。
『いい加減にしなさいッ』
 ドカーンッ
 ルージュの閃光が、貫通していく。
 我ながら、恐ろしい魔物を従魔にしたなあ。でも、とんでもなく頼もしかあ。
 だけど、どうしてこんなにオルクやハイエナがおるんやろ? たしか、ノータでは数はもっと少なくて、魔の森の奥に巣を作っていた。それにオルクは賢いって聞いた。ノータでは農家の夫婦を襲い逃げていた。私に向かって来たのは、ナラちゃんを獲ようとしただけ。明らかに強そうな騎士団にこんなにしつこく迫るのは、おかしい気がする。だって、首都の騎士団と引けを取らないって聞いたし。
 まあ、疑問は後にして。
 ビアンカとルージュが次々に容赦なく魔法を放っている。
 そんな中、爆走しているノワール。
「わふわふっ」
 元気がこんな状況なのに、尻尾ぷりぷりしながら、私の元に。怪我はなさそうや。
 ぷりぷりと尻尾降りながら、お尻を向ける。
「ワンッ」
 バリィッ
 雷が見事にこちらに向かってきたオルク+ハイエナに直撃。その隙に、エマちゃんとテオ君はサブウエポンの剣を、赤毛の騎士と若い騎士に渡している。どうやら、刃がダメになっているようだ。
「さあ、ポーションですよ」
 私は上級ポーションを大柄の騎士のキズにかける。深そうな傷がみるみるうちに塞がっていく。それでその騎士は何とかなる。水分補給を促すと、一気飲みしている。
 咳き込む騎士の背中を、私は必死にさすった。

