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連載

スカイランへ①

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 セザール様とフェリアレーナ王女様の結婚式は、その日、マーファ中がお祝いムードだった。
 ルームの中からこっそり覗いていた晃太は、ぼわーっと、綺麗な人やなー、と呟いていた。両親も似たような感じだ。パーティーハウスに戻り、いつもの格好に着替えてお祭り騒ぎの街中に繰り出したかったが、あまりの人の多さに断念した。絶対に元気が飛び出したりしたら、大変だもんね。
 次の日、まだ熱の冷めないマーファの街中に出る。ギルドに行くだけだけどね。仔達は寝てるのでパーティーハウスに残してきた。チュアンさんとエマちゃんとテオ君が残ってくれた。
 直ぐにリティアさんが出てきてくれた。
「ミズサワ様、どうされました?」
「今後の事で」
 そう、マデリーンさんとエマちゃんの依頼していた装備品が出来上がり次第、スカイランへ出発予定だ。その前に、途中で通過予定のアルブレンやノータに持っていく乳製品等を冷蔵庫ダンジョンで色々手に入れようと思って。
「なので、また冷蔵庫ダンジョンに行きますが、たくさんはこちらに卸せないかもしれません。依頼がある分しかできないかと」
「はい、承知しました。それだけでも十分です。向こうに行かれるのでしたら、また、搬送のお願いがございます」
「晃太よか?」
「ん、よかよ」
 よし。
 挨拶を済ませてギルドを出る。帰りに屋台に寄り、色々買い込む。ハルスフォン伯爵様にもらった例の無花果ジャムは既にない。本日の朝食でなくなった。母が気に入っていたのでゲストハウスでお世話になったメイドさんに聞いた、ちょっと高級店が並ぶエリアの中にある伯爵経営のお店に行ってみた。屋台街ばかり行くので、中々こちらに来ることはないが、ビアンカとルージュがいるけど、皆さん慣れたものだ。特に騒がれない。
「ユイさん、俺達は外で待ってますので」
「すみません、直ぐに済ませます」
 ホークさん達は店内に入らず、ビアンカとルージュと共に待ってくれる。
 店内にはたくさんのジャムやドライフルーツが並ぶ。ドライフルーツは量り売りみたいだ。店内に入り、あの無花果ジャムを探そうとすると、品のいい制服を着た女性が直ぐに来た。
「いらっしゃいませ。テイマー様、ご所望は?」
 ビアンカとルージュが入り口から覗いているからね。もう、出入りする人の邪魔やろうもん。直ぐに買って帰ろう。
「無花果のジャムを」
「こちらでございます」
 案内してもらい、ずらりと並んだジャム。オススメ商品みたいだ。直ぐになくなるからね。
「ありがとうございます。あの、隣のジャムは?」
 他にもある。女性店員さんが説明してくれる。
「こちらはリンゴで甘酸っぱいジャムです。こちらは洋梨でございます、上品な甘さですね。こちらはブルーベリー、アプリコット、オレンジでございます。どれもパンにも菓子にも合います」
「ふむふむ」
 ドライフルーツの説明を聞く、添加物なんて入ってないから、栄養も良かろう。
 味見までさせてくれた。ブルーベリーを噛むと甘味がじわっと広がる。
 ジャムは小さめビスケットに乗せて味見。うん、ヨーグルトに乗せてもいいかも。
 よし、買おう。
「無花果を20、リンゴと洋梨と、ブルーベリーとオレンジとアプリコットを10ずつください。あとドライフルーツを……………」
 大量に買ってしまった。私の冒険者ギルドカードでお支払をする。
 女性店員さんが丁寧に見送ってくれた。
 
