274 / 869
連載
閑話 他所を
しおりを挟む
バレンティナ・ナージサ。セレドニア国王第一側室、エレオノーラ妃の生家であり、ユリアレーナでも古い歴史のある侯爵家の三女。おかっぱだ。ナージサ家は城勤めの文官一族で、現在当主は文部省に所属、大臣を務めている。次期当主であるおかっぱ、バレンティナの兄も優秀な文官として勤めている。2人の姉もそれぞれ爵位のある家に嫁いだ。それぞれ貴族女性として申し分無く、求められて嫁いでいった。ナージサ侯爵家は、首都や主要都市に高級サロンを展開している。こちらは名義は当主だが、夫人が管理を行い、大盛況だ。
アリーチャ・ウルガー。ウルガー伯爵家の次女。赤毛のロングヘアーだ。オスヴァルトとエドワルドのウルガー家は子爵で、アリーチャの伯爵家は本家に当たる。彼らとは父方の従兄弟だ。ダイチ・サエキのたった1人の孫娘が、分家のウルガー家に嫁いだ。アリーチャはダイチ・サエキとは血の繋がりはない。ただ、ウルガー子爵家はみな優秀。オスヴァルトとエドワルドの長兄が、時期宰相候補と言われて、ウルガー三兄弟とユリアレーナ内では有名人だ。今ではウルガー子爵家が本家に取って変わるのではと噂されているほどに。ウルガー伯爵家は、主要を守る騎士団の事務に携わっている。長女はゲオルグ王子のお妃レースに参加。
ロベルタ・テルツォ。こちらも古く歴史のある伯爵家の四女。茶髪のロングヘアーだ。当主である父親は首都の商人ギルドの要職に就いている。兄は王立学園で教鞭を取り、長女はシーラに嫁ぎ、次女は王立楽団に所属し、三女はジークフリード王子のお妃レースに参加している。
ヴァンダ・キント。自身の商会を持つ伯爵家の三女。金髪のロングヘアーだ。扱うのは宝飾品で、大型の工房と、相応の職人を抱え、デザインと質がよくユリアレーナでも代表する有名店だ。跡取りの長女は優秀な伴侶を得て、工房と商会をもり立てている。次女は商会の事務に勤めて、支えている。
生まれや家族は恵まれていた。ただ、優秀な兄や姉がいたため、どうしても比べられたりしたが、甘やかされていたのは否定しない。上の子供には、親の期待をかけられて、厳しく育てられた、末っ子の4人は、言葉は悪いが放置気味だった。だが、家庭教師はつけたし、学びたいものがあれば、我慢させずに習わせた。貴族女性として相応しい様にと、与えられらるものは、すべて与えた。
だが、結果はあれだ。
なんとか王立学園に入ったが、素行が悪いと何度呼び出されたか。このまま首都にいたら、家の恥になる何かをやらかしそうだった。特にお妃レースに関わっていた家にとっては、醜聞にしかならない。なので冒険者として、家族と切り離し、生活できるだけの支援をして、首都から出した。時期を見て、そこそこの相手に嫁がせる。そう各家が考えていた。
だが、2年後にもたらされたのは、マーファを治めるダストン・ハルスフォン伯爵夫人、イザベラに対する傷害未遂が飛び込んできた。それから、王家から注意がされていた、あのテイマーに対して、有りもしない噂を流して、マーファを混乱させたとして苦情がきた。ハルスフォン伯爵に対しては、なんとか示談に持ち込み、そして多額の保釈金を支払った。抜刀していなかった事がせめてもの救いだった。
だがその後各当主と夫人達が城に呼ばれ、宰相による『厳重』注意がなされた。帰り際に、目が笑っていないダイチ・サエキにまで、言い様のない圧をかけられ、エレオノーラからは回りくどく言われたが、お妃レース脱落を告げられ、逃げるように城を後にした。
娘達の処遇を考えていた数日後、マーファにあるナージサ侯爵経営のサロンがテイマーから依頼を受けて貰えなかったこと。キント家がオーナーである女性工房主が、わざわざマーファまで行ったのに、ギルドの宝飾品エリアから閉め出されたこと等が伝った。ユイがマーファに帰り着いたその日に絡み、ユリアレーナ冒険者ギルド本部が下したのは、冒険者資格剥奪。首都の各家に通達された。当のユイは冷蔵庫ダンジョンにいたため知りようもないし、わざわざリティアが話すことはなかった。ユイの性格なら気にするかも知れないと案じたためだ。あの時、ユイが被害届を出していたら、冒険者資格剥奪では済まない事態だったのだが。ハルスフォン伯爵とエレオノーラとフェリアレーナを想い、踏みとどまった故の処置だ。
