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覚醒③

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 ルームを飛び出した私は、必死に走る。
 足元に転がるGの死体に構っていられない。
 コハクとヒスイの元にはすでにルージュがたどり着き、頬擦りしている。まだ顔を上げられるヒスイは、嬉しそうに鳴いている。晃太も走りよって行き、コハクとヒスイをチェックして、私に振り返る。
「魔力枯渇と、疲労だけや。その内目を醒ますって」
 少し大きな声で報せてくれる。
 私はほっとする。
 駆け寄り、ケガがないかチェック。
『ねえね~』
「頑張ったね、ヒスイ、えらかよ」
「にゃあ~」
 こてん、と寝るヒスイ。
『よく頑張ったわねヒスイ。しっかりお休みなさい』
 そう言うルージュの赤い目は、優しさに溢れている。
「ルージュ、ケガはない? ビアンカは?」
『大丈夫よ。ビアンカは逃げたやつを、始末に行ったわ』
「そう」
 ノワールもブヒヒンと興奮している。
「皆さん、大丈夫ですか?」
 私は近くで肩で息をしている、ホークさんとチュアンさん、マデリーンさんに声をかける。
「はい、大丈夫です」
「私も問題ありません」
「私は魔力が枯渇していますが、それ以外は」
「分かりました。一旦ルームで休んでください。これは後でどうにかしましょう」
 大きなケガはない。あちこち擦り傷が出来ている。まず、綺麗にキズを洗わないと。私はルームを開けて、ホークさん達を誘導。晃太がヒスイを抱き抱え、コハクをチュアンさんにお願いし、マデリーンさんと入り、ホークさんはミゲル君達の後、最後に入ると。
「ミゲル君、エマちゃん、テオ君は大丈夫? けがは?」
「はあ、はあ、だ、大丈夫です」
「わ、私も、喉乾いて」
「俺も」
「なら、ルームで一旦休んで。ホークさんも休んでください。キズは痛くないように軽くすすいでくださいね。それからポーションを」
「擦り傷程度ですから。これくらいのキズでポーション使ったら耐性出来てしまいますから」
「そうなんですか」
 ポーションも万能じゃないだね。
「では、先に入ってください。ルリ、クリス、おいで」
「わんっ」
「わんっ」
「先にルームに入っとき」
「わんっ」
「わんっ」
 ルリとクリスもケガはない。ルームに大人しく入っていく。ホークさんがノワールを連れて続く。
 さて、問題は。
「わんわんわんわんわんわんっ」
『元気、こっちにいらっしゃい』
「わんわんわんわんわんわんっ」
 興奮状態の元気だ。
 走り回ってる。うわあ、いろんな液体が脚に付いてる。いや、体のあちこちに付いてるぅ。一番汚れてるぅ。
「元気、おいで」
「わんわんわんわんわんわんっ」
 聞いてない。
 何度か呼ぶが、元気は走り回る。
『元気、いい加減にしなさい』
 ルージュが声のトーンを落として言うと、ぴくり、としてへっへっ言いながらやって来た。
『まったく、お前を見ていると兄を思い出すわ』
「わんっ」
 気になる、そのフォレストガーディアンウルフのお兄さん。
 汚れてしまうが仕方ない、私は元気にリードを着ける。
「ルージュ、ビアンカすぐに帰って来そう?」
『そうね。あ、帰って来たわ』
 ルージュが鼻面で示した先に、ビアンカが軽い足取りで戻ってくる。
「お疲れ様ビアンカ、ケガは?」
『ないのです。ゴブリンは始末したのです。辺り一帯にはいないのです』
「そう、ありがとう。とりあえずルームに入ってシャンプーやね」
『そうなのですね。すっきりしたいのです』
『臭いを落としたいわ』
 私はルームを開けて入る。従魔の足拭きをタップ。
 鷹の目の皆さんはとにかく汚れを落とす為に、順番にシャワーを浴びて、着替えている。大きなケガはないようだが、チュアンさんが棍棒で腕を叩かれたようだが、蛇の籠手と晃太の物理防御力アップで大したことないと。だけど、念のために湿布を貼る。
 本当は全員をチーズクリームでシャンプーしたいが、コハクとヒスイが寝ているからどうしようもない。カーテンを閉めて、マーファで待機してもらっている母にヘルプを出す。
 母にコハクとヒスイの浄化をお願いし、絶対にカーテンの向こうをみないように説明。
 まあ、ビアンカやルージュ、特にノワールと元気の汚れ具合を見て察してくれたけどね。
「コハクとヒスイは大丈夫ね? ぐったりしとらんね?」
 従魔の部屋に寝かされているコハクとヒスイの様子を心配する母。
『初めての戦闘モードで魔力枯渇だから、体が驚いているだけよ。じきに目を覚ますわ。大丈夫よお母さん』
「そ、そうね」
 何とか納得している。
「晃太、私皆ばシャンプーに連れていくけん、頼める?」
「ん」
 さて、まずはトップバッターは。
「わんわんっ」
「はいはい、行こうね」

