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確保と依頼③

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 ううっ、寒かっ。
 いくらダンジョン内が外より寒さが和らぐと聞いても寒かっ。しかも、今は、ノワールに乗っているから余計に。『彼女さん』に会いに行くには、魔の森を抜ける必要があるから、ダンジョン内の森を駆け抜けて実践訓練みたいなことをしてる。ホークさん一人なら多少の悪路でも平気だけど、私にはきつい。ずいぶん慣れて来てはいるけど、やはりぐらぐらしてしまう。多少のでこぼこ道はいいけど、隆起の激しい場所は、かなりホークさんの負担をかけてしまう。大丈夫ですよって言ってくれるけど、申し訳ない。
「ユイさん、少し休みましょう」
「はい」
 いつもすみません、私はホークさんの首に腕を回す。毎回これだけは慣れない。はあ。
 だけど、この急勾配をどうにかしないとたどり着けない。はあ、やっぱり体幹をどうにか鍛えんとなあ。毎回訓練でぷるぷるしているんやけど。
『ねえ、ユイ、そろそろボス部屋復活するのです』
『行きましょう』
「ブルブルッ」
「そうな? なら、行こうかね」
 現在は26階にいる。
 化粧品部屋の扉は閉まっている。ビアンカの言うように復活してる。
 ホークさんとノワールが一休みして、いざ、ボス部屋に。
 ビアンカが開けて、まずはルージュが炎の矢を連発。ホークさんが矢を放ち、マデリーンさんが光の矢、チュアンさんが土の塊を発射。仔達の魔法も連発してから、ノワールが風蹄(ヴァンオーブ)で飛び込んでいく。
 私の出番はなく、ほどなく終了。支援を受けたノワールが快進撃や。せっせとドロップ品を拾う。最後に出てきた大きな宝箱。ルージュがチェックする。
『はい、罠は解除したわ』
「ありがとう、さ、開けましょう」
 毎回これはわくわくだ。
 ぱかり、と開けると、わあこれは初めて、レースの束だ。見た感じ、シルクのレースかな。うわあ、繊細なデザイン。色も他種類あり、デザインも何種類もある。
「綺麗やな」
 覗き込んできた晃太もぽつり。
「どうする?」
「お母さんにまず見せるよ、それからパーカーさんかな。また、出んかなこれ?」
 私が何気無く言った言葉がいけなかった。
『次、次なのですっ』
『やるわよっ』
「ブヒヒヒヒンッ」
 稼ぎ頭達に火がついた。
 はい、ちゅどん、ドカン、バキバキ。結局それから一週間後にやっとレースが出た。

 それからも依頼のあったドロップ品狙って、ボス部屋に挑む。それから私の騎乗訓練が続く。鞍には手すりみたいなのがあって、必死に掴まる。何度後頭部をホークさんの顎にぶつけたことか。本当に、いかん、割れてしまうホークさんの顎が。
 結局、完全にホークさんにお任せになる。始めは寄りかからないようにしていたけど、うまく行かず、餃子の具のように皮に包まるようにしていた。そう、ゆったり餃子の皮のホークさんが包んでくれていたのだが、それではどうしようもなくなったので、隙間なくぎっちりみっちり包まる作戦となる。完全密着だよ、は、恥ずか。心臓の音まで聞こえそうだよ。だけど、しょうがない。ビアンカとルージュ曰く、途中かなり傾斜のきつい場所もあるみたいだし。仕方ない。私は餃子の具。私は餃子の具。私は餃子の具。
 26と27階は岩場があり実戦訓練にいい感じのようだ。適宜魔物も襲ってくるしね。ひーっ、真っ赤な毛並みの山羊が突撃してきたけど、ビアンカの鼻息で、首がちょん、と飛ぶ。恐ろしか。普通の魔法馬なら驚くが、うちのノワールはそれくらいで怯まない。日頃ブヒヒヒンッ言って色んな魔物を蹴り飛ばしているけど、たよりなる。
 次回の冷蔵庫ダンジョンアタックは、訓練目的で入ることになった。
 十分に私達に必要なフレアタートルの肝も手に入った最終日。出ましたご褒美部屋。6畳くらいの部屋だ。宝箱は5個。
 ルージュが黒狩人(ネロハバス)でチェックしてくれる。
『部屋に罠はないわ。箱にあったけど、解除したわ。あと半刻で閉まるわよ』
「ありがとうルージュ。ではお願いします」
