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連載

試運転③

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 仔達が玉遊びしている様にしか見えない。ほのぼの。
「わんわんっ」
「わんわんっ」
「わんわんっ」
「にゃーっ」
「みゃーっ」
 本人達は至って本気なんだろうが、ほのぼの。
 黒いバスケットボールは不規則に動いて、なかなか的が絞れない様子。元気は尻尾ブンブンしているから、ありゃ、遊んでいると勘違いしてるな。
 ルージュが黒いバスケットボールを追加して出す。
『さあ、皆。周囲にも注意しなさい。敵は正面からだけ来ることはないわ』
 そう言うと、黒いバスケットボールの動きが加速。
「きゃいんっ」
 ルリの足元を掬い上げ、回転、背中を打ち付ける。
『ルリ、敵に腹を見せたら最後よ。注意しなさい。クリス、前ばかり見てはダメよ』
 ルージュの注意と指導が飛ぶ。
「きゃいんっ」
 クリスが正面の黒いバスケットボールに飛びかかった瞬間に、横から攻撃が来て、転がっていく。
『全身に魔力を流しなさい。そうすれば力だけじゃない。スピードも上がるわ。動きも格段に良くなるし、周囲を把握しやすくなるわよ』
 なんか、スパルタ気味なんやけど。
「ルージュ、厳しくないね?」
『これくらいしないと。多方向からの攻撃に耐えられないわ。それに私達は発現系を使うわ。その時周囲を把握していないと、誤射に繋がるし、そうされても避けられないわ。ユイ達もケガじゃ済まないのよ』
「そ、そうな」
 ルージュが正論なんだろう。私は黙る。
 元気とコハクはなんとか黒いバスケットボールを破裂させてる。あの弾力がある黒いバスケットボールを元気は噛んで破裂。コハクはベビージャガーパンチで破裂させてる。まあ、コハクのベビージャガーパンチはGの首をへし折るからねえ。ヒスイは完全に玉遊びだよ。べしべししてるけど、まったく割れない。ヒスイも足元を掬い上げられているが、立ち上がりが早い。猫系だからかな?
『ほら。魔力を全身に隅々まで行き渡らせなさい。これは基本よ。これが出来れば、効率よく少ない魔力で戦闘が進むわよ』
 そうなのかね?
 私は隣のチュアンさんに聞いてみる。
「そうですね。ルージュさんが教えているのは、私達で言う身体強化ですね。私とホークが使っています」
 チュアンさんが説明してくれる。
「簡単に言いますと、自分で自分を支援しているような状態です。これが出来れば身体強化の最中は、常に力やスピードが上がります。ただ、使いこなすには鍛練が必要ですし、保有魔力、そして魔力を巡らせるだけの集中力が必要です。属性魔法がないものは、無属性魔法を覚醒しなくてはなりません」
 なるほど。そういえば、晃太のスキルアップの依頼の時、Dランク以上の人はほぼ無属性魔法があった気がする。
「そうですね。これが出来れば1人前から中堅になります。ある程度の魔物を相手にするなら、この身体強化があるとないとでは、戦闘に差が出ますしね。身体強化出来れば、武器強化にしてもかなりスムーズに発動します」
「なるほど。勉強になります。私も出来たりしますか?」
「理論上出来ますよ。誰にでも魔力がありますから、無属性魔法の覚醒をさせる事ができます。ただ、鍛練が必要です。ひたすら魔力を操り流して覚醒したら、自然と身体強化も出来るようになります」
「ほうほう」
「ただし、ユイさんはまだダメですよ」
「うっ」
 まだ中毒症でした。あと数日でなんとかなりそうなんだけど。
 うむ、とチュアンさんが悩む。
「ユイさん、ミゲル達の魔力訓練をしてもいいですか?」
「はい、いいですよ」
 早速チュアンさん、マデリーンさんの指導でミゲル君達の訓練が始まる。鷹の目の皆さんは毎朝早くに起きて、よく訓練をしている。ストレッチやジョギングが主で、その次に素振りをしている。マデリーンさんは素振りには参加せず、瞑想している。
