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首都でも、帰途でも②

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 海上に野太い悲鳴が上がる。
 原因はそう、ビアンカの暴走運転だ。
 まずルージュが魔法のカーテンを、船に何重もかける。これで海でもかなり気配が消せるそうだ。それから舵を取る船員さんの後ろに立ち、方角を指示。鼻先でちょいちょいだ。船員さん、真っ青。ぶつぶつ何か言ってた。
「ごめんよ、野菜が嫌いなんて言って。お前の飯はいつも最高だったよ。ああ、かーちゃんをちゃんと支えるんだぞ、お前は姉ちゃんなんだからな。姉ちゃんに甘えてばかりはダメだぞ、野菜は食わないと……………」
 なんやねん。
 船員さんがどこまでも真剣なので、突っ込めず。
 私は鷹の目の皆さんや、船員さんや、オスヴァルトさんとブエルさんにどこかに掴まるように指示。絶対スピード出しそうだからね。
『いいのですか?』
「あんまり飛ばさんでよ。海に落ちたらケガじゃすまんのやけん」
『私がフォローするわ』
『じゃあ、行くのです』
「本当に、頼むよ」
 私はとりあえず縁に掴まる。
「わい、嫌な予感しかせん」
「偶然やね。私もや」
 やっぱり、船長さんの漁場が…………
『ふううぅぅぅぅッ』
 なんて思っている間にビアンカが風魔法を炸裂させる。
 で、飛んだ、船が。
 多分、完全に海面から浮き上がった訳ではないが、ぐわん、と船が浮く。それに伴い、私達の体も浮く。
「なぁぁぁぁぁぁぁッ」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁッ」
「おおおぉぉぉぉぉッ」
 私も悲鳴を上げる。
 ちょっとッ、ちょっとッ、ちょっとッ。
 がうん、がうん、がうん、と船が飛び石の様に飛ぶ。
 マストや帆が凄まじい音を立てる。
 ちょっとッ、待った待ったーッ。
 視界の隅で私はあり得ない光景を目にする。
 元気が転がっている。
 横にじゃなくて、縦に。まるでタイヤの様に、転がっている。
 なんのコメディやねんッ。
「ぎゃぁぁぁぁッ、元気ーッ」
 元気はそのまま固まって、お互いを支え合っていた船員さん達に直撃。まるでボウリングの玉が、ピンに直撃した感じ。ストライク。
 違う、違う、違う。
 そのまま、反動で海に落下しそうな船員さんを、ルージュが闇の触手を伸ばして、つり上げていく。
 別の悲鳴が上がる。
「助けてーッ」
 そうなりますよねッ。
 ギャーッ、私も縁から手が離れる。ホークさんが掴んで小脇に抱えてくれるから、何とかなるが、ホークさんの顔にまったくの余裕がない。チュアンさんにはエマちゃんとテオ君がしがみついている。そして腕にはマデリーンさん。あら、ミゲル君は? あ、つり上げられてるっ。
「ち、ちょっとッ。ビアンカッ、スピード、落としてーッ」
 私は悲鳴を上げた。

「ちょっとビアンカさんッ。あんまり飛ばさんでって言ったよねッ?」
『加減したのです』
「あのね、船が浮き上がるくらいまでせんでよかっ。元気が危なかったやんッ」
『私がフォローしたわ』
「だまらっしゃいッ」
 私はきーきー吠える。
 甲板の上に転がる船員さん達。そしてブエルさん。ブエルさんは海面すれすれまで落ちたそうで、もれなくつり上げられていた。他にも闇の触手でつり上げられた船員さんは半分気絶してるし。
 皆さんに謝罪やら、介抱やらでおおわらわだ。もう。
 元気は転がっていたのに、まったく動じてなくて、倒れている船員さんをペロペロしてる。
 オスヴァルトさんがどこから出したのか、ハンカチでブエルさんの顔に風を送ってる。
「しっかりしろ、これしきの事で」
 いや、オスヴァルトさん。結構怖かったはずですよ。
 この中でまともに立っているのは、船長さんとベテランの船員さん、オスヴァルトさんと、ホークさんとチュアンさんだけ。晃太はルリとクリスを両手で抱えて座り込んでいる。コハクは少しうろうろ、ヒスイは私の足元。で、私は膝がガクガク。ホークさんに支えてもらってビアンカとルージュを叱る。
『でもユイ、まだ少し先なのです』
『そうね、あと半分まではないわよ』
「あのね、そういう問題やないのよ? これどうするん?」
 私は気絶者を示す。
「落ちたらケガじゃすまんのよ?」
 私の形相がおかしかったのか、ビアンカとルージュが流石にひく。
『わかったのです、スピードを落とすのです』
『そうしましょう』
「進まない選択はないんかい」
 私の突っ込みは2人に届くわけない。
「ユイさん、まだ行くの?」
 ちょっと半泣きのエマちゃん。
 そうだよね。
 ミゲル君はぐったりして、チュアンさんとマデリーンさんが介抱している。
「帰ろうか?」
『何を言っているのです?』
『そうよ、せっかくここまできて。ブラックツナ、美味しいのでしょう?』
『そうなのです、食べたいのです』
「あのね…………」
 確かにさ、食べたいけどさ、晃太と父が楽しみにしてるけどさ。
 どうしよう。船長さんと相談しようかな?
