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覚醒⑨

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「ルリ、クリス。ばあばよ、ばあば」
「じいじだよ~」
 両親が必死に誘導尋問。
 ヒスイの時はうまく行ったが、なかなかルリとクリスから出てこない。
『ばあば、じいじ』
「そうよヒスイ。ばあばよ」
「じいじだよ~」
 ヒスイが連発。両親が、おお、よしよしとヒスイをもふもふ。そしてルリとクリスをちらり。ヒスイに触発されるかな?
「くうーん」
「くうーん」
 上手くいかんなあ。
 しばらくしてやっと、気配が。
 私はそっとスマホを構える。
『ばぁば? じぃじ?』
『ばーば? じーじ?』
「そうよ、ばあばよーっ」
「じいじだよ~」
 でれれれん、と破顔する両親。我が親や。
 うむ、よき映像取れたね。
 元気とコハクも加わり、もふもふの海が発生。嬉しそうに沈没する両親。
 夕御飯はブラックツナたっぷりの豪勢な丼にした。仔達も大好きだしね。デザートにはうららのプレーンパンケーキを付けて、と。ビアンカとルージュは色々注文するので、タップタップと。
 私達もたらふく食べる。げふう。
「姉ちゃん、明日からどうするん?」
 晃太が爪楊枝で、しーしーしながら聞いてくる。
「そうやね。まずは依頼の確認。そん時に秋のグーテオークションの相談してから、ノワールの鞍ば受け取りに行って、玄武のドロップ品相談やな。あ、ダワーさんにも会えるか聞かんとね」
 結構忙しか。
 しかも時期は夏。冷蔵庫ダンジョンは、夏は余計に暑いそうだから、動く時間を考慮しないと。
「ホークさん、明日時間があればノワールに乗ってみます?」
「そうですね。おそらく時間はかからないと思います。ノワールは素直ですから」
「私という荷物を抱えるので、そこんとこはよろしくお願いしますね」
「お任せください」
 頼もしか。
 で、次の日。
 御用聞きの冒険者と総出でギルドに向かう。
 すぐにいつもの応接室に。
 ホークさんとテオ君だけついて、残りはロビーで待機だ。
 すぐにリティアさんがやって来た。
「ミズサワ様、昨日は対応が遅れ申し訳ありません」
「いいえ、騒ぎになったのに最後は押し付けるような事になってしまって。あの人達どうなりました?」
「警告はしました。ただ、大声を出しただけですし、もし、ミズサワ様が名誉毀損で被害届けを出されるなら色々対応出来ます」
「被害届けですか?」
 うーん、どうしようかなあ? 昨日結局ビアンカとルージュが気絶させたしなあ。サエキ様の名前も出したし。それに私が騒いでエレオノーラ様やサエキ様に迷惑かけるのはなあ。フェリアレーナ様の輿入れもあるし。うーん。
「今回は見送ります。何を言われても、私には信じてくれる家族がいますし」
「マーファのギルドも、ミズサワ様のお側におります」
「ありがとうございます」
 嬉しかあ。
「それで依頼ですが。私達が出来そうなものはあります?」
「マーファにミズサワ様に出来ぬ依頼はございません。現在必要とされているのはバーザ」
 はい、蛇、シャットアウト。
 だが、どこも蛇のポーションを待っている人達は多い。鮫のサプリメントもそうだしね。あのザイーム様もそんなこと言ってた。手術なんてことが出来ない世界だ、ポーションやサプリメント、魔法に頼るしかない。
「21階の乳製品や、ホワイトアルメナの依頼が多いです。フレア紅やアルガン、ミストローズも好評なんです。それからフレアタートルの依頼もございます」
「20階以上のドロップ品ですね。期限はありますか?」
「直近のものが2週間ですね。シーサーペントの牙と鱗ですね」
「分かりました。20~25階を中心に回ります。26階以上は次回でも大丈夫ですか? どれだけ確保できるか分かりませんが、準備を整えて冷蔵庫ダンジョンに行きます。ただ、暑いと思うので、以前のような数にはならないかもしれません」
「それでも構いません」
 依頼はこれでいいかな。あ、いけん。
「リティアさん、首都のリンデン工房からの依頼はあります?」
「リンデン工房ですか。お待ちください」
 リティアさんは書類の束を出して、ぱぱぱ、とチェック。
「ございます。シーサーペントの牙ですね。羽系もありましたが、こちらは別の冒険者が依頼をこなしています」
「首都でよくしてもらったので、リンデン工房を優先してもらえます?」
「承知しました」
 これでよし。それから秋のグーテオークションについても相談。
「寄贈したいのですが、どういったものがいいか品定めしていただきたくて」
「それでしたらタージェルが適任です。話を通しておきます」
「お願いします」
 ダワーさんとも2週間後に面会する手はずを整えてもらう。ダワーさん忙しいんだね、やっぱり。
