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首都でも、帰途でも③

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 甲板では復活した船員さんが走り回る。
 うん、魚臭い。
 シーサーペントは晃太のアイテムボックスに。冷蔵庫ダンジョンのボス部屋から出てくる中型サイズだ。
 後はクレイ鱒やアップルシーブルーブは分かるけど、これなんの魚かな? フグっぽいけど。
「そいつは猛毒ですから棄てますッ」
 船員さんが、見ていた私に注意して、銛で掬い上げるようにして海にリリース。危ない危ない。
 私達素人は引っ込んでおこう。元気とコハクはリード装着。遅いがな。
 ビアンカとルージュに水分補給させる。
 晃太はアイテムボックスがあるので、船員さんの指示で魚を入れている。
「あたたたた……………」
 そこにようやくブエルさんが復活。
「大丈夫ですか?」
「はい、何とか、なんでこんなに痛いんでしょうか…………」
 蹴り飛ばされたからね。オスヴァルトさんは知らん顔。
 元気がブエルさんをペロペロ。
「あぶぶぶ、あ、あはは、かわいいですね」
 ブエルさんが元気を撫で撫で。
 そこに船長さんがやってくる。
「テイマーさん、いいですか?」
「はい、何ですか?」
 これで帰るかな?
「無事にブラックツナが手に入りました」
 あ、やっぱり。あのテレビで見たことあるようなでっかい黒い魚、ブラックツナだったんだね。背鰭がノコギリのようにギザギザだ。
 よし、帰れる。
「久しぶりの500キロ越えです」
 うん、何匹もいる。
「良かったです」
「で、まだ、この先でもこれ以上獲れますか?」
 はいぃぃぃ?
『そうなのですね』
『まだ、大型なのがうようよいそうよ』
「しーッ」
「いるんですなッ」
 ギャーッ、しまったーッ。
「ほら船長さん、皆さん、ダメージが酷そうですから……………」
「野郎ども立てーッ、寝てる場合じゃねーぞっ。最高漁獲をおっ立てるぞーッ」
「「「「「イエッサーッ」」」」」
 船長さんの檄に立ち上がる船員さん。
「娘の花嫁衣装ーッ」
「しばらくはかーちゃんの尻に敷かれたくないーッ」
「借金返すぞーッ」
「「「おーッ」」」
 さっきまで伸びてたやんッ。
 船員さん達はきりきり動き出す。
「せ、船長さん、もう十分では?」
「何をおっしゃいますかっ」
 キラキラ、違う、ギラギラした船長さんが何を言ってんの? みたいな顔だ。
「漁獲量で俺達の稼ぎも違うんですよッ」
 うわあ、本音を隠しもしないで。
「これで労働奴隷から解放されるやつもいるんですッ、野郎ども、気合い入れろーッ」
「「「「イエッサーッ」」」」
「シーサーペントくらいなら、テイマーさん達が何とかしてくれるぞーッ」
「「「「イエッサーッ」」」」
 いや、何とか出来るやろうさ、うちのビアンカとルージュなら。
 妙にテンションの高い皆さん。
「さ、従魔様、こちらにどうぞ」
『気が利くのです』
 ビアンカが綺麗に拭かれた甲板に移動。
「さ、従魔様、こちらに」
『あら、さっきよりましね』
 舵を取る船員さんの顔つきが変わってるし。
 てか、帰らないね、こりゃ。
 私はビアンカにスピードを出さないように釘を再び刺した。

 2時間後。
 静かな漁場に到着。あははん、逆にこわか。陸が遠かなあ。
『ふう、疲れたのです』
 流石にずっと風魔法を調整していたビアンカが疲労している。晃太がお茶を出す。ルージュが厚めに魔法のカーテンを広げる。
『ユイ、お腹が減ったのです』
『そうね。お昼時間だわ。コハク達もお腹が空いたようだし』
「はいはい」
 昨日の内に母がお弁当やらなんやら準備してくれていた。
 船長さんにも声をかけると、皆さんも交代でお昼にするようだ。
 そうだ、さっきビアンカの暴走運転で迷惑かけたし、差し入れしよう。手で掴んで食べれる蒼空のサンドイッチにしよう。船長さんに一室借りて、ルームを開ける。ホークさんとチュアンさんが部屋の前でガード、ルームにはエマちゃんとテオ君にお手伝いで来てもらった。晃太とマデリーンさんとミゲル君にはビアンカとルージュ、仔達のお昼をお願いする。
「さてと、どんどん出すから、お皿に移してくれる?」
「「はーい」」
 シンクロして返事をする双子。かわいか。
 ダイニングテーブルに大皿2枚。
 私は液晶画面をタップタップタップ。
 カツサンド、カツカレーサンド、チーズチキンカツサンド、ハムとたっぷり野菜サンド、卵とハムと野菜のミックスサンド、海老カツサンド、白身魚のフライサンド、ローストポークサンド、ポテトサラダサンド。それぞれ×3。こんなもんかね。確か30人くらいのはず。エマちゃんとテオ君がびっしり並べてくれる。食べたそうだけど、母のお弁当があるからね。大皿をドアで待機してくれていたホークさんとチュアンさんに運んでもらう。
「船長さん、たくさん作ってあるので、良かったら皆さんで召し上がってください」