 更に数日、冷蔵庫ダンジョンに行くために準備をする。
 その間にパーティーハウスに来客があったが、御用聞きの冒険者さんや、ホークさんが対応して帰って頂いた。目的は私を通してビアンカやルージュ達がほしいだけ。サエキ様の名前を出すと、引いてくれた。
 そして、冷蔵庫ダンジョンに向かう前日に、そのサエキ様が挨拶に来た。ビアンカとルージュが察知してたので、お茶の準備はオッケー。
 肩のフクロウが逃げていき、サエキ様が苦笑い。
「どうぞ、サエキ様」
「ありがとうございます」
 サエキ様をご案内。元気がぷりぷりご挨拶に向かう。お尻がかわいか。コハクは足元にすり寄っている。
「はは、可愛いですね」
 鼻が伸びる。
 サエキ様にさくら庵のリンゴタルトと日本産の紅茶を出す。
「ありがとうございます。今日は挨拶に来ただけですので。明日には私は王の護衛として首都に戻ります」
「はい」
 ミッシェル王太后様以外の王族の皆様は明日首都に帰る。サエキ様はその護衛だ。ミッシェル王太后様はご高齢のために、春までこちらで過ごすと。
「私はその護衛が済んだら、しばらくユリアレーナを出ますが、私が貴女の後見人には代わりありません。私の名前を使って頂いてかまいません。もし、それでも向こうが引かない場合は、私のひ孫を頼ってください」
「オスヴァルトさんですか?」
「いえ、オスヴァルトの兄、アルベルト・ウルガーです。アルベルトは宰相の第4補佐官をしています。アルベルトに連絡が付けば、王家も動いてくれるはず」
 どんだけ凄かひ孫さんやねん。宰相の補佐官って何? オスヴァルトさんは騎士団の准将で、エドワルドさんはユリアレーナ最強のSランク冒険者。どんだけやねん。人差し指をピコピコせんといかんやん。
「あまり、頼る事態にならないことを祈ります」
 そんなめんどくさい事態になりたくなか。顔に出たのか、サエキ様が微笑む。
「サエキ様はどちらに?」
「墓参りですよ。母の知り合いのね。小さい頃は、それは可愛がってもらいましたから」
 て、ことは佐伯ゆりさんと一緒にこちらに召喚された人達ね。
 詳しく聞きたいが、薮蛇になりたくないし。
「お気をつけてください」
「ありがとうございます。2年以内には一度戻って来る予定ですので」
「はい」
「それから、しばらくこちらは社交場になります。つまり貴族や豪商達が滞在します。また、貴女目当てに声をかけてくるはず。街中でも、偶然を装って接触してくるはず。特に手紙のような物は受け取らないように」
「何故です」
「十中八九、パーティーや茶会の招待状です。断るのは簡単です。受け取る前に『期間の迫った依頼がある』とか『その日は別の場所に向かう』とかいえば、貴女は冒険者ですから無理強いはできない。面倒なのは、受け取ってからなのです。断りの旨を書いた書簡を、相手に使者を立てて渡さなくてはならないからです」
 うわ、面倒くさい。
「そうしても、向こうが受け取らなかったら?」
「それは向こうの落ち度です。わざわざ使者を立てて書簡を送ったのを断るのは非礼ですからね。基本的にそういった案内は、私を経由しますから、今まで通り受け取らない方針です。ただ、貴女に有益になりそうな物だけは丁寧にお断りの連絡をしておきます」
 そう、グーデオークションでサエキ様と会った時に、そんな話になり、サエキ様経由は全てお断りしてもらうようにお願いしていた。まあ、サエキ様経由するのが、本来の招待状の渡し方だそうだ。私はランクは高いとは言え、一般人。お茶会やパーティーなんか開くのは、地位のある人達。そんな人達が、一般人の私にそういった事に招待するには、地位のある後見人を通すのがマナーなんだって。いきなり前触れなく私に招待状を渡すのは、地位のある人にしてみたら、失礼の極み。地位や権力を振りかざしてます、みたいな感じになると。因みに、両親はそういった事には呼ばれない、それは両親を盾に私に何か要求すると、あからさまに分かるからだ。
「国を離れている間は、アルベルトが代行をします。血筋の贔屓目がありますが、アルベルトは優秀です。問題はないでしょう」
「ありがとうございます、お手数をおかけします」
 サエキ様はそれからも幾つか注意事項を伝える。
「くれぐれも決して1人で出歩かない事、いいですね」
「はい」
「それから、貴女がダメなら、次に狙われるのはコウタ殿です」
「はあ」
 晃太は気のない返事。
「貴方は弟という立場にありますが、そのアイテムボックスの容量は規格外。商人なら、喉から手が出る程に欲しています。爵位のない商人なら気軽に貴方に接する可能性があります。貴方も1人では出歩かないように」
「はい」
「出来れば、貴女方2人の後見人になれればいいのですが、立場上複数人を短期間で受けることができません。折を見て、申請しましょう」
「あの、サエキ様、私は姉のようにランクが高くないのですが」
「その点は心配ありませんよ。貴方にはアイテムボックス以外にも、素晴らしい作図能力があるでしょう? 確かに今すぐにランクが上がることはないでしょうが、地道に活動していけば、自ずと上がりますよ。その頃には、申請できるはず」
 おお、さすが時空神様から頂いたマッピング能力。
 晃太が神妙に頷く。
「そうだ、これから何か行動計画を立てていますか?」
「はい。装備品が揃ったらスカイランの軍隊ダンジョンに行きます。来年以降になりますが、カルーラにも行こうかって話しています。基本的にはユリアレーナから出る予定は今のところないです」
『シーラって国に行きたいのです』
『そうね、『試練のダンジョン』に行きたいわ』
「しーっ」
 何を恐ろしい事を。爬虫類の親玉のドラゴン出るダンジョンなんていやや。あ、でもマデリーンさんとミゲル君の生まれ故郷や、晃太のスキルアップが上手く行かなかったら、考えようかな。
 サエキ様はクスクス笑う。
「きっと、ザイームが自ら出迎えるでしょう。向こうもドラゴンを一体でも確保してくれたら、多くの民が救われますからね」
 うっ、そう言われると、行かんといかん。今までドラゴンと遭遇したのは幸運だっただけ。軍隊ダンジョンの装甲竜(アーマードラゴン)もあれ以来出ていないそうだし。まあ、レベル500超えがボス部屋の扉開けたせいかなって思っている。
 とりあえず、晃太のスキルアップ次第や。春先までにランクアップ出来なければ、冬前に魔境にはいけない。そうなれば、シーラに行くかな?
「さて、私はこれで」
「あ、はい」
 サエキ様は結局リンゴタルトはお持ち帰りした。あの逃げたフクロウと食べますと。うーん、一度でいいから触ってみたい。きっとふかふかやろうから。
 私達は、護衛も付けずに来たサエキ様をお見送りした。あ、フクロウが戻って来た。きちんと肩に着地。
 見えなくなるまでお見送りした。
 さあ、色々忙しくなる。
 明日から、冷蔵庫ダンジョンだ。
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