各家は頭を抱え、通信手段が限られた世界で、4人に首都へ戻るように転移門を使用し、手紙を飛ばすことができるのに、時間を要してしまった。
マーファで騒ぎが起きる前。女4人がマーファに来て直ぐ、懲りもせず、ダンジョンに行きたくなった。
マーファには冷蔵庫ダンジョンがある。
低階層くらいならとたかをくくり、一緒にダンジョンに行く冒険者をギルドで物色していた。
1人、見た目が良さそうな男性冒険者を見つけた。20代後半、軽装だが、腰には剣を下げているから冒険者だ。近くにいるのは明らかにまだ新人の少年2人しかいない。4人が選ぶのは必ず男性のみのパーティーだ。女がいると厄介だから。
早速アプローチした。
「ねえ、私達と一緒にダンジョンに行かない? こう見えても私達全員攻撃魔法が使えるし、回復魔法も使えるのよ」
バレンティナが魅惑的な笑みを浮かべて話しかける。男は灰色の目で、なかなか顔立ちがいい男だ。残り3人も後ろで自信満々に笑みを浮かべている。これでだいたいの男は落ちる。攻撃魔法が使える、それは冒険者としては魅力的だ。純粋な魔法職が少ないため、攻撃魔法が使える者は重宝される。それに自分達には自信があった。女としての魅力が。案の定、見習い2人は困惑の表情を浮かべている。だが、男性冒険者の答えは呆気ないものだった。
「俺達は別の人達とダンジョンに行くので、他所を当たってください」
はっきり断られた。
いつもなら、こちらをじろじろ見ながら、どうしようか悩む様な仕草があるのに、男はそっけなかった。
「私達、攻撃魔法が」
「他所を当たってください」
男はつれない態度を変えない。困惑気味の見習い2人も、興味が失せたような顔だ。
腹がたった。
自分たちの容姿には自信があったし、男ばかりのパーティーなら、女に飢えて、簡単に落とせる自信があった。
腹がたった。無性に腹がたった。わざわざ、声をかけてやったのに。
「どうした?」
そこに剣士が2人。1人は盾を背負い、いかにもベテラン感がある。どうやら灰色の目の冒険者のリーダーのようだ。男臭い感じだが、リーダーさえ落とせばどうにかなる。
「ねえ、私達、攻撃魔法が全員使えるの、一緒にダンジョンに行かない?」
「他所を当たってくれ」
リーダーらしき短髪の男の返事は早かった。そして、その目には白けた色が浮かぶ。自分達が冒険者の格好だけだと、直ぐに見抜いた目だ。バレンティナはこれ以上言っても無駄だと直感。以前も直ぐにエセだろ、と見抜かれたことがあったからだ。その時と一緒だ。この類いの連中は、自分達の魅力では落ちないと。諦めかけた時。
「あ、ユイさんっす。リーダー、ユイさんっす」
見習い1人が弾んだ声を上げる。
「ハジェル、語尾。行くぞ」
短髪のリーダーはメンバーを連れてバレンティナ達に背を向けた。自分達に挨拶もしないで、と腹がたった。腹がたったが、男達の先にいたのは、白い毛並みの巨体なウルフとジャガーだ。息が止まった。首都にいた時に、テイマー部隊がいたため、従魔がそこまで珍しい存在ではなかったが、あれは別格だ。体躯もでかいが、毛並みの美しいこと。主人は黒髪の女だ。一瞬、言葉を失ったが、次の瞬間、バレンティナの逆鱗に触れる。
目を着けた灰色の目の冒険者が、黒髪の女を見る目だ。自分にはまったく興味を示さなかった男が、黒髪の女に惚けた視線を向けていた。黒髪の女は明らかに自分より年上の、いかにもその辺に転がっていそうな特徴の無い女だ。顔もスタイルも若さも自分が数段上なのに、あの灰色の目の男が黒髪の女に向ける視線は物語っている。
あんな女に負けた、激しい屈辱が沸き上がる。
刺すような視線を投げつけていると、ふいに、黒髪の女が視界から消える。違う、遮られる。白い毛並みのウルフによって。ウルフは片目だけで、ちらり、と視線を投げつけた。
ぞくり。
背中に走った悪寒。
何故か分からないが、悪寒が走った。
