もふもふ大好き家族が聖女召喚に巻き込まれる~時空神様からの気まぐれギフト・スキル『ルーム』で家族と愛犬守ります~

鐘ケ江 しのぶ

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カルーラへ③

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 次の日。
 ビアンカとルージュが母にきゅるんきゅるんとしている。
 母が早速特製サラダのダイエットメニューを出す。
『チーズ乗せてなのです』
『お母さん、乗せて』
 きゅるん。
「ダメ」
 だが、母は笑顔でばっさり。サラダはボリュームあるけど、ヘルシー。
『たくさんあるのですがー』
『物足りないわー』
 それでもむしゃむしゃ食べている。
 宿を出てまずは教会併設の孤児院に向かう。
 ディッティはアルブレンとカルーラの中間地点。そこそこ賑わいがある。
 そっと覗くと小さな畑で草むしりをしていた子供達が、ビアンカとルージュを見てわーっと逃げていく。
『久しぶりなのです』
『そうねえ』
 ほっとしているビアンカとルージュ。元気は子供達に興味津々で尻尾ぷりぷりしているが、なんせ100キロ越えなので、リードはしっかりビアンカが咥えている。
「恐がらせちゃったね」
 私は慌てて出てきた高齢の牧師さんと挨拶する。
 あまり長居出来ないので、手短にお話。
 ここはアルブレンとカルーラの中継地であるため、表通りは賑わい、人の出入りが多く、その分置き去りにされている子が毎年いるそうで。現在子供達は総数23人。なんとか経営していると。
 ビアンカとルージュの許可もあるからね。私は大金貨がびっしり詰まった小銭入れを、牧師さんに渡す。
「ありがとうございます、ありがとうございます」
 何度も感謝してくる牧師さん。その後ろでキラキラし始めた子供達。
『ユイ、早く行くのです』
『日が暮れるわ』
 ビアンカとルージュが私をせっつく。
「はいはい。私達はこれで」
 無料教室には帰りに寄付しよう。
 さあ、カルーラに向けて出発だ。
 