 どれくらいしたか、やっとオルク達が引き始めた。
「逃すなーッ」
 一際大きな魔法馬に跨がっていた男性が声を張り上げる。
 ホークさんが弓に持ちかえて、矢を放つ。他の騎士達も矢を放つ。次々に倒れ付していくオルクとハイエナ達。
「ビアンカッ、ルージュッ」
『任せるのですッ』
『逃さないわよッ』
 ビアンカが飛び出していき、ルージュは閃光を放つ。
『森の中で、私に勝てると思うのですかッ』
 一気に加速して、森に駆け込んで行くビアンカ。そして響く破裂音。
 ビアンカに任せておけば、大丈夫やね。
 私は治療に走った。
 アイテムボックス内のポーションは上級ポーションがなくなり、中級が後数本や。すでにスポーツ飲料水はなく、水か紅茶、麦茶を配る。騎士の皆さんへとへとや。一気飲みしている。
「エマちゃん、上級のちょうだいっ」
「はいっ」
 広大に展開していたため、離れた所でチュアンさんを中心に治療に回っている。
「テオ君、悪いけど晃太からポーション類もらって来て」
「はいっ」
 駆けていくテオ君。
 私は座り込んでいる中年騎士の傷をチェック。肩、左肩甲骨あたりに矢が刺さっている。いきなり抜けない。他は切り傷が多数。オルクの矢は質が悪いそうだ。そう、毒。騎士の顔色は悪く、息づかいが荒い。痛みに必死に耐えているんや。
「ルージュ、来てん」
 呼ぶと、すぐに来てくれた。
『どうしたのユイ?』
「矢を抜くから、このあたりば麻痺させて」
『痛みを分からなくするのね、分かったわ』
「エマちゃん、矢を抜くから、横から解毒ポーションをかけてね」
「はいっ」
 ルージュが鼻先から黒い霞を出し、騎士の肩を覆う。すると、顔色が悪いながらも、不思議そうな顔になる。
「痛みはどうですか?」
「ああ、痛みが引いたが、なんだ、痺れたような感じだ」
「一時的なものですから。今から矢を抜きます。痛みが出たら、仰ってください」
「分かった」
 私は慎重に矢を抜く。5センチほど刺さっていた。抜いてる最中、エマちゃんが傷口に解毒ポーションをかける。薄い白い煙が上がるから、やっぱり毒が塗ってあったんだ。半分ほど残った解毒ポーションはそのまま飲んでもらい、次に上級ポーションを飲んでもらうと綺麗に傷が塞がる。顔色もよくなった。ほっ。
 後は水分補給ね。冷えた紅茶を木製カップに入れて、中年の騎士に渡す。
「どうぞ、お茶です」
「すまない」
 一気飲みして、勢いよく息を吐き出す。あれや、冷えたビールを飲んだ感じのやつ。
「生き返った、本当に感謝する」
 血と泥と、汗で汚れた顔で笑う。良かった、大丈夫みたいや。ほっとしていると、その中年騎士が、あ、と言った表情で私の後ろをみる。
『ユイ、敵意なし。この群れの中で一番強い雄よ』
 振り返ると、最後に「逃すな」と叫んだ人だ。私に向かってきている。ルージュがするり、と前に立ち、ホークさんも前に立つ。その騎士はノワールよりは小さいが、他に比べて大型の魔法馬から降りる。兜を脱ぐと、30過ぎくらいの金髪のいかつめな顔の男性。
「パーヴェル様」
 ホークさんが小さく呟く。知り合い? あ、まさか?
「例の隊長さん」
 小声でエマちゃんが教えてくれる。あ、やっぱり。わー、会わない方がいいかな、なんて思っていた人に、カルーラの街に入る前に遭遇しちゃったよ。でも、敵意ないなら、まあ、いいかなあ。
「久しぶりだな、ホーク」
「はい、パーヴェル様」
 ホークさんが一礼。
「色々聞きたいが、まず、そちらのテイマー殿に、感謝の言葉を述べたいのだが」
 ちらり、と私をみるホークさん。
『嘘ではないわ』
 ルージュのお墨付きあり。私はホークさんに頷いて、立ち上がる。
「ご助力感謝しますテイマー殿」
 そういって私の前に。怖そうな感じだけど、ルージュが大丈夫って言うなら大丈夫や。
「貴女の従魔に助力に来てもらわなければ、私も部下達も無事ではすまなかったでしょう。そして何よりも治療を惜しむことなく施してくれた。感謝の言葉もありません」
「特別な事をしたわけではないので」
 元手タダのポーションを振りかけただけだしね。この人怖そうな感じあるけど、見た目がそんな感じなだけやね。よくみるとパーヴェルさんもあちこちケガをしている。そのパーヴェルさんは、ふむ、みたいな顔。その後ろでパーヴェルさんが騎乗していた魔法馬が、ホークさんに甘えるように頭を擦り付けている。あれが、噂の気性の荒い魔法馬かな。ずいぶんホークさんに懐いているけど。それはさておき、
「あの、ポーションを」
 パーヴェルさんにも渡そうとしたら、ルリとクリスが走って来た。
『ねぇね~』
『にーにが、よんでるぅ~』
「晃太が?」
 なんやろ? まさか、ケガとかしとらんよね?
 慌てて駆け付けると、そこには倒れた騎士を囲んでいる晃太達。騎士は女性のようや。晃太がおろおろと両手でポーションを持ち迷っている。女性は上半身をマデリーンさんに支えられて座っている。意識はあるようや。チュアンさんが、治療魔法をかけている。
「あ、姉ちゃん」
「どうしたん?」
「ポーションが効かんみたんで」
 ポーションが効かない?
「上級ポーションは飲んだんやけど……………」
 私は女性騎士の側に座る。
「どうされました? 何処が悪いですか?」
 女性騎士は顔色が少し悪いが、ひどく動揺している。
「足が、足が……………動かない………………」
「足?」
 目立った外傷はないが。ベルトのバックルが割れて、ズボンの一部が破れている。そして視界に入る倒れて動かない魔法馬。動かない足。まさか。
「馬の下敷きになりませんでした?」
「はいっ………………」
 上半身を揺らして、息を吐き出すように言う女性騎士。
 やっぱりッ。脊髄を損傷したんやっ。おそらく上級ポーションでは負えない損傷なんやろう。馬の下敷きになったなら、骨折だってしているはずだが、足の向きは変わらないから、骨折はポーションでどうにかなったはずだが、脊髄まではどうしようもないんや。
「触りますよ」
 念のために私は慎重に足に触れるが、まったく力がはいっていない。
 不味い。不味い状況だが、上級ポーションで無理なら、あれがある。
 答えてくれるか分からないが、私は祈りを捧げる。
 神様、下級エリクサーでどうにかなりますか?