 その日、Gの死体の始末が終わったのは、もう暗くなっていた。
 晃太に支援してもらって、耳を刈り取り、ビアンカに作ってもらった穴に、ルージュが闇の触手で放り込む。ぷりぷり言いながらもやってくれた。
 Gの巣の近くで夜営したくない。ビアンカとルージュとホークさんに付き添われて、移動してからルームを開けた。
 母が水炊きを作ってくれていたが、正直食欲がない。晃太もないと。さすがにあのGの後ねえ。
 食べる前に、やることがある。
 私はお地蔵さん前でお祈り。
「時空神様、今日はありがとうございました」
 あの時止めてくれてなかったら、私は包丁握り締めて飛び出していたはずだ。だけど、やっぱり、私に刃物を持っていくらGとはいえ生物と正面切って戦うのは無理だ。フライパンならいいのかって話だけど、まだ、フライパンの方が私の精神的に楽なのは確か。結局殴り倒すのには代わりないのだけど。フライパンは、だいたい当たるから、便利なんだよね。
 お地蔵さんにお祈り。

 あまり、無理をするな

 あ、今日はお返事あり。
「ありがとうございます時空神様。遅くなりましたが、鷹の目の皆さんにスキルを頂いたお礼を」

 いや、気にしなくていい

 時空神様がそう言うけど、いいのかなあ?
 鮪カツ、たくさん作っているんだけど。最近、かわいか魔法の三柱神様の声が聞こえないのが、寂しいのだけど。

 商い神、いまーすっ
 鍛冶の神もいますっ
 うわーんっ
 お芋さん、お芋さん、お芋さーんっ
 アイス、アイスーッ
 卵の食べたいーっ
 ほっほっほっ
 ここ、俺の空間ッ

 おるやん。

 お久しぶりねー
 今晩は
 今晩はーっ
 こ、今晩は
 プリンがいいーっ
 おるやん
 だから、ここ、俺の空間だってーっ

 おるやん。勢揃いやん。
 私は振り返る。
 すぐ後ろにキラキラと祈りの体勢のチュアンさん。強面、キラキラ。
「神様がいらっしゃいますから、お手伝いしてください」
「はい、ユイさん」
 キラキラ。
 まず母が作っておいた鮪カツを出す。タルタルソースと中濃ソースを小皿に並べる。それからブラックツナを切り出す。お刺身用ね。
 私は液晶画面をタップタップタップ。
 あのマジックバッグコンビがいるならかなりいるね。
 次々にダイニングテーブルの上に出てくる料理を、ホークさんとチュアンさんが並べてくれる。
 みつよしのオムライス・ビーフシチュー付き×5。I市特産野菜サラダ×5。シーフードサラダ×5。国産和牛サーロインステーキ×5。白身魚のソテー×5。明太子とポテトのグラタン×5。ボロネーゼ×3。フライドポテト×5。フライドチキン×3。オニオングラタンスープ×5。
 紫竜の大皿エビチリ×3。大皿エビマヨ×3。油淋鶏×3。唐揚げ×3。五目春巻き×5。海老入り春巻き×5。焼売×8。海老焼売×8。白身魚のトーチ炒め×3。酢豚×3。木耳と卵の炒め物×2。海鮮XO醤炒め物×5。カニチャーハン×3。五目チャーハン×3。鮭チャーハン×3。五目麺×2。海鮮餡掛け焼きそば×2。

 えーっと
 えーっと
 赤いの巻いた卵ーっ

 この声は薬の神様かな?
 八陣から明太子入り卵焼き×5。シーザーサラダ×3。串の盛り合わせ×5。アジフライ×3。イカの天麩羅×3。カレーナンピザ×3。角煮×3。揚げ茄子×3。チキン南蛮×3。黒豚餃子×5。チーズ春巻き×3。温玉つくね×3。焼おにぎり×5。焼きうどん×3。
 こんなもんかな?
 デザート、どうしようかな?

 食べまーすッ
 食べまーすッ

 マジックバッグコンビの声が。
 さくら庵から夏の果物のロールケーキ×5。和三盆のロールケーキ×5。濃厚プリン×10。抹茶のガトーショコラ×5。抹茶のシフォンケーキ×5。抹茶のティラミス×5。桃のタルト×5。A産特選ミルクアイス×10。
 紫竜から、杏仁豆腐×5。ごま団子×5。マンゴープリン×10。
 うららは本日定休日だ。
 こんなもんかな?

 いつもすまんな。こら、ちゃんと座れーっ。
 はーい。はーい。はーい。はーい。はーい。はーい。

 お元気そうで良かった。
 この声がないとね。
 振り返ると、涎をだらだら垂らしたビアンカとルージュが。
 はいはい。
 タップタップタップタップタップ。
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