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首都でも、帰途でも⑦

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 2回目の大漁祭りの4日後、私達はマーファに帰ることになった。
 この4日でいろいろあった。
 アルティーナから、サエキ様の言ったように謝罪が来た。大人げないかと思ったけど、サエキ様の名前を出してお帰り頂いた。それから鷹の目の皆さんとワインの護衛をして亡くなった冒険者パーティーの家族に、お見舞い金が支払われた。私の名前は伏せてもらったが、各家族からはお礼を伝えてほしいと、ギルドを通して来たので、それだけは受け取った。首都の教会にも行ってみた。そこには教会だけで、併設の孤児院はなかった。土地の問題でクレイ港にあると。ただ、孤児院への寄付が集まるのはやはり首都が多いため、私も寄付する。担当していたのはいかにも悪人面だったけど、それは感謝してくれた。悪人面さんはかさかさぼろぼろの手で大事に大金貨が詰まった小銭入れを抱き締めていた。人は見た目と違うね。私達がマーファから来たと分かっていたので、遠慮がちに治験されている小児用の薬を持っていないか聞かれた。
「手元には、ありませんが、具合の悪い子がいるんですか?」
「いえ、そうではありませんが、冬になると体調を崩す子供が多くて。漢方を飲むのが苦手な子供が多いもので毎年苦心しています。マーファで行われている治験薬は、飲みやすい上に、効果がいいと聞いたもので」
「そうですか」
 悪人面さんがほとほと困った顔。
 マーファの治験はここまで評判が流れているんだ。だけどまだ認可されていないのは、データがまだ足りないと。ただ、マーファの治験薬なので、マーファに籍がないと手に入らない。
 どうにかならないかな?
「治験をしている薬師ギルドマスターに相談して、少し手に入らないか聞いてみます。もし、データの提供を求められたらご協力頂けたら。あまり期待しないでください」
 それくらいしか出来ない。
 帰って、ダワーさんに聞いてみよう。ダメなら、レシピあるから、母にお願いして作ってもらおう。作るの結構手間がかかるが、それで助かる子供がおるなら、手伝わないと。
「それだけでもありがたいです」
 悪人面さんは丁寧に頭を下げて、私達を見送ってくれた。
 マルシェにはほぼ毎日通い、野菜やパンを購入した。特に黒たまねぎや高級トウモロコシだ。ブエルさんオススメの魚の屋台ではすでに顔見知りになった。ヒスイがにゃんにゃん鳴くと、かわいいと絶賛。どうやら夫婦揃って猫派のようだ。
「まあ、かわいいね。この子は別嬪さんだね」
「よしよし」
「にゃあ~」
 ヒスイが機嫌よく撫でられている。
「明日、首都を出ようと思っていまして」
「あら、そうなのかい?」
 おかみさんがヒスイを撫でながら驚いた顔。
「両親をマーファに残していますから」
「まあ、そうなんですか。なら、仕方ないね」
「秋にはまた来る予定ですので。秋の旬はなんですか?」
「そうだね、秋は青魚が脂がのって美味しいよ。それから牡蠣が時期だね」
「牡蠣ですか、いいですね。青魚もいいなあ」
 父が青魚が大好きなんだよね。母は白身魚が大好き。私はどちらも大好き。晃太は刺身にしたら青魚でも白身魚でも大好き。ちなみに牡蠣は両親は食べない、昔、中ったそうだ。
「なら、秋に待ってるよ、たくさんとっておくよ。ね、あんた」
「おう。おお、よしよし」
「にゃあん、にゃあん~」
 夫婦にもふもふされてヒスイは上機嫌。
 それからもあちこちで購入した。

 次の日。
 私達は首都の門の前にいた。
 わざわざ、オスヴァルトさんが見送りに来てくれた。職務だよね。
「ミズサワ殿、ブラックツナありがとうございました。皆で頂きました、ありがとうございます」
「いいえ、こちらこそ御世話になりました。また、秋のグーテオークション前には伺うと思いますので、その時はまたお願いします」
「はい、お待ちしています」
「サエキ様によろしくお伝えください」
「必ずお伝えします」
 ノワールに繋いだ馬車の馭者台に私とホークさんが座る。
「オスヴァルトさん、皆さん、御世話になりました」
「どうぞお気を付けてください」
「はい」
 こうして馬車は順調に発進した。
 今回は急ぐ必要がない。なので、トッパに寄ることにした。おそらく次回はこの町でしばらく留まり、フェリアレーナ様を待つことになる。
 トッパは温泉町だ。大きさはマーファの半分もないが、あちこちで白い煙が上がっている。作務衣的な服を着て歩き回る人達。温泉街や。
『何の匂いなのですか?』
『本当、何か腐ったような感じする匂いだけど、何かしら?』
「硫黄やね。温泉あるんよ。慣れるよ」
 到着したのは早い時間だけど、せっかくだし一泊することに。
 ノワールも大丈夫な温泉付きの一軒家タイプを選ぶ。
 トッパはユリアレーナでも有名な湯治をする町らしく、かなり賑わっている。様々な人達が、体を癒すために訪れていると。宿はいくつかタイプがあり、食事付きのペンションや民宿みたいなものと、食事のない一軒家やコテージタイプだ。屋台や食事どころも充実している。