 まずは一番大きな宝箱には晃太が中身を直接アイテムボックスに入れる。次に大きな宝箱には私が空のマジックバッグに入れる。中身はお馴染みビロードの箱、指輪サイズだ。全部入れる。次の宝箱にはホークさんとテオ君が対応。中身はポーション類だ。次の宝箱はチュアンさんが丁寧に取り出しているのは皮袋、なんだかびっしり詰まってそう、中身はなんだろ? 一番小さな宝箱にはエマちゃん。指輪サイズのビロードが1つ。
 すべて回収し、ご褒美部屋を出る。ふう。
「お疲れ様、晃太中身は?」
「布やな、シルクにレースに、ビロードや」
「お母さんが喜びそうやな」
 私が回収したビロードの箱は全部で96個もあり。中身は宝石が一粒ずつ入っていた。サイズもカットもバラバラだ。ホークさんとテオ君が担当した宝箱のポーション類は、特殊ポーションだ。石化や呪いや混乱だと。ちなみに魔法とかによる混乱は平手打ちでもすれば回復する事が多いので、あまり需要はないそうだ。ただ、石化はすごく貴重らしいので、下手したらドラゴンポーション並みの額がするそうだ。呪いに関しては神官クラスならほとんど対応可能。だけど、神官がいない町では、一本は確保しておきたいらしい。石化解除ポーションは10本あり、5本は引き取り、呪いはそんなのかかる前に敵を砕くとビアンカとルージュが言うので、混乱と共に卸すことにした。チュアンさんの担当した宝箱には、皮袋には、びっしりと魔石が詰まっていた。サイズはアーモンドくらいだ。
「サイズは小さいですが、これは質がいいですよ」
「そうですね。くすみもないですから」
「一粒、2、3万はしますよ」
 と、ホークさん、チュアンさん、マデリーンさん。質のいい魔石なら、魔道具のいい燃料になる。
 よし、これは孤児院に寄付しよ。あちこちに行った時にその都度渡そう。数えたら1000粒もあった。半分手元に置くことになる。
 で、最後のエマちゃんが担当した宝箱。指輪サイズのビロードの箱。うーん、予想がつくー。キラキラやない? いや、ギラギラか?
 開けると、案の定、キラキラ。ダイヤモンドやー。涙型にカットされたダイヤモンドが2つ。はい、買い取りに出そ。
 さ、忘れ物はないかな?
「帰りましょう」
「「「「「「はい」」」」」」
 ビアンカが元気のリードを咥えて脱出用魔法陣に魔力を流して脱出した。

 寒いのに、リティアさんがいつものようにすっ飛んできた。晃太が先にギルドに向かう。ビアンカとチュアンさん、テオ君が着いてくれる。私達は先にパーティーハウスに戻り、ノワールと仔達をルームに誘導。花は変わらず、わがままボディでお出迎えしてくれた。あははん、もふもふ。
「お帰り、どうやったね?」
 母が出てきて、仔達が群がる。
「問題はないよ。そうそう、布がでたんよ、見る?」
「そうやね、新しいの作りたいしね」
「晃太が全部持っとるよ」
「なら、帰ってから見せてもらおうかね」
 私は一旦パーティーハウスを出て、ギルドに戻る。ルージュとホークさんに付き添われる。
 ギルドに着くといつもの応接室に通され、すぐにお茶が出される。
 タージェルさんが、すでに応接室にいて、早速宝飾品を見ている。
「お帰りなさいませ、ミズサワ様」
 スマイルタージェルさん。
「宝飾品だけではなく、化粧品の材料までこんなにたくさん、本当にありがとうございます」
「いえいえ。ビアンカとルージュが優秀なので」
 単に私がレースがまた出ないか、なんて言ったせいで、26階のボス部屋にかなり挑んだだけだし。お茶を頂いていると、リティアさんが書類の束を持ち、やって来た。
「お待たせしましたミズサワ様」
「いえいえ」
 出される書類にサインと魔力を流す。同じ作業を繰り返す。ふう。
 相変わらず多量だなあ。
 ……………………………ふう。終わった。
 依頼に関してだけはすぐに依頼料が支払われる。脅威の2億越え。ドロップ品や宝箱の中身は後日となる。ご褒美部屋から出た宝石10個タージェルさんにチョイスしてもらう。グーテオークション用ね。
 さて、終わったかな。サインが終わる頃には晃太も合流。お互いの冒険者ギルドカードに100万いれてもらう。
「あのミズサワ様」
 帰ろとしたら、リティアさんが改まる。どうしたんやろ?