 魔力訓練に晃太も参加している。
 晃太はやはりGの巣で、ヒスイにたどり着けなかったのを気にしていて、よく訓練に参加している。やはり支援魔法の件もあるが、自身のレベルアップもすれば保有魔力も増える、無属性魔法の覚醒もすれば戦力アップにも繋がると。私はまだ魔力を流すのが怖いし、中毒症だからね、見てるだけ。
 元気達のルージュによる戦闘訓練は続く。元気とコハクはこつを得たのか、次々に黒いバスケットボールを破裂させている。ルリとクリスとヒスイは苦戦している。
『ルリ、クリス、ヒスイ、集中しなさい。耳を済まし、空気の揺れを感じるのよ』
 なかなか難しそうな事を言ってるよ。
 しばらくしてやっと訓練終了。
『ねえね~』
『いちゃい~』
『にゅー、にゅー』
 ヒスイ、ルリ、クリスが情けない声で私に駆け寄ってくる。
「はいはい、お疲れ様。頑張ったね。晃太、牛乳出して」
「ん」
 晃太が皿を出して牛乳を入れると、興奮したままで走り回っていた元気とコハクもやって来た。勢いよく飲んで、三人娘はおねむの態勢になる。コハクも一呼吸して丸くなり、元気は牛乳を晃太に催促。
「いたかっ、いたかっ」
 前肢で晃太の足をバリバリ。元気の足は太い。まあ、母親のビアンカが大きいからね。仕方ないけど、まだ子供だからパワーの加減が利かない。晃太が追加で牛乳を皿に入れる。それでやっとおねむさん。かわいかね。元気以外は丸くなっているのに、元気だけ大の字だ。もう、男の子丸出し。ふふん、かわいかあ。
「ユイさん、いつもこんな感じなんですか?」
 そっとシュタインさんが聞いてくる。
「いえ、あの黒いのは私も初めて見ました。あんなに本格的なのは初めてです」
「そ、そうなんですか」
 ミゲル君達の魔力訓練に触発されてか、マアデン君とハジェル君も一緒に訓練していた。それも終わり、お茶で一服。アルスさんは元気達と混ざってお昼寝している。
 寝顔、かわいかね。
 ………………は、いかん、変質者臭がしてきた、自分が。
『ユイ、ビアンカ達が帰ってきたわ』
「そうね」
 視線を走らせると、ホークさんを乗せたノワールが爆走して戻ってきた。
「ブヒヒーンッ」
 ノワールは前肢で空中をかく。あははん、すごい迫力。
「お待たせしました」
 ホークさんまで汗びっしょり。
「やはりノワールは聞き分けがいいですね」
「そ、そうなんですか?」
「ブヒヒンッ」
 ホークさんが身軽に降りる。さすが、格好いいなあ。
「ユイさんを乗せるには、数日、時間を頂けますか?」
「はい」
 私は汗びっしょりのホークさんにタオルを渡す。
「ありがとうございます。ふう、暑い」
 水も出すと、一気に飲み干す。よく見たら鎧の下のもへじ生活の服までびっしょりだ。
「このままにしていたら風邪引きますよ。帰ったらシャワー浴びて着替えてください」
「はい」
 ノワールには晃太が水を飲ませる。
「ビアンカもお疲れ様」
『暑いのです。冷たいアイスが食べたいのです』
「はいはい、今日は特別ね」
 そろそろお昼だ。
「さあ、帰りましょうかね」
 振り返る。
『ダメなのです』
『ユイが困るわ』
 顔面までに迫ったキラキラの青い目、さっきまで元気と並んで寝てたやんっ。パーカーをビアンカとルージュが咥えて止めてくれている。
 ホークさんがぐいっと後ろに引き寄せてくれる。
「アルスーッ」
「あんたって子はーッ」
 ファングさんとリィマさんの声が通り抜ける。いかん、かわいか未成年の男の子のドアップ、くる、三十路女の心臓にくる。はー、はー。
「ユイちゃん」
 こてん、とアルスさん。やめて、ユイちゃん、きゅんきゅんする。青い目、かわいか。無邪気でかわいか。いかん、16歳の男の子にかわいかは、いかんね。耳がピコピコ、こてん、かわいか。はー、はー。
「お腹減った」
「お昼、ご馳走しますよ。皆さんもご一緒にどうぞー」
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