 私達は温泉を楽しんだあとに、街をぶらぶら。買い食いしてしまう。私は蒸しパンみたいのだ。ちょうどいいサイズ。中身はないが、生地が美味しい。あちち。他にも肉まんやあんまん的な物もあり、ビアンカとルージュがきゅるんとおねだりするので購入した。一個ずつね。晃太を始め男性陣は肉まん、エマちゃんとマデリーンさんと仔達は蒸しパン。観光なんて久しぶりで、うろうろしたが、ビアンカとルージュがいたので半端なく目立っていた。
 その日はゆっくり温泉を楽しみ、マーファから両親も来て、温泉を堪能した。今度は皆でノワールの馬車で堂々と来たいなあ。
 トッパを出た後もトラブルなくディラに到着。流石ノワール、普通の倍以上のスピードだ。ゆっくりで良いと言ったけど、ブヒヒン、と爆走。
 無事にディラでも一泊しようと言う話になったので、冒険者ギルドで到着報告の為に、ホークさんと並んでいると、ビアンカとルージュが注意してきた。
『誰か来るのです』
『敵意なし。焦っているわね』
「なんやろ?」
 振り返ると、ギルドの制服を着た中年男性が近付いてきた。
「テイマーのミズサワ様でお間違いないですか?」
「はい」
 男性は丁寧だが、顔にはあまり余裕がない。
「お願いしたいことがありまして、お話だけでも聞いて頂けないでしょうか?」
 うーん、嫌な予感。
 でも、いろんな人達がみてるし、仕方ない。
「お話だけでしたら」
「ありがとうございます」
 応接室に案内してもらう。全員は流石に入れず、私と晃太とビアンカとルージュとホークさん。ギルドの外、ノワールの側でおねむな仔達をチュアンさん達が見てくれている。
 ソファーに座ると、早速中年男性が話を切り出す。
「ミズサワ様、我々ディラのギルドからお願いがあります」
 うん、嫌な予感。
 なんでも数ヶ月後に行われるフェリアレーナ様の輿入れ行列の為に、街道の安全確保をするために近くにある魔の森の魔物駆除が行われていた。元々時期的にしなくてはいけなかったので、今年は更に念入りにしていたら、中堅の冒険者パーティーがゴブリンの集団と遭遇。何とか撃退して全員帰ってきたが、負傷者多数。今、教会の神父と優秀なヒーラーでもある冒険者ギルドマスターが治療にあたり、落ち着いていると。
「彼らの話を聞きますと、まだ魔の森の奥にも気配があるそうで。それでミズサワ様にご助力頂けないかと」
 はい、嫌な予感的中。
 あはははん、緑のGか、いややあ。
「今は被害は遭遇した彼らだけですが、ゴブリンは繁殖力が強く人的被害が酷すぎます。確かにフェリアレーナ様の輿入れの件もありますが、私共としましては、街道を利用するすべての人達の安全を確保し、ディラの住民の安全を守りたいのです。どうかご助力を」
 そうやった、Gは人的被害が酷かったね。
 私はちらりと振り返る。
「ビアンカ、ルージュ、なんとかなる?」
『嫌なのです』
『そうね、臭いわ』
「そう来ると思ったよ」
 前回もそうだったなあ。
 ビアンカは後ろ足で耳をかいかい、ルージュは毛繕い。全く興味なし。私は息を吐いて、中年男性と向き合う。
「具体的にはどうすれば?」
「巣の有無の確認。もし、あれば規模を確認し、殲滅作戦を立てます
ミズサワ様には調査と殲滅作戦時のご助力を」
 魔の森の中ならビアンカの出番だ。ルージュの気配感知も優秀だし。
「ビアンカ、ルージュ」
『嫌なのです、ゴブリンは臭いのです』
『せっかくきれいにしているのに、嫌だわ』
 ぷぷいのぷい、みたいな。
「はあ、姉ちゃん、焼き肉にしちゃらんね?」
 ため息混じりで晃太が耳打ち。
「そうやね」
 あんまりしたくないけど、食べ物で釣るか。
『チーズタッカルビも食べたいのです』
『エビもね』
『生姜焼もいいのです』
『貝柱もバター焼きがいいわ』
『ピリ辛のやつもです』
『ハーブって言うのが入っているのもよ』
 リクエストの早かこと。耳打ち程度でもしっかり聞こえている。ふんがふんが言いながら迫ってくる。
『シーサーペントのお肉も焼いてなのです』
『そうね、あ、まだ、ドラゴンのお肉もあるわよね』
『甘いのもいいのです。あの赤い果実の乗った丸いケーキがいいのです』
『パリパリの皮に入った果実のやつもね』
『黄色い果実の乗ったパンケーキもなのです』
『丸くなってる、ロールケーキだったわ、それもね』
『プリンも食べたいのです』
『小さいのじゃなくて、お母さんの作る大きいやつね』
「あんたたち、それ全部食べたら後の1か月の食事どうなるかわかっとるよね? お母さん、容赦せんばい」
『焼き肉だけでいいのですッ』
『果実のケーキは丸いの1つでいいわッ』
「はいはい、ちゃんと準備するけん」
 私は迫るデカイ鼻面を押し返す。
「そのお話お受けします。もし、巣を発見してどうにかなりそうなら、対応してもいいですか?」
「はい、是非にお願いします。巣の位置の確認ができ、討伐証明を持ってきてさえもらえたら」
「はい。では明日、魔の森に調査に入ります」
 はあ、やっとマーファに帰れると思ったのに。仕方ない、Gの人的被害は酷いし、ゴブリンは放っておくとどんどん増えるしね。
「ホークさん、こんなことになりましたが、いいですか?」
「問題ありません。その為に俺達がいますので」
「ありがとうございます」
 こうして、魔の森の調査が決まった。
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