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再び、首都へ②

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 こちらにも宗教はいくつもある。
 大多数は始祖神様を含めた神様達を崇める始祖教。
 始祖教は、この世界に生まれるすべての魂は、始祖神様達の愛に包まれている、という考え。始祖神様から生まれた時空神様や雨の女神様、誰を信じようがすべて行き着くのは始祖神様。だから、主要十神様の誰を信じようが、皆一緒。
 それから古くから地域で信仰されている土地神様だ。別の神様だからと言って始祖教と対立することないそうだ。
 で、始祖教にも派閥がある。
 皆一緒と言う考えの原始派、なので、私が言った「神様皆信じてます」と言うのは、始祖教の考えだそうだ。あの教会やマーファの教会は原始派ね。もう一つ派閥があり、極右派だ。
「極右派といってもこれも分かれます」
 ホークさんの説明が続く。
 極右派は2つある。
 その1つは人族が多い世界で、人族だけのコミュニティーがあり、そこで古くから信仰されている古神派。どうしても通信手段が発達してない世界で、他の種族と接しないままなんてざらにあるそうだ。それで生まれた宗派だ。人族だけの神様、という考え。人族以外を知らない人達が信じている。これは土地神様と同じ様に考えられている。古神派は静かに信仰されていて、トラブルとかは聞いたことないと。
 で、問題があるのが革新派。
「これが問題なのは人族至上主義が過ぎる事です」
 ホークさんがため息。チュアンさんが続ける。
「革新派はそこまで新しいものではありません。考え方は古神派と同じとされていますが、もう別物です」
 革新派の考えはこう。
 人族がなぜこの世界に多いのか? それは神が愛を与えているからである。だから、人族こそが世界の為にあり、他の種族はその手足にすぎない。だから、人族が他の種族より上に立ち、支配下に置かなくてはならない。他の種族は人族に従わなくてはならない。そして神は御一人のみ。始祖神様のみが、すべての神であり、全知全能である。時空神様や雨の女神様等は、始祖神様の支配下にあり、同列に並べたり、そこから始祖神様に行き着くのはあり得ない。まったく別物だと言う考えだ。
「そして、人族は彼らから搾取しても構わない、他の神を信じている者を虐げるのは当たり前で、始祖神様と同列に扱うという愚行を正すのが、革新派の考えです」
 なんやそれ?
「そんなことしたら、反感が出ません?」
「出ますね。実際、原始派とは水と油ですよ」
 チュアンさんはため息。ちなみにチュアンさんを始め鷹の目の皆さんは原始派。
「ずっと昔は古神派と同じように静かに信仰されていたそうですが、ここ最近、かなり派手にやっています。つまり金儲けですね。随分と、えげつないですよ」
 うわあ、チュアンさんの口から「えげつない」って。
 この極右派がなぜ最近頭角を現して来たかは、この大陸の西側にある国が国教として定めた事が始まりだ。西側は人族が多いためだそうだが、別の種族の人達はたまったものじゃない。当然反感が出て、あちこち衝突が起きた。で、反感を持ち騒動を起こしたら、人族以外の種族は奴隷落ち、みたいな事が平気で行われたそうで。それから人族以外はちょっとした罪でも直ぐに重犯罪奴隷で、奴隷の子は奴隷。なんか聞いたよ、ディードリアンさんから。そう言えばあの時ディードリアンさん、鎖に繋がれた獣人の子供に痛々しい視線だったなあ。ディレナスでも、その革新派が貴族中心に増えているそうだ。権力者がそうなっていくと、下の人達は従うしかない。
「同じ神様を信じても、まったく考えが違うんですね」
「もう既に原始派は革新派と袂を分けてますよ。はっきりと宣言もされていますから」
 革新派は大陸の西側を中心に展開しているが、こちらにも出てきているそうだ。なんで出てこられているかは、こちら側の国は国教を定めてないからだ。信じる神様は、個人の自由だからだ。
 ドワーフの王様が治めているシーラや、エルフの王様が治めているクラインでは爪弾きされてる。そりゃそうだね。だけど、何故か各国にいるそうだ。
「なんでいるんですか?」
「革新派を信じなくても、彼らの持つ力を必要とする人達がいますから」
「それは?」
「聖女ですよ。革新派は多数の聖女を抱えているんです」
 う、思い出したくないワードが出た。
 革新派はどういう手段か不明だが、聖女候補の少女を各地で探しだし、教育し、育て上げている。
「革新派に求めるのはその聖女が持つ『聖女の奇跡』だけです。重病や体の欠損を癒す、再生魔法目当てです。その再生魔法は私の治療魔法の最上位魔法ですが、使いこなせるのは本当にごく僅かで、聖女以外でユリアレーナでは今日お会いした枢機卿のみです。この再生魔法、受けるのはかなりの高額です。理由は様々ですが、それを使えるのは枢機卿しかいないためある程度の額にしないと殺到してしまう事が挙げられます。革新派はその再生魔法、つまり『聖女の奇跡』を使い、枢機卿の倍、いや、何倍もの額を要求しています。それでも求める人はいますから」
 だから、どの国でもいるわけね。
「首都にもいますかね? あんまり関わりを持ちたくないです」
「はい。革新派はユリアレーナには首都にしかいません。ただ向こうからはユイさんに関わらないですよ。彼らはテイマーと言う職業を嫌ってますから。魔物と通じるのは、それは既に人族ではない、神をも恐れぬ汚れし者だと声高に言ってます」
 肩を竦めるチュアンさん。
「なので各地にいるテイマー部隊とは、一切関わりを持ちませんし、排除しようと騒動を起こすこともあります。ただ、そんな事はすんなり通りませんよ。テイマー部隊はれっきとした部隊ですからね。それにユリアレーナの建国時に尽力したユリ・サエキ様はテイマーですからね、この国では重きを置かれてます。特にユイさんに何かしようとすれば、首都の騎士団が黙っていないでしょう」
『私達も黙ってないのです』
『止めるわよ』
「だから何を? 息の根? 守ってくれる気持ちは嬉しいけど、過激にせんで、威嚇ぐらいにして」
 恐ろしい事になりそう。ビアンカとルージュが、ぶー、みたいな。鷹の目の皆さん、慣れてきてる。流石、みたいな顔だ。
 だけど、あの時オスヴァルトさんがほっとした表情を見せたのは、私が革新派でないから安心したんだね。まあ、テイマーだから、革新派でないとは思っていたはずだけど。私は宗派とはよく分からないが、神様は信じている。だって、お会いしたし、この『ルーム』だって『神への祈り』だってすべて神様から頂いたものだしね。私達の生活は神様から配慮してもらったから何とかなっているだけ。
「関わりたくないし、こちらから関わらない方向で」
「「「「「「はい」」」」」」
 どこにも宗派とかいろいろあるんやね。関わらないようにせんと。
「ホークさん、チュアンさんありがとうございます。さ、ご飯にしましょう。明日はマルシェに行くから早起きですからね」
「「「「「「はい」」」」」」
 この革新派と接触するのはしばらく先の話になる。
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