 ………………………出きるよ

 この声は闘神様。
 なら、私の神への祈りも発動を。

 ……………ごめんなさい、私の力は闘いのもの、癒しは与えられない、ごめんなさい

 繰り返す、闘神様。しゅんとした声。
 大丈夫ですよ、別の手段はあります。
 だけど、下級とは言えエリクサー。かなりの高額や。黙って投与していいものか。やはり説明と同意が必要やな。おそらく脊髄以外のケガは、上級ポーションでどうにかなっているはず。断って慎重に腹部に軽く触れるも痛みや吐き気はないし、靴を脱がせて足背を触ると、ちゃんと脈が触れる。皮膚色も悪くない。
 まずは診断やな、それから手段の確認や。手段はエリクサー以外にも、思い付いている。
「晃太、お父さん呼んで、まずは診てもらうよ。チュアンさん、一旦止めてください」
「あ、あ、分かった」
「はい」
「俺が行きます。ノワール」
 ホークさんが軽く指笛鳴らすと、まだ走っていたノワールがやって来た。そのままポツンとしている馬車まで向かい、ノワールに繋いでいる。
 そうやった、ルーム内におったんやった。
「ルージュ、来てん」
『どうしたの?』
「ちょっとよか?」
 私はルージュのバンダナから魔力回復の指輪を外し、チュアンさんに渡す。
「念のため、魔力を回復しておいてください」
「? はい、ユイさん」
 チュアンさんが指輪をつけて、魔力回復ポーションを飲む。
「私の、私の足、どうして動かないんです?……………」
 女性騎士は不安そうに聞いてきた。いかん、説明できること、せんと。
「おそらく馬に挟まれた時に、脊髄を損傷したんだと思います」
「せきずい?」
「体を支える重要な骨ですよ。タダの骨折ならポーションでも治療可能なんでしょうが、これはそう簡単にはいきません」
 向こうの医学でも、損傷具合では、完治なんてしない。一生車椅子生活だ。だが、私の説明で、女性騎士の顔に絶望が浮かぶ。
「治療法はいくつかあります。その手段もあります。どれが最もいいか、まずは父に診てもらいましょう。治療の判断はお任せになりますが、こちらが提示する以上、貴女が望むなら提供します」
 私は息を付く。
「ですから、今はあまり動かないように」
「………………はい」
 女性騎士は少し落ち着いて、支えているマデリーンさんに上半身を預ける。
「姉ちゃん、来たよ」
 ノワールの牽いた馬車が来る。
 その間、私と一緒に回っていた若い騎士以外は後処理に入ったり、近くを警戒している。ビアンカも無事に戻って来た。軽く全滅させたのですって、我ながら恐ろしい魔物を従魔にしたなあ。仔達は元気以外は私の近くにいる。元気はホークさんに付いて回っている。
「直ぐ戻りますから」
 私は馬車に乗り込む。しっかりドアを閉め、ルームを開ける。
「お父さん、お母さん」
 呼ぶと、真っ先に出てきたのは、ぽちゃぽちゃボディの花。よしよし。
 直ぐに両親が来た。
「お父さん、鑑定して欲しか人がおるんよ。お母さんはこのまま馬車内におってね、ルーム閉めるけん」
「分かった」
「優衣、大丈夫ね?」
 父は頷き、母は花を抱えて心配の表情を浮かべる。
「私にケガはないけん、大丈夫よ。お母さんは出らんほうがいいけんね」
「分かった」
 父と一緒に馬車を出た。
しおりを挟む
感想 669

あなたにおすすめの小説

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

王家も我が家を馬鹿にしてますわよね

章槻雅希
ファンタジー
 よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。 『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

押し付けられた仕事は致しません。

章槻雅希
ファンタジー
婚約者に自分の仕事を押し付けて遊びまくる王太子。王太子の婚約破棄茶番によって新たな婚約者となった大公令嬢はそれをきっぱり拒否する。『わたくしの仕事ではありませんので、お断りいたします』と。 書きたいことを書いたら、まとまりのない文章になってしまいました。勿体ない精神で投稿します。 『小説家になろう』『Pixiv』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます

かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~ 【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】 奨励賞受賞 ●聖女編● いきなり召喚された上に、ババァ発言。 挙句、偽聖女だと。 確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。 だったら好きに生きさせてもらいます。 脱社畜! ハッピースローライフ! ご都合主義万歳! ノリで生きて何が悪い! ●勇者編● え?勇者? うん?勇者? そもそも召喚って何か知ってますか? またやらかしたのかバカ王子ー! ●魔界編● いきおくれって分かってるわー! それよりも、クロを探しに魔界へ! 魔界という場所は……とてつもなかった そしてクロはクロだった。 魔界でも見事になしてみせようスローライフ! 邪魔するなら排除します! -------------- 恋愛はスローペース 物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。