もふもふ大好き家族が聖女召喚に巻き込まれる~時空神様からの気まぐれギフト・スキル『ルーム』で家族と愛犬守ります~

鐘ケ江 しのぶ

文字の大きさ
上 下
293 / 851
連載

秋のグーテオークション②

しおりを挟む
 野外会場はすぐ近く。広い公園で、中央に舞台があり、周りを運動会のテントが囲む。
 人もすごい。
 私達が行くと、しん、となったり、囁かれたけど気にしない。だって。
『いいにおいがするのです』
『甘い香りもするわ』
 巨体2匹がのしのし。やめて。屋台の女の子、真っ青やん。こっちが気になる。私が小さくロールパン一個と呟くと、しぶしぶ戻ってきた。
 小さい子がわんわん言ってる。飛び出そうとして母親が抱えてる。うちのビアンカとルージュは大丈夫ですよー。
 サエキ様に身なりの良さそうな数人が会釈している。釣られて周りの人達も。
「ミズサワ殿、何か気になるものは?」
「あ、そうですね。何か食べ物を買いたいです。ゲストハウスに残ってくれている皆さんにお土産を」
『ユイ、あそこのがいいのです』
『あっちが甘そうよ』
「はいはい」
 私とビアンカとルージュのやり取りに、サエキ様はクスクス笑う。
「では、まず、あそこから見ますか?」
「はい」
 サエキ様に連れられて行ったのは、真っ青になってた女の子の屋台だ。数人で店番していて、同じ制服だ。
 テーブルを見ると、焼き菓子が並んでいる。
『ユイ、ユイ』
『甘そうよ』
「はいはい、ふんがふんが言わんで」
 女の子達は、落ち着いたのか、並んでお辞儀している。後ろにいた引率の先生らしき女性も、美しくお辞儀。
「いらっしゃいませ、サエキ様、テイマー様、どうぞご覧ください」
 班長らしき女の子が挨拶。中学生くらいなのに、しっかりしてるわ。
「彼女達はミーミル学院の生徒ですよ」
 ミーミル学院とは、王立学園の次に位置する学校。こちらは幅広く学生がいて、学科も幅広いそうだ。王立学園の次だからと言っても、もちろん入試は難しい。
「これは皆さんが?」
 焼いたのかな?
「私達は販売担当になります。予算の管理、材料の仕入れ、お菓子の作成は他の学科の生徒達と共同で行いました」
 しっかりしてるー。
「こちらもチャリティーですか?」
「はい、純粋な売り上げは、すべて寄付させていただきます」
 ならば、買いましょう。ビアンカとルージュの鼻息で、私の耳元の皮膚がそのうちふやけそう。
「ビアンカ、ルージュ、どれがいる?」
『『全部っ』』
 サエキ様が噴き出す。
 ビアンカとルージュの声が分からない女の子達はきょとんとしている。
 焼き菓子は、マドレーヌやパウンドケーキ、スコーンみたいね。素朴な感じで好き。あ、クッキーもある。
 女の子達は、一生懸命に説明してくれた。かわいかやん。
「じゃあ、ここら辺から、ここら辺までください」
 大人買いしてみた。
「ありがとうございますっ」
 女の子総出で包んでくれた。晃太がアイテムボックスに。ビアンカとルージュが必死に視線で追うので、スコーンを一つずつ。丸飲みやねん、味わわんね、もう。
 支払いはカード、いや、途中で思いとどまり、現金にして班長さんに渡す。
「え?」
「沢山ありがとう。頑張ってね」
 班長さんが瞬きしている。おつりの準備をしようとして、私はそっとお断り。
 渡したのは大金貨だ。売り上げは寄付になるからね。
 女の子達は一斉にお辞儀して、見送ってくれた。
「太っ腹ですね」
「ビアンカとルージュが優秀なので」
「次も食べ物の屋台で?」
「はい。お願いします」
 次の屋台は、素朴な焼き菓子ではなく、がちのホールケーキサイズだ。見た目も綺麗。あれは確か外国のケーキで、クグロフだっけ? オレンジのタルトやブルーベリーのタルト、チェリータルト、色々なパイやかわいかマカロンも並ぶ。
「いらっしゃいませ、サエキ様、テイマー様。どうぞご覧ください」
 対応したのは二十歳前後の若いシェフ達。血走ったビアンカとルージュに引きぎみ。
「こちらは職人ギルドの新人達の屋台ですよ」
「なるほど、凝ってますね」
 やはり、学生と本職さんの差かな。額も当然高いけど。
「ビアンカさん、ルージュさん」
『ふごーっ、ユイ、食べたいのですっ』
『ふごーっ、ふごーっ、肉の匂いもするわっ』
「はいはい」
 若いシェフの皆さんも熱心に説明してくれる。パイの中身は様々で、ハーブで臭い消しをしたお肉だったり、カボチャやリンゴ、アーモンドや胡桃のパイだと。よし、神様にもお土産や。
 クグロフを3つ。タルトやパイはそれぞれ2つずつ購入。