「はい」
「実は私事なのですが、来月、首都に行くことになりまして」
「栄転?」
「いえ、娘の成人式です」
 あ、なんかそんなこと言ってた。確か、リティアさんによく似たザ・優等生な感じの、テレーザちゃんだっけ。日本なら地元でやるのだけど、こちらは違う。交通手段が馬車しかないしね。テレーザちゃんが首都の王立学園に通っているから、学園生はまとめてするそうだ。ただ、遠方のお家の人は大変。そこはちょっと援助が出るそうで、首都の宿泊施設を借り上げてくれると。なので交通費だけ。そこそこ余裕のある人達しか来ないけど、リティアさんと旦那さんはこのためにせっせと働いているそうだ。ちなみにミーミル学院とは日程をずらしてするんだって。
「そうですか。おめでとうございます。気を付けて行ってきてください」
「ありがとうございます。私が不在の時は別の職員が対応しますので」
「はい、私達も春祭りの後くらいには移動しようと思っていますので」
 その頃には、ノワールの装備品も出来上がるし、晃太の支援魔法ランクも上がりそうだし。
「ミズサワ様もどちらかへ」
「はい、カルーラに。おそらく長期になると思うので、両親も連れていこうと思ってます」
 リティアさんとタージェルさんがスマイル浮かべたまま固まってる。
『戸惑っているのです』
『焦ってもいるわ』
 まあ、そうなるかなって思ってはいた。きっと私達はマーファのギルドにとっては貴重なドロップ品の搬入者だ。スカイランに行った時は、短期間で、両親をマーファに残していた。多分、両親がいるから必ず私達が帰って来ると言う安心があったと思う。今回はそれがない。だけど、流石に借り主の私が、予定では1年近く、下手したらそれを越す期間いないのに、パーティーハウスを借りられない。
「あ、ミズサワ様も大討伐にご参加を?」
 オスヴァルトさんが言ってたやつね。この大討伐は、魔の森が近くにある街で定期的に行われる。いわゆる魔物の大量発生を防ぐための間引き作業なんだって。
「いえ。知り合いに会いに」
 おほほ。ビアンカとルージュの知り合い魔境の管理者『彼女さん』に会いに行きます、なんて言えません。
「済んだら、帰って来るとは思います。ただ、いつ帰って来れるか分からないだけです」
 私の『帰って来る』の言葉に、リティアさんとタージェルさんがホッとした顔。
「ではミズサワ様、向こうでもパーティーハウスをご希望されますか?」
 と、リティアさん。察しがいいなあ。相談したかったことや。
「はい、できれば」
「向こうのギルドに連絡をしましょう。私がいない時は代理の職員が行います。出発する日が分かりましたら、お知らせください」
「ありがとうございます」
 良かった、ちょっと心配だった。カルーラにリティアさんみたいな人がいるとは限らないしね。
 心配事が1つ減って、私はリティアさんとタージェルさんに挨拶してギルドを後にした。
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