4人には分からない、それは絶対的に強者であると、本能の何処かで察知していたのを。絶対に歯向かってはいけない相手だと、警戒が、悪寒となって現れただけ。
だが、それは一瞬。ウルフは鼻で嗤うように、ふん、と顔を背けた。
腹がたった。その本能が報せてくれた警戒を、無視して、腹がたった。
無性に腹がたった。
たかが、魔物のくせに、爵位を持つ自分達を嗤った。それが許せなかった。
怒りは、主人である黒髪の女に向かった。
どうしてやろう、あの女。
そんな風に考えていると、妙にこちらを見ている男に気がついた。赤毛の若い獣人だ。透き通るような青い目の、幼さが残る庇護欲を駆り立てるような少年。
じっと、こちらを見ている。
4人の落ちた機嫌が一気によくなった。
ほら、やっぱり。自分達の誰かの魅力に落ちたのだ。やはり若さに美しさは、あの特徴のない女なんかと比べられない。貴族という、生まれ持ったものに、勝るものはない。
赤毛の獣人は、こちらに向かって歩いてくる。
若いくせに、積極的、だが、悪くない。
跪かせてやる。
ふん、と顎をあげていると、若い獣人は素通り。
呆気にとられて、獣人を見やると、あの黒髪の女にキスをしていた。女達の角度から見て、あれはキスだ。
次の瞬間、黒髪の女のあまりにも醜い狼狽に、いらついた。
わざとらしい、むかつく、むかつく、むかつく。
あの女、どうしてくれようか。
ホテルに帰り、罵声を浴びせ、ワインを自棄飲みし、頭を寄せあって考えたのは、学園在学中にやったことだ。
悪い噂を流しに流して、マーファにいられなくしてやる。
情報収集したら、面白いように集まってきた。
ドラゴン、パーティーハウスの長期使用、御用聞き、仕立屋、多額の寄付、スラム街の孤児院、スカイランへの長期に渡る移動、日帰り依頼、冷蔵庫ダンジョンから零れた魔物、そして救命した冒険者、5匹の仔、高齢の両親…………そして、特定の男がいそうでいない。唯一、あの灰色の目の冒険者がそうではないか、と言う話だ。
ほとんど好意的な話ばかりだったが、使えそうな話だけピックアップし、脚色し、それとなく、いかにもみたいに話した。人が集まる場所で、故意に。
結局、浅はかな考えが、4人の首を絞めることになる。
アリーチャ・ウルガー。ウルガー伯爵家の次女。赤毛のロングヘアーだ。オスヴァルトとエドワルドのウルガー家は子爵で、アリーチャの伯爵家は本家に当たる。彼らとは父方の従兄弟だ。ダイチ・サエキのたった1人の孫娘が、分家のウルガー家に嫁いだ。アリーチャはダイチ・サエキとは血の繋がりはない。ただ、ウルガー子爵家はみな優秀。オスヴァルトとエドワルドの長兄が、時期宰相候補と言われて、ウルガー三兄弟とユリアレーナ内では有名人だ。今ではウルガー子爵家が本家に取って変わるのではと噂されているほどに。ウルガー伯爵家は、主要を守る騎士団の事務に携わっている。長女はゲオルグ王子のお妃レースに参加。
ロベルタ・テルツォ。こちらも古く歴史のある伯爵家の四女。茶髪のロングヘアーだ。当主である父親は首都の商人ギルドの要職に就いている。兄は王立学園で教鞭を取り、長女はシーラに嫁ぎ、次女は王立楽団に所属し、三女はジークフリード王子のお妃レースに参加している。
ヴァンダ・キント。自身の商会を持つ伯爵家の三女。金髪のロングヘアーだ。扱うのは宝飾品で、大型の工房と、相応の職人を抱え、デザインと質がよくユリアレーナでも代表する有名店だ。跡取りの長女は優秀な伴侶を得て、工房と商会をもり立てている。次女は商会の事務に勤めて、支えている。
生まれや家族は恵まれていた。ただ、優秀な兄や姉がいたため、どうしても比べられたりしたが、甘やかされていたのは否定しない。上の子供には、親の期待をかけられて、厳しく育てられた、末っ子の4人は、言葉は悪いが放置気味だった。だが、家庭教師はつけたし、学びたいものがあれば、我慢させずに習わせた。貴族女性として相応しい様にと、与えられらるものは、すべて与えた。
だが、結果はあれだ。