「こいつはありがたい。おーい、差し入れ頂いたぞーッ」
「「「「「イエッサーッ」」」」」
 わーッと集まる船員さん達。
「旨いッ」
「なんだこの茶色のソースッ、めっちゃ旨いッ」
「肉が柔らかいッ」
「卵がうめーッ」
 大好評だ。競うように食べてる。
 さ、我らもお昼だ。
 まず、私はオスヴァルトさんとブエルさんにハンカチで包まれた、ワッパのお弁当を渡す。
「え?」
「これは?」
「お弁当です。わざわざ付いてきてもらったのに、お昼くらい出さないと、私も心苦しいですから」
 どうぞどうぞ。
 オスヴァルトさんは職務だとお断りされそうだったが、せっかく作ったし、私の精神衛生上受け取ってくれた。お茶も出して、と。私達もお弁当配布。
「では、頂きます」
「「「「「いただきまーす」」」」」
 ハンカチ開けて、蓋を取る。ワクワク。まるで遠足気分でワクワク。魔の海域だけど、ビアンカとルージュいるしね。
 ぱかり。
 おお、母の渾身の作だ。
 おにぎりは例の高級トウモロコシ入り、それから白おにぎりだが、中身が何だろう? おかずは冷蔵庫ダンジョン上層階で出てきた猪肉の生姜焼、首都のマルシェのアスパラガスのベーコン巻き、ポテトサラダ、アップルシーブルーブのバター焼き、パプリカとじゃがいもとロブスターのチーズ焼き、首都のマルシェで手に入れた野菜の炒めもの。
 あら汁も準備してたけど、ビアンカとルージュが全部食べてしまった。仔達もお腹いっぱいのようだけど、私達のお弁当を覗き込む。
「ダメよ、さっき食べたやん」
『ねえね、ヒスイも、ヒスイも、にゃあ~』
「おなか、ぽんぽこりんやろうもん。ダメよ」
 かわいかけど、お腹、ぽっこりやねん。
 ヒスイは喋るけど、言葉になるのは半分以下。たまににゃあにゃあが混じったり、本人は喋っているつもりだけど、にゃあにゃあだけのこともあり、かわいか。
 まずは、高級トウモロコシおにぎりを、ぱくり。
 うわあ、甘い。だけど、まったく嫌みがない、これは子供でも、大人でも好きそう。アップルシーブルーブは変わらず旨味が広がる。他のおにぎりの中には、焼いたクレイ鱒がほぐされて入っていた。うん、美味しい。
「ユイさん、このトウモロコシのおにぎり美味しいッ」
 エマちゃんが満面の笑みだ。
「そうね、良かった。しっかり食べるんよ」
「はいっ」
「ホークさん、チュアンさん、それで足ります?」
 男性陣には大型のワッパのお弁当だけど。ホークさんもチュアンさんも大柄だしね。
「はい、十分です」
「どれも美味しいです」
 好評だ。
「ちょっと止めて元気君ッ」
「まだ、食べてないって」
 ミゲル君には元気が、テオ君にはコハクが弁当に顔を突っ込んでいる。ビアンカとルージュがリードを引いて引き離す。
「これはすべてミズサワ殿が?」
 オスヴァルトさんが生姜焼を食べながら聞いてくる。
「はい。母、のレシピです」
 思わず、母が、と言いそうになってしまう。危ない危ない。
「そうですか。どれも美味しいです。ミズサワ殿の母上は、下手なシェフでは太刀打ち出来ませんな」
「母が聞いたら喜びます」
 嬉しかことば言ってくれる。
 ブエルさんは無言で、ばくばく食べてる。
「テイマーさん、こちらもご馳走になりました」
 船長さんが、きれいに磨き上げられたお皿を返してきた。
「いやあ、本当にお料理が上手ですなあ」
「これは母がたくさん持たせてくれたんですよ」
「そうですか。是非にもお礼を言いたいですが」
「母達はマーファですので、伝えておきます」
「よろしくお伝えください」
「はい」
 お昼は大好評で終了した。
「ねえ、ユイさん」
「なあにエマちゃん?」
 片付けていると、エマちゃんがもじもじしながら聞いてきた。なんやねん、このかわいか生き物は。
「ケイコお母さんのハンバーグはいつ食べれるの?」
 もじもじ。かわいかね。
「材料が手に入ったらね」
「ずるいぞエマ、ユイさん、俺、唐揚げがいい」
 慌ててテオ君まで訴えてくる。もう、かわいかね。三十路女じゃなくても、クラッシュしそうや。きっと母もすぐに「よかよ~」と脊髄反射で言いそう。
「はいはい」
 もう、かわいかね。残念ながら、ハンバーグに必要な蓮根、唐揚げに必要な卵がない。今日帰ったら買いに走ろう。
「こら、エマッ、テオッ」
 ホークさんのお馴染みのこらが飛ぶ。
「まあまあ、こんな風に楽しみにしてくれていたら、作りがいがありますよ。エマちゃんもテオ君も成長期なんですから、しっかり栄養を付けないと」
 野菜と魚もバランスよくね。エマちゃんもテオ君もほとんど好き嫌いがないが、あの白いパプリカのように苦味のあるものはダメみたいや。まあ、もう少し大人になったら変わるかも知れない。わざわざ白いパプリカを出さなくても他で栄養取れればよかか。他の野菜はもりもり食べているからね。
 しばらく休憩して、いよいよビアンカとルージュによる漁が始まった。
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