 ん?
 ビアンカとルージュがおらん。
 二人して海を覗いている。
 嫌な予感。
「危なかよ?」
『あ、ユイ、大丈夫なのですよ。今、下にいろいろいるのです』
『ちょっと肩慣らしするから、心配しないで』
 はい、嫌な予感的中ッ。
「ちょっと待ってん、お二人さんッ」
 止めてみたが、間に合うわけない。
『拘束モード 闇の束縛者(ウブラ・カウティーラ)』
 流石神様のブースト、あっという間にルージュの体にゼブラ模様が浮かび上がる。
「ユイさん、あれは?」
 支えてくれているホークさんが固まっている。
「ルージュの魔法ですけど…………」
 説明しようとする前に、何十本もの闇の触手が、海に突き刺さっていく。多分、何をするか予想できるけどさ。
『いいわッ、ビアンカッ、上げるわよッ』
『任せるのですッ』
「皆さん、船内に避難をーッ」
 私は遅い避難勧告。
 だけど、遅かった。
  ザッパーンッ
 次々に闇の触手でつり上げられていく魚達。いや、魚やないのがおる。
「ヘビーッ」
「シーサーペントですよッ、ユイさん下がってッ」
 ホークさんが私を後ろに下げて、矢を構える。オスヴァルトさんも戦闘体勢だ。足でブエルさんを蹴飛ばしている。あれ、きっとブエルさんを安全な場所に移動させるためよね。
『ふんっ、ふんっ、ふんっ、ふんっ、ふんっ』
 ビアンカの恐ろしい鼻息炸裂。細い水の矢が、次々に魚を貫通していく。せっかく矢を構えたホークさん、微妙な顔だ。
『いけないのです、コウタの支援魔法のレベルアップを忘れていたのです。あれはお前がやるのです』
 と、ビアンカがホークさんに言うが、ホークさんはビアンカの言葉がわからないから首を傾げる。
 シーサーペント、闇の触手でぐるぐる巻きにされて動けない様子。だけど、甲板は大騒ぎよ。止めを刺された魚を、ポイポイ運ばれてきて。船員さん、大騒ぎよ。なんやねん、なんで皆でっかいの? 下手したら3メートル越えがゴロゴロいるんやけど。
「ユイさん、ビアンカさんはなんと?」
「あー、シーサーペントはお譲りしますって。晃太ー、ホークさんに支援ばー」
 晃太は、ぶつぶつ、蛇はいやや、と繰り返しながらホークさんに支援。
「晃太、蛇にもダウンば」
「ああ、いやや」
 そう言いながらも、シーサーペントにデバフを連発。
「これが支援魔法ですか」
 ホークさんが感心しているが、その向こうでオスヴァルトさんがデバフをしている晃太に注目している。
『さっさとするのです。せっかく集まってる魚が逃げるのです』
「ホークさん、どうぞー」
 気を取り直して、ホークさんが矢を2本つがえて放ち。多分、首?に見事に命中し、生木の折れる音が鳴る。シーサーペントの頭がぐらり、と力なくぶらり。すごい一撃。
「流石ですホークさんッ」
 すごか、流石元弓士。
「いやいやいやいや、俺の純粋な力じゃないですって、コウタさんの支援ですって」
 そう言っている間にも、次々魚が闇の触手により釣られていく。そしてビアンカがふんふん鼻息連発。
 これって入れ食いっていうのかね?
 次々魚が上がっていく。
 あ、いかん。
「ストップストップッ、甲板が抜けるーッ」
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