なんとか王立学園に入ったが、素行が悪いと何度呼び出されたか。このまま首都にいたら、家の恥になる何かをやらかしそうだった。特にお妃レースに関わっていた家にとっては、醜聞にしかならない。なので冒険者として、家族と切り離し、生活できるだけの支援をして、首都から出した。時期を見て、そこそこの相手に嫁がせる。そう各家が考えていた。
だが、2年後にもたらされたのは、マーファを治めるダストン・ハルスフォン伯爵夫人、イザベラに対する傷害未遂が飛び込んできた。それから、王家から注意がされていた、あのテイマーに対して、有りもしない噂を流して、マーファを混乱させたとして苦情がきた。ハルスフォン伯爵に対しては、なんとか示談に持ち込み、そして多額の保釈金を支払った。抜刀していなかった事がせめてもの救いだった。
だがその後各当主と夫人達が城に呼ばれ、宰相による『厳重』注意がなされた。帰り際に、目が笑っていないダイチ・サエキにまで、言い様のない圧をかけられ、エレオノーラからは回りくどく言われたが、お妃レース脱落を告げられ、逃げるように城を後にした。
娘達の処遇を考えていた数日後、マーファにあるナージサ侯爵経営のサロンがテイマーから依頼を受けて貰えなかったこと。キント家がオーナーである女性工房主が、わざわざマーファまで行ったのに、ギルドの宝飾品エリアから閉め出されたこと等が伝った。ユイがマーファに帰り着いたその日に絡み、ユリアレーナ冒険者ギルド本部が下したのは、冒険者資格剥奪。首都の各家に通達された。当のユイは冷蔵庫ダンジョンにいたため知りようもないし、わざわざリティアが話すことはなかった。ユイの性格なら気にするかも知れないと案じたためだ。あの時、ユイが被害届を出していたら、冒険者資格剥奪では済まない事態だったのだが。ハルスフォン伯爵とエレオノーラとフェリアレーナを想い、踏みとどまった故の処置だ。
各家は頭を抱え、通信手段が限られた世界で、4人に首都へ戻るように転移門を使用し、手紙を飛ばすことができるのに、時間を要してしまった。
マーファで騒ぎが起きる前。女4人がマーファに来て直ぐ、懲りもせず、ダンジョンに行きたくなった。
マーファには冷蔵庫ダンジョンがある。
低階層くらいならとたかをくくり、一緒にダンジョンに行く冒険者をギルドで物色していた。
1人、見た目が良さそうな男性冒険者を見つけた。20代後半、軽装だが、腰には剣を下げているから冒険者だ。近くにいるのは明らかにまだ新人の少年2人しかいない。4人が選ぶのは必ず男性のみのパーティーだ。女がいると厄介だから。
早速アプローチした。
「ねえ、私達と一緒にダンジョンに行かない? こう見えても私達全員攻撃魔法が使えるし、回復魔法も使えるのよ」
バレンティナが魅惑的な笑みを浮かべて話しかける。男は灰色の目で、なかなか顔立ちがいい男だ。残り3人も後ろで自信満々に笑みを浮かべている。これでだいたいの男は落ちる。攻撃魔法が使える、それは冒険者としては魅力的だ。純粋な魔法職が少ないため、攻撃魔法が使える者は重宝される。それに自分達には自信があった。女としての魅力が。案の定、見習い2人は困惑の表情を浮かべている。だが、男性冒険者の答えは呆気ないものだった。
「俺達は別の人達とダンジョンに行くので、他所を当たってください」
はっきり断られた。
いつもなら、こちらをじろじろ見ながら、どうしようか悩む様な仕草があるのに、男はそっけなかった。
「私達、攻撃魔法が」
「他所を当たってください」
男はつれない態度を変えない。困惑気味の見習い2人も、興味が失せたような顔だ。
腹がたった。
自分たちの容姿には自信があったし、男ばかりのパーティーなら、女に飢えて、簡単に落とせる自信があった。
腹がたった。無性に腹がたった。わざわざ、声をかけてやったのに。
「どうした?」
そこに剣士が2人。1人は盾を背負い、いかにもベテラン感がある。どうやら灰色の目の冒険者のリーダーのようだ。男臭い感じだが、リーダーさえ落とせばどうにかなる。
「ねえ、私達、攻撃魔法が全員使えるの、一緒にダンジョンに行かない?」
「他所を当たってくれ」