 リティアさんに挨拶して、チュアンさん達と合流して、倉庫に向かう。そこには防具類を扱う工房主さんが勢揃いしていた。やはり、玄武のドロップ品見たさだ。晃太がアイテムボックスから出すと、私達そっちのけ。
「これが玄武かあ」
「いやあ、素晴らしいな、ドラゴンとひけはとらん」
「だが、加工となるとどうなる? ワイバーンと比較にならんぞ」
 わいわい。
 結局。
「「「「「時間をください」」」」」
 はい。
「そうだ。シーサーペントの鱗、あれで何か出来ます? 晃太、出して」
「ん」
 近いテーブルに出すと、再び私達そっちのけ。
『ユイ、つまらないのです』
『時間かかる? コハクが飽き出したわ。元気もほら』
 1人の職人さんのポケットかじる元気。こらこら。
 職人さんはびっくりしてたけど、元気を撫でて許してくれた。
「これは誰の装備品になりますか?」
 かなり歳の職人さんが聞いてくる。
「えーっと、特に決めてはないのですが」
「これは潜在付与が高品質の水属性があります。防具を作るなら水属性があるものが最適です」
 なるほど。
「うちには3人、水属性保持者がいます」
 マデリーンさんと、ミゲル君、テオ君だ。
 だが、マデリーンさんは辞退。水魔法は使えるが、あまり得意ではないため、ミゲル君とテオ君の防具に回してと。
「フム」
 お歳の職人さんは、まずミゲル君をチェック。
「この革鎧まずまず上質、これは勿体ないので、この鎧に被せるように鱗を加工した方がよろしいでしょうな」
「なるほど」
「で、こちらの少年、おそらくまだ背が伸びるはず。それを鑑みて、このチュニックの上から着る形はどうでしょう?」
「お願いします」
 私はそのお歳の職人さんにミゲル君とテオ君の鎧をお願いした。
「それでも残りますが。どうされます?」
「そうですね…………鱗で剣とか作れません?」
「出来ますよ。長さ的にはこれくらいですな。鞘を含めて」
 私の腕の長さだ。話がトントン拍子に進む。
「ずるいぞフロイスさんっ」
「そうだっ、そうだ、全部持っていきやがってっ」
「交渉力と言っておくれ」
 大ブーイングが飛ぶ。
「だが、お前さんがた、この上位シーサーペント、加工する自信あるのか? 剣に出来るか?」
「「「「きぃっ」」」」
「ではテイマーさん、この仕事は儂がお受けします。書類作成いたしますので」
 まずはミゲル君の鎧に加工するため、一旦鎧をフロイスさんに預ける事になる。しばらく無防備になるがしかたない。
 職人ギルドで書類作成し、テオ君のサイズも手際よく測る。
「フロイスさん、もし火属性の革があったら加工出来ます?」
「いや、儂には無理だな。属性を含むものは、扱うものによって得手不得手があってな。儂は水属性が得意でな、逆に火属性が不得意なんですよ」
「そうですか」
 エマちゃんとマデリーンさんに、サラマンダーの革で何か出来ないかと思ったけど。
「火属性の革なら、他の職人が扱えるはずですぞ。モノはありますか?」
「いえ、手元には。その内、軍隊ダンジョンに行こうと思って」
「ほう、軍隊ダンジョンですか。ならば、ワイバーンの革は案外万能ですよ。マントにすれば最高の空調装備ですから」
「空調?」
「はい」
 ワイバーンは加工できる職人がまずまずいて、質もいい。遮断の付与をすれば夏の暑さや、冬の寒さを遮断する。物理防御力も魔法防御力も優秀だと。
 なるほど。使い勝手がいいなら、色々出来るかな。
「フロイスさんはワイバーン加工出来ます?」
「はい、出来ますよ」
「もしかしたらお願いするかも」
「お任せください」
 秋のグーテオークションの後に行ってみよう。マジックアイテムも出るしね。解毒と回復のマジックアイテムが欲しい、特に元気に欲しい。
 私達はフロイスさんに挨拶し、ノワールの鞍を受けとる。うわあ、でかかあ。
 時間に余裕があるし、ノワールの試運転だ。
 ロビーに行くと、ビアンカとルージュが反応。
『ユイ、あの雄達よ』
『ロッシュとかシュタインとかの雄の群れよ』
「山風の皆さんね」
 入り口で見知った面々が。
「「ミズサワさーんっ」」
 わー、とマアデン君とハジェル君。相変わらず元気やなあ。
 後ろにはロッシュさんと、ラーヴさんと、シュタインさん。あら、シュタインさん、髪すっきり。
「皆さん、お久し振りです」
 挨拶しないと。
『ダメなのです』
『ユイが困るわ』
 はい?
 振り返ると、青い、キラキラの目。ちらり、と覗く赤い舌。
 …………………
 数ミリ前で、ぴしり、と止まる。ビアンカとルージュが、パーカーの裾を咥えて止めている。
 …………………
「アルスーッ」
「あんたって子はーッ」
 …………………
 また、三十路女がパニック、起こしそうになる。
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