『食べたいのですう』
『一口、ユイ、一口』
 首筋べたべたしてきた。もう、かわいかね。
 ミートパイを追加で2つ購入して、パクパクごっくん。ちょっとお二人さん、これ、そこそこの額なんですが。まあ、よかか、元は2人が稼いだお金だし、今日だけね。大金貨でお支払い、と。
 手芸品をじっくり見たかったけど、食欲に歯止めの効かない2人に急かされ、革のシンプルな小銭入れを5つ購入。寄付用ね。あのかわいか刺繍のポーチとか、ハンカチとかみたいのに。
 次に訪れたのは、しっかりベテランのシェフさん達が並ぶ。奥はカフェスペース。あああああ、お茶したか。えーっと、並んでいるケーキ、やない。
「ミズサワ殿、こちらは城のシェフ達の屋台です。奥のカフェでは新人のメイドやフットマン達が担当しています」
「なるほど」
 お茶したかけど、諦める。だってホークさん、こういった場所では、絶対一緒に食べたりしないもんね。帰ってゆっくり食べよう。
 ケーキやない、これ、キッシュや。後は、あ、ケークサレや。伯父さんがよく持たせてくれたから、知ってる。へー、色々ある。後はサンドウィッチやカヌレ、色とりどりのジャムクッキーがズラリ。うん、美味しそう。こちらのシェフさん達も熱心に説明してくれる。
『ふごーっ』
『ふごーっ』
「はいはい」
 再び大人買いする。
 もうよかかな? これで帰れば、お昼かな?
『ふごーっ、ユイ、待ってなのですーっ』
『あらあら、人気ね、ビアンカ』
 あー、小さい子どもがビアンカのお尻辺りにしがみついてる。母親らしき女性がすっ飛んできて、平謝りしていった。
 他には食べ歩きできるクレープやフランクフルトやホットドッグの店があった。こちらは行列の為に諦める。
 それからゲストハウスに戻る。馬車の中で、サエキ様とお話。
「明日、こちらを出ます」
「はい。出発は予定通りです」
 何かって? フェリアレーナ様の輿入れの護衛だ。先に私達がトッパに入り待つ。
 ガーガリア妃がアルティーナに戻るという知らせは、瞬く間にユリアレーナ内を駆け抜けた。ちょうど冷蔵庫ダンジョンにいたから私は知らないけど、両親の話からかなりの騒ぎになったそうだ。
 これでやっとガーガリア妃も、お母さんの元で、静養できる。誰も事情を知らないから、ガーガリア妃に対しては辛辣だったそうだ。
「貴女の身の心配はしていませんが、対人戦になるでしょう」
 人、そう、フェリアレーナ様を襲うのは、人だ。
 急に、体の奥底が冷えていく。ホークさんと今回の件で、色々話したけど、現実味が深くなってきた。
 ふう、とサエキ様は、息をつく。
「出来れば生け捕りにしてもらえますか? 襲撃犯達は、おそらく日に当たれないような事をしてきたはず。すべての埃という埃を叩き出したいので」
 生け捕り。なんだか、ちょっと軽くなる。生け捕りね、生け捕り。
「ただし。貴女方の命が最優先です。そして、フェリアレーナ様、同行する従者、マーファの騎士達の命です。いいですね? 生け捕りは出来ればで構いませんからね。優先事項を誤らないように」
 言われて、冷えた奥底を引き締める。
「はい」
しおりを挟む
感想 672

あなたにおすすめの小説

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

悪役令嬢、資産運用で学園を掌握する 〜王太子?興味ない、私は経済で無双する〜

言諮 アイ
ファンタジー
異世界貴族社会の名門・ローデリア学園。そこに通う公爵令嬢リリアーナは、婚約者である王太子エドワルドから一方的に婚約破棄を宣言される。理由は「平民の聖女をいじめた悪役だから」?——はっ、笑わせないで。 しかし、リリアーナには王太子も知らない"切り札"があった。 それは、前世の知識を活かした「資産運用」。株式、事業投資、不動産売買……全てを駆使し、わずか数日で貴族社会の経済を掌握する。 「王太子?聖女?その程度の茶番に構っている暇はないわ。私は"資産"でこの学園を支配するのだから。」 破滅フラグ?なら経済で粉砕するだけ。 気づけば、学園も貴族もすべてが彼女の手中に——。 「お前は……一体何者だ?」と動揺する王太子に、リリアーナは微笑む。 「私はただの投資家よ。負けたくないなら……資本主義のルールを学びなさい。」 学園を舞台に繰り広げられる異世界経済バトルロマンス! "悪役令嬢"、ここに爆誕!

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。