リーダーらしき短髪の男の返事は早かった。そして、その目には白けた色が浮かぶ。自分達が冒険者の格好だけだと、直ぐに見抜いた目だ。バレンティナはこれ以上言っても無駄だと直感。以前も直ぐにエセだろ、と見抜かれたことがあったからだ。その時と一緒だ。この類いの連中は、自分達の魅力では落ちないと。諦めかけた時。
「あ、ユイさんっす。リーダー、ユイさんっす」
見習い1人が弾んだ声を上げる。
「ハジェル、語尾。行くぞ」
短髪のリーダーはメンバーを連れてバレンティナ達に背を向けた。自分達に挨拶もしないで、と腹がたった。腹がたったが、男達の先にいたのは、白い毛並みの巨体なウルフとジャガーだ。息が止まった。首都にいた時に、テイマー部隊がいたため、従魔がそこまで珍しい存在ではなかったが、あれは別格だ。体躯もでかいが、毛並みの美しいこと。主人は黒髪の女だ。一瞬、言葉を失ったが、次の瞬間、バレンティナの逆鱗に触れる。
目を着けた灰色の目の冒険者が、黒髪の女を見る目だ。自分にはまったく興味を示さなかった男が、黒髪の女に惚けた視線を向けていた。黒髪の女は明らかに自分より年上の、いかにもその辺に転がっていそうな特徴の無い女だ。顔もスタイルも若さも自分が数段上なのに、あの灰色の目の男が黒髪の女に向ける視線は物語っている。
あんな女に負けた、激しい屈辱が沸き上がる。
刺すような視線を投げつけていると、ふいに、黒髪の女が視界から消える。違う、遮られる。白い毛並みのウルフによって。ウルフは片目だけで、ちらり、と視線を投げつけた。
ぞくり。
背中に走った悪寒。
何故か分からないが、悪寒が走った。
4人には分からない、それは絶対的に強者であると、本能の何処かで察知していたのを。絶対に歯向かってはいけない相手だと、警戒が、悪寒となって現れただけ。
だが、それは一瞬。ウルフは鼻で嗤うように、ふん、と顔を背けた。
腹がたった。その本能が報せてくれた警戒を、無視して、腹がたった。
無性に腹がたった。
たかが、魔物のくせに、爵位を持つ自分達を嗤った。それが許せなかった。
怒りは、主人である黒髪の女に向かった。
どうしてやろう、あの女。
そんな風に考えていると、妙にこちらを見ている男に気がついた。赤毛の若い獣人だ。透き通るような青い目の、幼さが残る庇護欲を駆り立てるような少年。
じっと、こちらを見ている。
4人の落ちた機嫌が一気によくなった。
ほら、やっぱり。自分達の誰かの魅力に落ちたのだ。やはり若さに美しさは、あの特徴のない女なんかと比べられない。貴族という、生まれ持ったものに、勝るものはない。
赤毛の獣人は、こちらに向かって歩いてくる。
若いくせに、積極的、だが、悪くない。
跪かせてやる。
ふん、と顎をあげていると、若い獣人は素通り。
呆気にとられて、獣人を見やると、あの黒髪の女にキスをしていた。女達の角度から見て、あれはキスだ。
次の瞬間、黒髪の女のあまりにも醜い狼狽に、いらついた。
わざとらしい、むかつく、むかつく、むかつく。
あの女、どうしてくれようか。
ホテルに帰り、罵声を浴びせ、ワインを自棄飲みし、頭を寄せあって考えたのは、学園在学中にやったことだ。
悪い噂を流しに流して、マーファにいられなくしてやる。
情報収集したら、面白いように集まってきた。
ドラゴン、パーティーハウスの長期使用、御用聞き、仕立屋、多額の寄付、スラム街の孤児院、スカイランへの長期に渡る移動、日帰り依頼、冷蔵庫ダンジョンから零れた魔物、そして救命した冒険者、5匹の仔、高齢の両親…………そして、特定の男がいそうでいない。唯一、あの灰色の目の冒険者がそうではないか、と言う話だ。
ほとんど好意的な話ばかりだったが、使えそうな話だけピックアップし、脚色し、それとなく、いかにもみたいに話した。人が集まる場所で、故意に。
結局、浅はかな考えが、4人の首を絞めることになる。
2,675
あなたにおすすめの小説
私を裏切った夫が、後悔しているようですが知りません
藤原遊
恋愛
政略結婚として、公爵家に嫁いだ私は
愛のない夫婦関係を「仕事」だと思い、正妻の役目を果たしてきた。