 ぶひひん特急ノワールは、特に問題なく進む。すれ違い、追い越す馬車には笑顔でご挨拶する。
「ゆっくり走っても、夕方前にはカルーラに到着すると思います」
「そうですね」
 ホークさんと晃太が地図を広げて話している。私は蚊帳のそと、地図読めんもん。よしよし、ヒスイちゃんや、ここばかいかいね、よしよし、かわいかね。母は花にリードを着けて近くを散歩している。
 隣でコハクをかいかいしているエマちゃんとテオ君に話を聞く。
「ねえ、カルーラって大きな街?」
「うん、そうだよ」
「マーファくらいあるよ」
 カルーラはマーファやスカイランのようにダンジョンを抱えていないが、ユリアレーナの第三都市だ。それは魔境に接している巨大な魔の森があり、北西に今は平和条約が結ばれているがアスラ王国と接している。その為、カルーラの辺境伯が有する騎士団は、首都を守る騎士団と引けを取らない。
「その騎士団の隊長に、リーダー気に入られちゃって、取られるんじゃないかって」
「あん時は心配したもんなあ。宿にまで押し掛けてきたし」
「確か、魔法馬の調教したんだっけ?」
「「うん」」
 その隊長さんの愛馬となった魔法馬。かなり気性の激しい魔法馬で、ホークさんでも半年の期間を要したと。ノワールなんて数日でホークさんに懐いたのに。
 他の魔法馬の調教までこなしたし、その気性の激しい魔法馬は誰も乗りこなせず、色んな調教師が匙を投げたのに、ホークさんだけが諦めずに気長に接して結果を残した。それをその隊長さんは評価したんだね。
 うーん、カルーラに着いて、その隊長さんにホークさん見つかったら不味いかなあ。
 見つかる前に、『彼女さん』に会いに行かないと。
 それから、カルーラはチュアンさんが育った修道院がある。ご挨拶に行かねば。親代わりのシスターさんもいるしね。
「姉ちゃん、行くばい」
「はいはい」
 もうすぐカルーラの為、ルームは開けず、馬車内に両親と花にいてもらう。仔達は並走し、馭者台には私とホークさんが座る。
 そろそろ別の馬車と合流しそうだから、ノワールにはスピード落としてもらう。それでも早く進み、前方に馬車が見えた。
「ノワール、追い越さんよ」
「ブヒヒンッ」
 賢いノワールは、素直にスピードを落とす。ゆっくり馬車の後方に着く。護衛の冒険者の皆さん、びっくり。中からお客さんがこちらをざわざわしながら見てくる。
「こんにちは」
 にこやかにご挨拶。
「あ、ああ、こんにちは…………」
 上擦った声で返事をしてくれた。しょうがないね、ビアンカもルージュも大きいし、ノワールもでかいしね。
 あ、カルーラの街を覆う城壁が見えてきた。
 ふう、やっと着いた。ノワールのおかげで随分早く到着できた。
 まずはギルドに到着報告、晃太は搬送物の提出。パーティーハウス借りられるかな? 出来るだけ長期で。その前に、街に入るのに時間かかるよね。なんて、つらつらと思っていると。
『ユイ』
『向こうで戦闘しているわ』
「はあっ?」
 なんとも物騒なっ。
「誰が何と戦闘しとると?」
『騎馬なのですね、複数』
『相手はライダー系、おそらくオルクね』
 騎馬? 人が乗ってる? ライダーってあれやなかろう、とうっ て、事はないはず。
「おそらくカルーラの騎士団ですよ」
 ホークさんが推察してくれる。怖か、街が近いのに。
『分が悪そうなのです』
『オルクの方が数が多いわよ』
「ビアンカ、ルージュ行ってッ、人命最優先ッ」
 私の声に前を行く馬車の人達が驚く。
『行くのですッ、元気、ルリ、クリスも来るのですッ』
『コハク、ヒスイ、続きなさいッ』
 ビアンカとルージュが一気に体勢を低くして爆走していく。仔達も同じように身を低くして飛び出して、続いていく。あんなに小さかった仔達が、ぽてぽて走っていた仔達が、地面を抉るように駆けている。
 感情に耽る暇はなか、私も行かんと、だが、馬車には還暦越えた両親と花がいる。
「姉ちゃん、どうしたん?」
 馬車から晃太が窓から顔を出す。
「カルーラの騎士団が、オルクと交戦しとるみたいや。分が悪いみたいやから、ビアンカとルージュに行ってもらったんよ」
 さあ、と晃太の顔がひきつる。おそらく両親にも聞こえていたはず。
「お父さん達は馬車内でおとなしくしとくけん。急がんと」
 そう言って父が顔を出す。主人の私がいないことでトラブルになるのを恐れているだろう。
「怪我人がおったらお父さんの鑑定がいるやろ? ビアンカとルージュがおれば敵なしやろ? この馬車は、下手な攻撃は受け付けん」
 そう。王冠スライムのコアを使い、ギリギリまで付与をした。下手な攻撃は弾き返すだけの硬度がある、内側には冷蔵庫ダンジョンから出た丈夫な板も追加して貼った。木製の馬車が、分厚い金属の盾より強度がありますって、隈を作った職人さんがどやって言ってくれた。
「そうやな」
 母と花だけでも前方の馬車に、と思ったが、母1人離されるのは流石に躊躇われる。直ぐに私達が帰って来れない可能性もある。私の母だと保護してくれるかもだけど。初めて来た街だ、私は一瞬悩む。だが、こんな時のルームや。私は素早く晃太と馭者台を入れ代わる。晃太が座りベルトを締めている間に、ホークさんが前の馬車に注意喚起。晃太がノワールにバフをかけて、慌ただしくビアンカ達が向かった方向にスピード上げて走っていく。私は馬車内でルームを開けて、両親と花を誘導。
「いいですっ」
 私は馭者台のホークさんに声をかける。
 ホークさんは手綱を操り、ノワールが発進。
 ぐらりっ。衝撃吸収があるのに、揺れる。整備されてある道やないから、仕方ないことや。街道を避けビアンカとルージュを追い、でこぼこの地面を馬車は走り抜ける。私は窓の外、勢いよく流れる景色を見る。
 カルーラの騎士団は、首都の騎士団と引けを取らない。ビアンカとルージュが着くまで、大丈夫だと、信じたい。
 神様、カルーラの騎士団の皆さんを守ってください。
 ふあ、と魔力が抜かれた。枯渇しないが、ごっそりと。
 え、まずい、状況やない。
「ノワール、急いでッ」
「ブヒヒーンッ」
 馬車はさらにスピードを上げた。
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