夫が愛人を持つことも、
その子を屋敷に迎え入れることも、黙って受け入れてきた。
けれど――
跡取りを、正妻の子ではなく愛人の子にする。
その言葉を、人前で軽く口にした瞬間。
私は悟ったのだ。
この家では、息子を守れないと。
元々、実家との間には
「嫡子以外の子は実家の跡取りにする」という取り決めがあった。
ならば話は簡単だ。
役目を終えた私は、離縁を選ぶ。
息子と共に、この家を去るだけ。
後悔しているようですが――
もう、私の知るところではありません。
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~
水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」
夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。
王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。
「左様でございますか」
彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。
恋は、母をやめてから始まる――正体を隠したまま、仮の婚約者になりました
あい
恋愛
両親を失ったあの日、
赤子の弟を抱いて家を出た少女がいた。
それが、アリア。
世間からは「若い母」と呼ばれながらも、
彼女は否定しなかった。
十六年間、弟を守るためだけに生きてきたから。
恋も未来も、すべて後回し。
けれど弟は成長し、ついに巣立つ。
「今度は、自分の人生を生きて」
その一言が、
止まっていた時間を動かした。
役目を終えた夜。
アリアは初めて、自分のために扉を開く。
向かった先は、婚姻仲介所。
愛を求めたわけではない。
ただ、このまま立ち止まりたくなかった。
――けれどその名前は、
結婚を急かされていた若き当主のもとへと届く。
これは、
十六年“母”だった女性が、
もう一度“ひとりの女”として歩き出す物語。
悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~
咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」
卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。
しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。
「これで好きな料理が作れる!」
ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。
冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!?
レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。
「君の料理なしでは生きられない」
「一生そばにいてくれ」
と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……?
一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです!
美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!
白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』
鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」
公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。
だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。